心不全
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長期にわたって進行性に悪化するため、代償された状態が長期間持続したのちに破綻する。これによって、収縮能および拡張能は低下し、また、代償機構の破綻によって、増大した体液が貯留することとなる。

この結果、倦怠感と呼吸困難の持続が出現し、運動耐容能が低下する。

治療は、心機能の改善やQOLの向上と生命予後の改善を目的として、自覚症状の軽減を主眼とするものとなる。
診断と重症度区分[ソースを編集]

前述のような臨床症状から疑われ、心エコー検査によって診断される。エコーによって、心不全の原因疾患の検索がなされ、心臓の動きは十分か、拍出量がどの程度かなどを定量的に把握することができる。胸部X線写真心電図脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)などの血液生化学検査が参考になることもあるが、通常はエコーが最も多くの情報をもたらす。観血的には肺動脈カテーテルを挿入し心拍出量や肺動脈楔入圧(PCWP)、中心静脈圧(CVP)の測定を行う。
心不全の重症度分類・ステージ区分[ソースを編集]

心不全の病期(重症度・ステージ)分類には臨床症状から分けた分類、カテーテルによる計測値から分けた分類などさまざまな分類がある。
NYHA分類[ソースを編集]

NYHA分類(ニーハ分類、ナイハ分類とも、(: NYHA Classification)は、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association, NYHA)が定めた心不全の症状の程度の分類で、心不全の重症度を以下のように4種類に分類するもの。簡便であるためよく使用される。

NYHA I心疾患があるが症状はなく、通常の日常生活は制限されないもの。

NYHA II心疾患患者で日常生活が軽度から中等度に制限されるもの。安静時には無症状だが、普通の行動で疲労・動悸・呼吸困難・狭心痛を生じる。

NYHA III心疾患患者で日常生活が高度に制限されるもの。安静時は無症状だが、平地の歩行や日常生活以下の労作によっても症状が生じる。

NYHA IV心疾患患者で非常に軽度の活動でも何らかの症状を生ずる。安静時においても心不全・狭心症症状を生ずることもある。

キリップ分類[ソースを編集]

キリップ分類(Killip Classification)は、Thomas Killip III らが提唱した分類で、急性心筋梗塞での心機能障害の重症度を分類したものである。したがって全般的な心不全の分類とは若干その趣意を異にするところがある。

Killip Iポンプ失調(?)、心不全なし

Killip II背面1/2で湿性ラ音、軽症心不全(ラ音、III音、頸静脈怒張)

Killip III全肺野で湿性ラ音、肺水腫

Killip IV心原性ショック

フォレスター分類[ソースを編集]

フォレスター分類(Forrester Hemodynamic Subsets)は、James S. Forrester III らが提唱した分類で、カテーテルによる計測値を使った分類である。治療法との相関で実際の現場ではよく使われる分類法であるが、カテーテルを挿入しないと計測できないといった不便さがある。

Forrester IC.I. > 2.2、PAWP < 18

Forrester IIC.I. > 2.2、PAWP > 18

Forrester IIIC.I. < 2.2、PAWP < 18

Forrester IVC.I. < 2.2、PAWP > 18

フォレスター分類肺動脈契入圧
18以下18以上
心拍出
係数2.2以上III
2.2以下IIIIV

ノーリア分類[ソースを編集]

ノーリア分類(Nohria's Classification)は、Anju Nohria らが提唱した分類で、フォレスター分類のカテーテルを挿入しないと計測できないといった不便さを改善したものである。

Nohria Adry - warm: 低灌流所見なし、鬱血所見なし

Nohria Bwet - warm: 低灌流所見なし、鬱血所見あり

Nohria Ldry - cold: 低灌流所見あり、鬱血所見なし

Nohria Cwet - cold: 低灌流所見あり、鬱血所見あり

ノーリア分類鬱血所見
なしあり
組織灌流
の低下なしA
warm - dryB
warm - wet
ありL
cold - dryC
cold - wet


低灌流所見 ("Cold") - 末梢まで血液が行きわたっていない状態、つまり四肢が冷たいといった所見

鬱血所見 ("Wet") - 肺鬱血の所見、つまり夜間呼吸困難、起座呼吸、Kerley B Line(+)といった所見である。

クリニカルシナリオによる分類[ソースを編集]

クリニカルシナリオ(CS) 分類[11]においては、まず来院直後の sBP をもとに下記の3分類、また明らかに治療戦略の異なるものを独立させて、合計5分類を行なう。
CS1[ソースを編集]

血圧が高いタイプで、sBPは140mmHgより上である。急激な呼吸困難、肺水腫(Flash)が主病態となり、胸部X線写真上、心臓は拡大していないことも多い。高血圧によるものが多く、ある日突然に息苦しくなる。

