復活の日
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生き残ったのは、南極大陸に滞在していた各国の観測隊員約1万人と、海中を航行していたために感染をまぬがれた原子力潜水艦[注 4]のネーレイド号(アメリカ海軍)、そしてT-232号(ソ連海軍)の乗組員たちだけであった[注 5]。過酷な極寒の世界がウイルスの活動を妨げ、そこに暮らす人々を護っていたのである。南極の人々は国家の壁を越えて結成した「南極連邦委員会」のもとで再建の道を模索し、種の存続のために女性隊員16名による妊娠・出産を義務化したほか、アマチュア無線で傍受した医学者の遺言からウイルスの正体を学び、ワクチンの研究を開始する。

4年後、日本観測隊の地質学者の吉住(よしずみ)は、旧アメリカアラスカ地域への巨大地震の襲来を予測する。その地震をホワイトハウスに備わるARS(自動報復装置)が敵国の核攻撃と誤認すると、旧ソ連全土を核弾頭内蔵ICBMが爆撃することや、それを受けた旧ソ連のARSも作動し南極も爆撃される公算の高いことが判明する。吉住とカーター少佐はARSを停止するための決死隊としてワシントンへ向かい、ホワイトハウス地下の大統領危機管理センターへ侵入するが、到着寸前に地震が発生したためにARSを停止できず、その報復合戦で世界は2回目の死を迎える。しかし、幸いにも南極はソ連の攻撃対象とされておらず、中性子爆弾の爆発によってMM-88から無害な変種が生まれ、皮肉にも南極の人々を救う結果となる。

