心不全
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そのため、このどちらかでも異常が発生すれば循環不全を起こす[9]

循環器系には体の各臓器への血液量を維持する働きがあり、心臓機能の異常による送量低下を神経系や分泌系が捕らえて機能を補償する代償機構が働き、心臓は送量低下を補うため肥大したり、心拍を早める。臓器へ送られる血流が低下することで、臓器の機能不全が進行する。また還流が悪くなることで臓器内の血液鬱滞(鬱血)を起こす。根本的な原因は心臓にあるが、症状は臓器の経過的な機能不全による影響でまず露呈する。

心不全の症状は、主に鬱血によるものである(鬱血性心不全)。左心と右心のどちらに異常があるかによって、体循環系肺循環系のどちらに鬱血が出現するかが変わり、これによって症状も変化する。このことから、右心不全と左心不全の区別は重要であるが、進行すると両心不全となることも多い。

治療は、致命につながる急性症状の除去、心臓機能の回復、心臓機能を悪化させている原因の特定と排除となる。

また、治療内容の決定に当たっては、急性心不全慢性心不全の区別も重要である。急性心不全に当てはまるのは例えば心筋梗塞に伴う心不全であり、慢性心不全に当てはまるのは例えば心筋症弁膜症に伴う心不全である。

念のため付け加えると、急性心不全が終末期状態としての心不全を指しているわけではない(急性心不全は治療により完全に回復する可能性がある)。心臓の収縮機能は正常であるが拡張期機能が低下した心不全 (HF-PEF) の病態の把握や治療方法の確立が急がれている。
原因部位と急性慢性の判別法
左心不全と右心不全の区分

心不全を来たす原因が、主に左心室の機能不全によるものなのか、右心室の機能不全によるものなのかによって、心不全を

左心不全(さしんふぜん、Left Heart Failure)

右心不全(うしんふぜん、Right Heart Failure)

の2種類に大別する方法である。厳密に区別することができない場合も多いが、病態把握や治療方針決定に有用であるため、頻繁に使用される概念である。

左心不全右心不全
鬱血による
所見左房圧上昇による肺鬱血中心静脈圧上昇による静脈鬱血


急性肺水腫(労作時呼吸困難や
起座呼吸、湿性ラ音など)

左房圧上昇

心係数低下


下腿浮腫

静脈怒張

肝腫大

心拍出量低下
による所見

血圧低下

全身倦怠感

尿量減少

尿中Na排泄量減少


肺血流量低下による心拍出量低下

その他の所見

心濁音界の拡大

III音、IV音(奔馬律)

交互脈は兆候
[10]

左心不全

左心不全は、左心系の機能不全にともなう一連の病態のことである。左心系は体循環を担当することから諸臓器の血流低下が発生するほか、心拍出量低下による血圧低下、左房圧上昇による肺鬱血が生じる。肺鬱血は、肺が左心系の上流に位置することから出現するものである。

血圧低下の症状
頻脈、チアノーゼ、尿量低下、血圧低下、手足の冷感、意識レベルの低下

肺鬱血の症状
肺高血圧胸水労作時呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、咳嗽チェーンストークス呼吸、湿性ラ音など

胸部X線画像においては、

心陰影の拡大

肺鬱血

Kerley'S B Line

が見られる。

左心不全は、さらに肺血流の停滞を経由し、右心系へも負荷を与えるため、左心不全を放置したとき、右心不全を合併するリスクが高くなる。特に心不全における呼吸困難は、横になっているよりも座っているときの方が楽である、という特徴を持つ。これを起座呼吸(きざこきゅう、Orthopnea)という。

右心不全

右心不全は、右心系の機能不全にともなう一連の病態のことであり、静脈系の鬱血が主体となる。この場合、液体が過剰に貯留するのは体全体、特に下肢であり、心不全徴候としての下腿浮腫は有名である。そのほか、腹水、肝腫大、静脈怒張など、循環の不良を反映した症状をきたす。

右心不全の多くは、左心不全に続発して生じるかたちとなる。左心不全で肺鬱血が進行し、肺高血圧をきたすまでに至ると、右室に圧負荷がかかり、右心不全を起こす。治療薬にコルホルシンダルパートがある。

右心不全のみを起こすのは、肺性心、肺梗塞など、ごく限られた疾患のみである。
急性・慢性心不全の区別

急性・慢性心不全の区別は、主として、治療内容の決定に使用される。
急性心不全

急性心不全においては、心機能の低下が代償可能な範囲を上回り、急激な低下を示すことから、血行動態の異常は高度となる。なお、左心不全が多い。

症状としては、呼吸困難、ショック症状といった急性症状が出現する。

治療方針としては、血行動態の正常化を図る(心臓負荷を軽減し、心拍出量を増加させる)ことが優先され、強心薬、大動脈バルーンパンピング(IABP)、経皮的心肺補助装置(PCPS)、左室人工心臓(LVAD)、Impellaなどが補助循環治療の選択肢となる。
慢性心不全

長期にわたって進行性に悪化するため、代償された状態が長期間持続したのちに破綻する。これによって、収縮能および拡張能は低下し、また、代償機構の破綻によって、増大した体液が貯留することとなる。

この結果、倦怠感と呼吸困難の持続が出現し、運動耐容能が低下する。

治療は、心機能の改善やQOLの向上と生命予後の改善を目的として、自覚症状の軽減を主眼とするものとなる。
診断と重症度区分


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