弾道ミサイル
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キューバ危機の間、デフコン2が発令され、北米配備のICBMであるアトラスタイタンI、試験配備が始まったばかりのミニットマンIと、イギリスに配備されたソアーIRBM、トルコ、イタリアに配備されたジュピターIRBMは実際に発射準備態勢に入った。ソ連でもR-7が発射台上で待機状態となり、キューバに配備されたR-12が発射準備態勢に入った。このような状況はキューバ危機の時が最初で、以後はそのような事態は発生していない。
ICBMの発展

アメリカで最初のICBMがアトラスである。アトラスは1959年に配備され、1965年まで使用されている。この後、タイタンミニットマンピースキーパーが開発されている。ミニットマンIIIとピースキーパーはMIRVとなった。

一方のソ連ではR-36(SS-9)、UR100(SS-11)、RT-2(SS-13)から、MR UR100(SS-17)、R-36M(SS-18)にいたってMIRV化されている。START-IIによってR-36Mが退役した後は、単弾頭RT-2PM1/M2 トーポリMが配備されている。ソ連では道路移動式ICBMとして初期のRT-21(SS-16)から現在のRT-2PM(SS-25)までが開発されている。

中国では、アメリカで弾道ミサイルの開発を行っていた銭学森の主導でソ連から提供されたR-2(SS-2)を基に弾道ミサイルの開発を進め、1964年に核実験に成功すると核弾頭装備の東風2号が1966年から配備され、大韓民国日本を攻撃する能力を得た。続く東風3号グアム東風4号ハワイ東風5号でついに中国西部から北米を攻撃する能力を得た。東風3号は、1988年に通常弾頭のものがサウジアラビアに売却されている。
弾道ミサイル技術の拡散

1970年代から、弾道ミサイル技術は中小国も取得できるようになった。ソ連は安価な短距離弾道ミサイルスカッドエジプトイラクシリアリビアなどに輸出し、1980年代には弾道ミサイル技術を重要な外貨獲得手段とみた中国や北朝鮮などによってさらにパキスタンイランイエメントルコなど中近東を中心に拡散し(中東におけるロケット開発)、イラン・イラク戦争ではイランとイラクの双方が使用した。2007年時点で45ヶ国が弾道ミサイルを保有していると見られている。このような弾道ミサイル技術の広まりに対して拡散に対する安全保障構想(PSI構想)が実施されるようになった。
特徴と使用目的

弾道ミサイルの特徴としては、長射程、高角度・高速での落下[1]、高価、低い命中精度[2]が挙げられる。
迎撃が困難

弾道ミサイルを撃墜しにくい理由にはいくつかの要因がある。
移動式と潜水艦発射鉄道移動型RT-23

一箇所に据え置いている発射台方式やサイロ方式は別にして、鉄道上や道路上を移動できる『移動式弾道ミサイル』や海中を移動できる潜水艦を利用した潜水艦発射弾道ミサイル(以下SLBM)は発射装置自体が必要に応じて移動するため、発射する前に発見するのが困難になる。ナチスドイツではUボートにA4を搭載するため、耐圧カプセルを研究していた。

潜水艦発射弾道ミサイルは偵察衛星からその姿を発見するのは困難になる。潜航中の潜水艦に対してはゴーサイン・標的・発射する日時は長波無線通信を使った暗号で送られる。

実際に衛星の無い時代にはV2ロケットはトラックに牽引されて運ばれる方法で、森の中の道路から発射する運用だったことから、敗戦まで1度も発射前に発見・妨害されたことがなかったとされる。
発射直後の落下地点予測

弾道ミサイルは発射後暫くほぼ垂直に上昇して徐々に燃料を燃焼させて切り離していくことで大気圏を越えた後に、大気圏にて誘導装置のついた弾頭が徐々に向きを変えて目標に落下するように調整するという仕組みになっている。北朝鮮の場合はミサイルがスカッドノドンムスダンかで射程は大きく異なるが、『発射直後の時点』には発射した方角自体は分かっても大まかな落下地点さえ分からない段階である。そこからある段階で弾道ミサイルだった場合は大気圏を越える垂直の弾道を描いていくので、発射したのは弾道ミサイルだと確実な断定が出来るようになる。 更に、日本の方向に発射された弾道ミサイルが日本海・日本を越えた太平洋・国土・領海のどれかなどの最初の落下点予測は、敵の弾道ミサイルの発射から数分後の大気圏での誘導装置による攻撃目標に向けて弾道ミサイルが調整段階にある時にある程度判明する。Jアラートはこの段階で日本の領土・領海に落下する可能性があると判断した場合には、この時点で何かしらの落下してくる可能性が0でないエリア毎でかなり幅広い範囲で警報がなされる。これは発射後にミサイルの弾頭を大気圏で誘導装置が調整し出した早い段階で詳細な落下予測以前に、誘導装置の故障での調整段階での落下地点からの移動・迎撃時の破片の落下の可能性にも備えさせるための警告が出来るシステムでもあると評価されている[3]
命中精度の低さ

