急性灰白髄炎
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他にも歴史的ポリオ治療法として水療法電気療法、マッサージと受動運動、腱伸長法や神経移植などの外科療法などが行われた[7]
予後ポリオのために右足が変形した子供。

不全型ポリオの場合、患者は完全に回復する。無菌性髄膜炎のみに終わった場合、症状は2日から10日継続するが、これも完全に回復する[44]。脊髄ポリオの場合、ポリオウイルスの影響を受けた神経細胞が完全に破壊されると、麻痺は永続的となる。一方で神経細胞が破壊されず、一時的な機能不全に陥った場合は発症後4から6週間で回復する[44]。脊髄ポリオ患者の半分は完治し、四分の一が軽度の障害を持ち、残りの四分の一は重度の障害が残る[45]。急性期の麻痺も生涯にわたる麻痺も、その重篤度はウイルス血症の度合いに比例し、かつ免疫の強度に反比例するようである[30]。脊髄ポリオが死に至る事は珍しい[31]

呼吸の補助が無い呼吸器症状を伴う急性灰白髄炎の帰結は窒息分泌物の吸入による肺炎を含む[43]。麻痺型ポリオ患者全体で5 - 10 %の患者は呼吸筋の麻痺が原因で死に至る。致命率は年齢によって異なり、小児で2 - 5%、成人で15 - 30%までの患者が死亡する[2]。延髄ポリオは呼吸補助が無いとしばしば死を招く[38]。呼吸補助があれば致命率は患者の年齢によって25から75%の幅をとる[2][46]。間欠性陽圧呼吸器が利用できれば致死率は15%まで低下しうる[47]
回復

急性灰白髄炎の麻痺は多くの場合一時的なものである[7]。麻痺していた筋への神経刺激は1ヶ月以内に復活し、通常6から8ヶ月で完全に回復する[44]。麻痺型急性灰白髄炎の回復に関する神経生理学的行程は完全に効果的であり、元々の運動ニューロンが半分失われたとしても筋肉は正常な機能を維持できる[48]。感染後12から18ヶ月後に筋力がわずかに回復する事もあり得るが、麻痺が1年経過してもなお継続する場合は永続的な麻痺になるようである[44]

ポリオからの回復に関わる修復機構の一つに神経終末端の発芽がある。この機構によって脳幹や脊髄の運動ニューロンは新たな枝分かれや軸索発芽を構築する[49]。新しい分岐はポリオ感染の急性期に神経支配を失った筋繊維に再び神経刺激を与える事ができ[50]、筋繊維は収縮能力を回復して強度を改善できるようになる[51]。終末端の発芽は数本の著しく肥大した運動ニューロンを生み出し、肥大した運動ニューロンは以前の4から5倍の仕事をこなす[32]。例えば、ある運動ニューロンが元々200本の筋繊維を支配していた場合、その運動ニューロンは800から1000本の筋繊維を支配するようになる。リハビリの段階において生じ、筋力の復元に寄与する他の回復機構として、運動による筋繊維肥大と、II型筋繊維I型筋繊維への変換がある[50][52]

以上のような生理学行程に加え、生体は麻痺の後遺症を持っていても機能を維持するために代償機構を数多く持っている。代償機構には弱い筋を本来の収縮能力を超えて用いたり、元々あまり使われない筋の運動能力を成長させたりする事が挙げられる[52]
後遺症

麻痺型ポリオにおいて、後遺症となる合併症は、回復期の最初の段階に続いて発生する[6]。筋の不全麻痺と麻痺は骨格の変形、関節の拘縮、運動障害を生じる事がある。一旦四肢の筋が脱力状態に陥ると、他の筋の機能までを妨害する。この他の筋の機能妨害によって生じる典型的な徴候が尖足(内反足に似た状態)である。尖足のような骨格の変形は、つま先を下に下げる筋(底屈)が働く一方でつま先を挙げる筋(背屈)が働かない時に発生し、足は自然と倒れ込むようになる。この変形が治療されず放置されると背側のアキレス腱が収縮し、足を正常な位置に置く事ができなくなる。内反足に至ったポリオの犠牲者はかかとを接地できず、普通の歩き方ができない。また、同様の現象は腕の麻痺でも生じうる[53]。患者によってはポリオの影響を受けた脚の成長が阻害され、反対側の脚が正常に発育する事もある。結果的に一方の脚がもう一方の脚に比べて短くなり、患者は片側に傾きながら脚を引きずる。そして脊椎側彎症のような脊椎の変形に至る[53]
ポストポリオ症候群詳細は「ポリオ後症候群」を参照

幼少期において麻痺型ポリオを発症した人の25%から50%は急性症状の回復から数十年後に、特に新たな筋力低下や極度の倦怠感などのさらなる症状を発現する[54]。この状態はポストポリオ症候群(PPS、ポリオ後症候群)、ポストポリオ後遺症として知られる[55]。ポストポリオ症候群の症状は麻痺型ポリオの回復期に形成された過剰に肥大した運動単位の失調が関与していると考えられている[56][57]。ポストポリオ症候群のリスクを増大する寄与因子には運動単位の喪失を伴う加齢、急性期からの回復後に残った後遺症の存在、神経の過剰使用と無使用の両者が含まれる。ポストポリオ症候群はゆっくりと進行する病気で、これに対する特異的な治療法は存在しない[55]。ポストポリオ症候群は感染によって起きるものではなく、この症状を発現した人はポリオウイルスを排出しない[2]
予防経口生ポリオワクチンを投与される子供詳細は「ポリオワクチン」および「四種混合ワクチン」を参照

経口生ポリオワクチン(3価又は1価)又は不活化ポリオワクチン(3価)の接種が、唯一の予防法である。野生株流行時はワクチンが予防効果を発揮する。生ワクチンでは弱毒化した生きたポリオウイルスそのものを接種して感染させるため、ワクチンウイルス感染による麻痺性ポリオ発症が100万分の1の割合で生じる。

ポリオは、ウイルスが中枢神経に感染することによって引き起こされるので、ホルマリン処理されウイルスが生きていない不活化ワクチンを接種してもポリオは発症しない[58]

野生株によるポリオ感染が無くなった地域・国家では、麻痺を起こさない、より安全な不活化ワクチンへ移行している[59]

日本では、2012年(平成24年)9月1日に生ポリオワクチンの定期予防接種は中止され、単独の不活化ポリオワクチンが導入され、2012年(平成24年)11月1日からは、四種混合ワクチンジフテリア百日咳破傷風・不活化ポリオ)が導入された。不活化ポリオワクチンは、初回接種3回、追加接種1回、合計4回の接種が必要である[60]

ポリオは、1988年の世界保健機関(WHO)総会において、2000年までの根絶が決議されたが、2019年現在で1型と3型ポリオは根絶されていない状況である[61]。根絶計画により流行地域は非常に狭まっている。WHOが2020年にアフリカ大陸での根絶を宣言し、この時点で野生株によるポリオ常在国はパキスタンアフガニスタン[62]。となっている。しかし、渡航者などによる飛び火で、周辺国でも報告例が相次いでいるので、感染症情報には常に注意を要する。

日本では、厚生労働省検疫所が、ナイジェリア、パキスタン、アフガニスタンおよびその他の流行地への渡航者に対して、追加接種を推奨している[63]。WHOの推奨では、この追加接種は、経口生ポリオワクチンか不活化ポリオワクチンの接種を3回完了していることが前提である[64]


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