6年後、南極の人々は南米大陸南端への上陸を開始し、小さな集落を構えて北上の機会を待っていた。そこに、服が千切れて髪や髭はボサボサという、衰弱した放浪者が現れる。それは、ワシントンから生き延びて徒歩で大陸縦断を敢行してきた吉住だった。核弾頭ミサイルによる放射線照射を脳に受けたことで精神を病みながらも仲間のもとへ帰ろうとする一念で生還した吉住を、人々は歓呼で迎える。被災地に多くの文明の遺産が残っているおかげで、人類社会の再生は原始時代からのやり直しよりも遥かに迅速なものとなるという希望に満ちた見通しとともに、物語の幕は下りる。
用語
MM-88
アメリカの
人工衛星が宇宙空間から持ち帰った微生物をもとに、フォート・デトリックアメリカ陸軍感染症医学研究所の通称)で生物兵器として研究されていた原種「RU-308」をイギリスに持ち出し、ポーツマス近郊の英国細菌戦研究所でグレゴール・カールスキィ教授が継代改良した88代目の菌種。MMはMartian Murderer(マーシアン・マーダラー、「火星の殺人者」の意)の頭文字、88は継代改良した菌種を意味する。絶対低温・絶対真空の宇宙空間に存在していたMM-88は増殖・感染する核酸のみの存在[注 6]であり、ブドウ球菌に似た特定の球菌を媒介としてインフルエンザウイルスを含むミクソウイルス群に寄生し、宿主となるウイルスの増殖力・感染力を殺人的に増加、大規模な蔓延を引き起こす。体内に侵入すると神経細胞染色体に取り付き、変異を起こした神経細胞は神経伝達物質の生成と伝達を阻害、感染者は急性心筋梗塞のような発作によって死亡するか、急性全身マヒに陥って死亡する[注 7]。地球環境では摂氏マイナス10度前後から萌芽状態にもかかわらず増殖し、マイナス3度以上だと100倍以上、毒性を持ち始める摂氏5度以上ではマイナス10度段階の20億倍の速度と強烈な増殖率と、MM-88はレガシーのMM-87比で2000倍の毒性を獲得していた。カールスキィは増殖率・感染率・致死率が高すぎるため、弱毒化したうえでの実用化を目指していたが、職業的倫理観や良心の咎め、MM-88が万が一にも外に漏れた場合の人類滅亡の可能性を思ううちにノイローゼとなり、MM-88株をチェコスロヴァキアのライザネウ教授に送り、東西合同で対抗薬品を研究・開発させることを思い立つ。しかし、職業スパイに騙されてCIAへ横流しされそうになったところ、スパイたちの乗る連絡機がイタリアアルプス山中に墜落したことで、MM-88菌が世界に拡散。発熱・咳・頭痛・関節の痛みといった諸症状から、世間では新型インフルエンザ「チベット風邪」[注 8]と思われていたが、細菌でもウイルスでもないMM-88にはワクチン抗生物質も効果がなく、防疫体制は崩壊。マイヤー博士は、世界を襲う惨禍の正体がRU-308であることに気づいたが、世界の破滅を食い止めることはできなかった。唯一感染をまぬがれた南極では、病原体の性質を突き止めたアメリカの医学者A・リンスキイがアマチュア無線で伝えた情報に着想を得て分離に成功したMM-88を「リンスキイ・バクテリオウィルス」と命名。南極の科学ブレーンの一員であるド・ラ・トゥール博士により、半ば偶然に発見された唯一の対抗手段は、原子炉内での中性子線照射によって生まれた人体には無害な変異体[注 9]により、MM-88の増殖を抑えることだけであった。しかし、ARSの存在により、MM-88は予想外の運命を迎える。
ARS(Automatic Revenge System)
米国の狂信的な反共軍人・ガーランド中将(映画では統合参謀本部議長・大将)が反共主義のシルヴァーランド前大統領[注 10]と共に造り上げたホワイトハウスイーストウイング大統領危機管理センターにある切り替えスイッチにより作動する「全自動報復装置」。相互確証破壊戦略の確度を上げることを目的としたもので、システムの起動後、破壊された軍施設から一定時間の応答が無い場合、ソ連の攻撃を受けたものと見做し、報復として自動で敵国に対する全面核攻撃を実行する。MM-88の蔓延をソ連の生物兵器による攻撃とかたくなに信じ込んだガーランドは死の直前にシステムを起動させる。ARSシステムを廃棄しようとした後任のリチャードソン大統領はガーランド以下軍内部の反共勢力の強硬な反対によって果たせず、全面軍縮を実現させてからARSを無用の長物と化そうと目論んでいたが、極秘で南極にも軍事基地を建設した反動政治家シルヴァーランドの恐怖政治で全面戦争一歩手前だった[注 11]ソ連側もまったく同じARSシステムを保有せざるを得ず[注 12]、南極も核ミサイルの射程に置かざるを得なかった。ワシントンを訪れた吉住とカーターは、起動している可能性のある[注 13]ARSのスイッチを「システム停止」に切り替えようとした瞬間、地震によってアラスカの軍施設が破壊されたのをソ連の攻撃であると誤認したARSは作動し、ソ連本土への全面核攻撃を始める。
WA5PS
病原体の性質を突き止めたアメリカの医学者A・リンスキイ(ファーストネームは頭文字のみで不明)が使用する、アマチュア局コールサイン。エンドレステープを使い、ウイルス解析のヒントを放送し続けた。この情報が南極を守ることとなり、これを記念してMM-88を媒介する球菌に「WA5PS」の名が付けられた。小松左京の没後、このコールサインが実際のアマチュア無線局として指定されていないことが判明し、小松左京事務所に許可を求めたうえで「小松左京記念局」として免許された[10]。2012年10月26日の夜より、WA5PS/KH0(メキシコ国境地域で免許され、マリアナへ移動している扱い)として運用されている。
映画

復活の日
VIRUS
監督
深作欣二
脚本高田宏治
深作欣二[11]
グレゴリー・ナップ
原作小松左京
製作角川春樹
出演者草刈正雄
ボー・スヴェンソン
オリヴィア・ハッセー
夏木勲
グレン・フォード
多岐川裕美
ロバート・ヴォーン
千葉真一
チャック・コナーズ
渡瀬恒彦
ジョージ・ケネディ
緒形拳
音楽テオ・マセロ
羽田健太郎
主題歌ジャニス・イアン
「You are love」
撮影木村大作
編集鈴木晄
製作会社角川春樹事務所/TBS
配給東宝
公開 1980年6月28日
上映時間156分
製作国 日本
アメリカ合衆国
言語日本語
英語
ドイツ語
製作費20億円[12]
配給収入24億円[13]


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