基本的に弾道ミサイルの原理は、最初の数分間加速した後は慣性で飛行するというだけである。つまり最初の数分間で到達した速度によって、着弾地点はほとんど決まる。加速終了地点から着弾地点までの距離が短ければその差はそれほど問題にはならないが、弾道ミサイルは数千km単位で飛ぶためその誤差は徐々に大きくなり着弾地点では大きな差となってしまう。よって弾道弾が長射程になるほど、その誘導装置は高度な技術が必要で高価となり、開発国の技術レベルが国家の戦略にも影響を与える。

命中精度の指数であるCEP(半数必中界)は100m-2km程度で、優秀であるほど兵器としての運用の柔軟性を持つ。米ソ(ロシア)の保有するICBMの飛翔距離は1万キロメートルを超える射程であるにもかかわらず、CEPは100-200メートルである。CEPが小さければ、統計的に見て着弾地点を目標に近付けることができるため、弾頭威力が低くとも目標に対して十分な破壊力を発揮する事ができる。

弾頭威力が低くても構わないということは(その技術があると言う前提ではあるが)弾頭の小型化を図ることができ、弾道弾の搭載量が充分であれば多弾頭化(MRV)を行う事ができる。誘導技術がさらに進歩するならば、複数個別誘導再突入体(MIRV)が可能になり、さらには大威力弾頭で大雑把に広範囲の施設を破壊するだけのカウンターバリュー戦略から、軍事目標を選択して重要な拠点のみを攻撃するカウンターフォース戦略に選択肢を広げる事が可能となり、膨大な火薬の使用や不必要な破壊を防ぐ事ができる。

この誘導装置の能力(命中精度)から、目標を破壊するための所要威力が算定され、その威力を発揮する核弾頭の小型化が困難であれば、弾頭は大型化し、弾道弾のペイロードを食いつぶすために必然的に単弾頭化し、射程も短くなる。弾道ミサイルには艦船や特定施設(レーダーサイト・港・空港・原子力発電所・司令部等)を、通常弾頭で命中を期待できるピンポイント攻撃能力はなかったが、1960年代のソビエト連邦はアメリカの技術的な進展を危惧して、地図上の重要都市を実際の場所から数十キロ単位で意図的にずらして表記するなどの対応を行っていた[4]。21世紀では海上の艦船を攻撃対象とした対艦弾道ミサイルの開発が中国やインド、イランで行われている。通常弾頭の場合、弾道ミサイルで海上にいる艦船を正確に攻撃する必要がある。

北朝鮮は、保有する弾道ミサイルの誤差が1kmほどであり、弾道ミサイルと核兵器をセットで開発して、敵目標の壊滅効果を高めている。弾道ミサイルを原子力発電所など「特定の施設」に狙って撃ち込まれるという誤解があるが、そもそも命中率が低いからこそ、弾頭に核兵器を積んで『目標の誤差などを無視』して、攻撃目標を殲滅させるのである[5][6]
価格

価格は極端に差があるため一概には言えないが、例えばアメリカ海軍が使用する潜水艦発射弾道ミサイル(以下SLBM)トライデントD5は1基3,090万ドルと公表されている。アメリカ海軍が現在調達を進める戦闘機F/A-18E/Fスーパーホーネットが3,500万ドル、世界で3,000機を販売することで調達価格を抑えることを目的として開発中のF-35JSF[注 1] の予価が3,000万ドルと言われる。

それに対して弾頭の重量は数百kg-数トン程度であるため、通常兵器として使用するには費用対効果の面から見た場合最悪と言える。しかし、湾岸戦争時のイラクのように、旧式で命中精度も劣る弾道ミサイルを心理作戦に用いる場合もある。

V2のコストは4発で爆撃機1機に匹敵した。また1/10の価格で生産されるV1の方がより多くの損害を与えたことが判明している。
構造

基本的にはロケットと同じ構造であるため、通常の衛星打ち上げ用ロケットとして転用される物もある。頂部に搭載されるのが爆弾か人工衛星かの違いに過ぎない。例えば衛星打ち上げ用タイタンロケットはICBMとして開発されたものが衛星用に転用されたものであり、ソユーズA型ロケットは宇宙船を核弾頭に積み替えるだけで弾道ミサイルに転用できた。


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