治療としては、まず血管拡張薬の投与が行なわれる。

CS2[ソースを編集]

血圧が大きく変化しないタイプで、sBPは100 - 140mmHgである。症状は比較的緩徐に悪化し、末梢浮腫が主病態となる。胸部X線写真上、心拡大が認められる場合が多い。

治療としては、まずhANPや利尿薬の投与が行なわれる。

CS3[ソースを編集]

血圧が低下するタイプで、sBPは100mmHg未満となる。症状は急激な場合と緩徐に悪化する場合があり、低灌流が主病態となる。重度の慢性心不全、低心拍出量が基礎にある。

治療としては、まず強心剤投与と輸液が行なわれる。

CS4[ソースを編集]

急性冠症候群 (ACS) によるものである。

治療はACSのそれに準じる。

CS5[ソースを編集]

右心不全を来たしているものである。

sBPが90以上で慢性全身体液貯留があれば利尿薬が考慮され、sBPが90未満では強心薬が投与される。sBPの改善が認められなければ血管収縮薬が考慮される。

治療[ソースを編集]

原則として、静脈鬱滞を改善するには利尿薬が、心臓の拍出量改善のためには強心薬が使われる。その他血管拡張薬を併用することもある。遺伝子組み換えヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド (HANP) も用いられる。ただし、心不全は様々な原因によって起こるので、原疾患によって治療法も大きく異なる。

心不全の予後を改善する目的として、交感神経β受容体遮断薬アンジオテンシン変換酵素、また利尿薬の一つであるスピロノラクトンなどの抗アルドステロン薬の併用による治療が推奨されている[12][要ページ番号]。
原因の疾患ごとの予後[ソースを編集]

原疾患によって治療方針が大きく異なる。一般的には、心不全に対して適切な治療がなされていれば、長期生存も可能である。

心臓弁膜症 - 重症であれば手術など。

不整脈 - 薬物治療やカテーテルアブレーションなどが行われる。

脚気 - ビタミンB1の投与で劇的に改善する。

急死時死因の誤魔化し利用[ソースを編集]
死因不明時記載と利用禁止[ソースを編集]

病理学上「心不全」は病名ではなく、「心臓の機能が不十分状態」「心臓の機能喪失状態」という病態(容態)の意味でしかない。かつては、急死した者の死因がなかなか特定しにくい場合に、時間上の制約を理由に検死報告書などに便宜上「急性心不全」と記載することが見られた。そのため、1990年に神戸大学の溝井泰彦教授の調査チームは、監察医制度がない地域の死因に心不全が突出しており、原因不明の場合ほとんどが急性心不全で処理されている可能性の高さを指摘している[注釈 1][注釈 2]死亡診断書死因を「心不全」とすることは原則禁止となり、病理学上の実際の死因(いかなる疾患や症状が心不全・心拍呼吸停止に至らせたのか)が記載されるようになった[3][5]
報道関係者の誤用・急死における死因隠蔽時利用[ソースを編集]

どうしても死因が不明だった時だけでなく、医師や関係者が死因を意図的に隠したい時、又は実際の死因の詳細を話すべきでは無いと判断した時に「死因は(急性)心不全」と言うことがある。マスメディアも「心不全を死因」と誤用をした報道をしている場合が多々見受けられる[14][15]。逆にきちんと意味が分かっている記者の場合は、「人間最後は心臓が止まる。すわなち心不全だ」とし、「死因は心不全」と遺族や所属先から言われた際にはガンなどの難病を患っていた場合や自殺した場合など「世間に知られたくない死因」として隠している可能性があるので気をつけるように注意している。後輩記者として注意するように言われた、元時事通信社相場英雄は暴力団系企業とトラブルを抱える一代成り上がり社長が心身疲労で自殺した際に、亡くなった社長の企業が体裁を守るために公表したままにマスメディアが「死因は心不全」と報道したことを明かしている[15]。特に著名人の死においては、病名では無いために死因とはならない「(突然の)心臓の機能喪失状態」を意味する(急性)心不全を死亡発覚当初に「死因である」と公表・報道されることがある。そして、後になって遺族や関係者などから実際には自殺や薬物過剰摂取による事故死だったという事実が明かされる例が時折見られる[注釈 3][注釈 4][3]

2007年6月26日に大相撲時津風部屋に新弟子として在籍していた序ノ口力士・時太山(ときたいざん)が、愛知県犬山市の宿舎で暴行(私刑)を受け死亡したことで角界を揺るがせた時津風部屋力士暴行死事件の際に利用されたことも話題になった。搬送先の病院側は死因を「心不全」とし、愛知県警は「虚血性心疾患」と発表した。


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