征韓論
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板垣は居留民保護のために一大隊の兵を送り、その上で使節を派遣して交渉をすべきだと主張したが、西郷はそれに反対して、まずは責任ある全権大使を派遣して交渉すべしと主張した[23]。三条は使節は軍艦に搭乗し護衛兵を帯同すべきだと主張したが、西郷はそれにも反対し、烏帽子直垂の正装で非武装の使節を派遣することを主張した[24]。板垣も自説を撤回して西郷の提案に賛成し、後藤象二郎江藤新平らも賛成し、西郷は自らその使節に当りたいと提議したが、この日は決定には至らなかった[23]

その後、清国に出張していた外務卿の副島種臣が帰国すると、西郷は板垣に宛てた書簡で使節就任への強い思いを伝え、三条にも閣議開催を要求した[21]。8月上旬には、西郷と同じく朝鮮使節に志願していた副島を訪問して自身の使節就任実現へ向けた協力を求め、その同意を得た[25]。8月17日、閣議において西郷遣使が内決されたが、岩倉帰国後に再討議されることも決まり、明治天皇の裁可を得た[26]。しかし、西郷の使節派遣は西郷自身も失敗を予想した上で開戦を期した主張であり、交渉不成功の場合は政府は面子上開戦を覚悟しなければならないものだった[26]ため、遣欧使節団の岩倉・木戸・大久保は内治優先論の立場からこれに反対し、三条や参議大木らもその意見に同調するようになった[27]

10月14日、朝鮮問題に関する閣議が開催され、西郷は遣使即行を主張し、大久保や岩倉と対立した。この日は決定には至らず、10月15日に再度閣議が開催され、参議各々に意見を陳述させ、参議を引き取らせた上で三条・岩倉の間で協議が行われた。西郷の圧力とそれに伴う軍の暴発を恐れた三条は、太政大臣としての自らの権限で西郷の即時派遣を決定した[28]。しかしこれに反発した岩倉・大久保らが辞表を提出し[29]、収拾に窮した三条は病に倒れた[30]。10月19日、岩倉が太政大臣代理となり[31]、10月23日に三条の裁断による即時派遣か、岩倉自身の考えである遣使延期かという2つの意見を上奏した[32]。これを受けて10月24日に明治天皇は遣使を延期するという裁断を行った[33]。政変に破れた西郷や板垣らの征韓派は一斉に下野することとなった[34]
政変後の動き
台湾出兵と江華島事件

明治政府はこの政変で西郷らを退けたが全ての征韓派が下野した訳ではなく、また西郷遣使は「中止」されたものの公式には内外情勢を理由とした「延期」と発表されたために後日に征韓論が再燃する可能性を残した。

翌年の明治7年(1874年)には宮古島島民遭難事件を発端として、初の海外出兵となる台湾出兵を行った(木戸孝允は征韓論を否定しておきながら、台湾への海外派兵を行うのは矛盾であるとして反対した結果、参議を辞任して下野した)。また、翌々年の明治8年(1875年)には李氏朝鮮に対して軍艦を派遣し、武力衝突となった江華島事件の末、日朝修好条規を締結することになる。
士族反乱・自由民権運動

明治7年(1874年)の佐賀の乱から明治10年(1877年)の西南戦争に至る不平士族の乱自由民権運動が起こった。
研究史

征韓論ならびに明治六年政変については当時から様々な議論や憶測が行われてきた[35]日清戦争日露戦争の後には征韓論者としての西郷が大陸経綸の先駆者として称揚され、内治優先を唱える側からは大久保らの開明性が強調されていた[35]戦後になると、大久保らも朝鮮侵略の方向性においては征韓派と根本的に違いがなかったと言う指摘が行われている[35]。その中でも基本的に、西郷が征韓を主張したことと、西郷ら留守政府派と、内治を優先する使節団派の対立の原因となり、政府を分裂させるに至ったという認識は基本的に疑われなかった[35][36]。一方で煙山専太郎1907年の著書『征韓論実相』において「征韓論」という名称に語弊があると指摘している[37]。西郷が近い将来における征韓を視野に入れて朝鮮使節を志願したとする意見と朝鮮の開国および同国との修好関係の実現を平和的交渉によって自ら成し遂げようとしたのだとする意見とが対立した[38]

1970年代後半、毛利敏彦は一連の著作において、征韓論の中心的人物とされていた西郷隆盛は征韓を意図しておらず[36]、明治六年政変の主因も朝鮮問題ではないと主張した[36]。毛利は、西郷が板垣らの主張する即時の朝鮮出兵に反対し、開国を勧める平和的な遣韓使節として自らが朝鮮に赴くというものであり、大久保利通らとも決定的に決裂したわけではなく[35]、明治六年政変の主因も司法卿江藤新平ら反長州藩派の追い落としが目的で、征韓論は口実に過ぎないとしている[35]。この発表は従来の定説の事実認識を根底から覆すもので近代史研究の大きな争点の一つとなった[36]


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