差押えの対象によって不動産執行・船舶執行・動産執行・債権執行に分類され、不動産執行は、換価の方法によって強制競売・強制管理に分類される。 不動産執行における不動産は、差押えが登記によってなされる都合上、民法上の不動産から、登記することができない土地の定着物を除かれる一方、登記ができ独立の財産価値を持つ不動産に対する権利(不動産の共有持分、地上権・永小作権ならびにその共有持分)をも不動産とみなすこととしている(43条 強制競売手続の流れ手続主体根拠条文
不動産執行
強制競売
1申立て債権者法2条、規則1条
2強制競売開始決定執行裁判所45条
差押登記の嘱託裁判所書記官48条
3配当要求終期の処分及びその公告裁判所書記官49条2項
債権届出の催告裁判所書記官法49条2項
4現況調査命令執行裁判所57条1項
評価命令執行裁判所58条1項
5現況調査報告書提出執行官規則29条
評価書提出評価人規則30条
6物件明細書作成裁判所書記官62条1項
売却基準価額決定執行裁判所60条1項
7売却実施処分(売却日時・場所の決定)裁判所書記官64条
売却の公告裁判所書記官法64条5項
3点セット備置き裁判所書記官62条2項、規則31条
8入札買受希望者規則47条
9開札、最高価買受人の決定執行官規則49条、41条3項
10売却許可決定執行裁判所69条
11代金納付最高価買受申出人78条
12配当執行裁判所84条
※「規則」とは、民事執行規則のことをいう。 不動産執行の申立ては、書面でしなければならない(規則1条)。申立ては、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所(支部を含む。)に対してする(44条
強制競売開始手続
強制競売の申立て
換価によっても債権者が請求債権について弁済を受けられない場合(すなわち、不動産の買受可能価額から優先債権の額や執行費用等を除いた価値が残存しないとき)には、執行が許されない(無剰余執行の禁止。民事執行法63条)。 申立てが適法にされていると認められた場合は、執行裁判所は、強制競売を開始する旨及び目的不動産を差し押さえる旨を宣言する開始決定を行う(法45条1項)。この裁判に不服があるものは民事訴訟法の不服申立ができる(民事執行法1・20条による)。この手続きを先に進めるためには、本案の債務名義とは別に当該裁判の確定裁判の執行文つき債務名義の提出が必要である(民訴法122条・民執法22条1号・同25条)。 開始決定が執行力のある債務名義である場合は(民訴法114・122条・民執法1・20・22-1・25条号)、裁判所書記官は、登記所(管轄法務局)に対し、目的不動産の登記簿に差押えの登記をするよう嘱託をする(48条 執行裁判所は、売却決定期日において、最高価買受申出人に対し、売却許可決定を行う(69条
開始決定・差押え
現況調査・評価
執行裁判所は、執行官に現況調査を命じ、現況調査報告書を提出させるとともに(57条、規則29条)、評価人に目的不動産の評価を命じ、評価書を提出させる(58条、規則30条)。現況調査報告書には、土地の現況地目、建物の種類・構造など、不動産の現在の状況のほか、不動産を占有している者やその者が占有する権原を有しているかどうかなどが記載され、不動産の写真などが添付される。評価書には、競売物件の周辺の環境や評価額が記載され、不動産の図面などが添付される。
売却基準価額決定・物件明細書
現況調査報告書と評価書が提出されると、執行裁判所は、評価人の評価に基づいて売却基準価額を定める(法60条)。売却基準価額とは、不動産の売却の基準となるべき価額である。それから2割を引いた額が買受可能価額となり、買受申出(入札)は、買受可能価額以上でなければすることができない(60条3項)。また、裁判所書記官は、目的不動産の権利関係について記載した物件明細書を作成する(62条)。物件明細書には、そのまま引き継がなければならない賃借権などの権利があるかどうか、土地又は建物だけを買い受けた時に建物のために底地を使用する権利が成立するかどうかなどが記載される。裁判所書記官は、物件明細書・現況調査報告書・評価書の写しを執行裁判所に備え置いて一般に公開する(62条2項、規則31条3項)。これらの3つの書類を「3点セット」と呼ぶこともある。3点セットはインターネット上でも公開することができ(62条2項、規則31条1項、3項)、BITシステムという。買受けを希望する者は、広告などで興味のある物件を見つけたら、執行裁判所の閲覧室やBITで3点セットの閲覧をする。3点セットには、前記のとおり、競売物件の買受けのための重要な内容が記載されているから、その内容をよく理解して吟味する必要がある。
売却実施
売却の準備が終わると、裁判所書記官は、売却の日時、場所のほか、売却の方法を定め、不動産の表示、売却基準価額、売却の日時・場所を公告する(64条)。売却の方法には、入札、競り売りなどがあるが(64条2項、規則34条)、第1回目の売却方法としては、定められた期間内に入札をする期間入札(規則46条?49条)を行うのが通常である(以下、期間入札について説明する)。物件の買受けを希望する者は、まず、公告書に記載されている保証金(原則として売却基準価額の2割)を納める必要がある(66条、規則49条、39条)。その上で、所定の入札期間内に、入札書を入れた封筒と保証金の振込証明書等を執行官に提出する(規則47条、48条)。入札は、買受可能価額以上の金額でしなければならない(60条3項)。執行官は、開札期日において開札を行い、最高価買受申出人を定める(規則49条、41条3項)。
売却許可決定
執行裁判所は、事由によっては最高価買受申出人に対し、売却不許可決定を行うことが出来る(71条)。
売却許可がされた買受人は、裁判所書記官が定める期限までに、入札金額から保証金額を引いた代金を納付する(78条)。
買受人が代金を納付した時点で、買受人は不動産の所有権を取得する(法79条)。裁判所書記官は、登記所に対し、所有権移転登記や、抵当権等の抹消登記、差押えの登記の抹消登記を嘱託する(82条)。この登記手続に要する登録免許税などの費用は買受人の負担となる(82条4項)。 裁判所は代金を納付した買受人の申立により債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる(民執法83条1項)。この裁判に対して執行抗告ができる(同条4項)。この裁判手続を実施するためには当該裁判の確定裁判による執行文付債務名義の提出が必要である(民訴法114・122条・民執法22条1号・同法25・26・83-5条項)。 買受人が不動産の所有権を取得しても、不動産を占有している賃借人等がおり、その賃借権等が買受人に対抗できる権原である場合は、買受人は占有者に引渡しを求めることができない。一方、占有者が買受人に対抗できる権原を有していない場合は、買受人は、代金を納付してから6か月以内であれば、執行裁判所に申し立てて、明渡しを命じる引渡命令を出してもらうことができる(83条 強制管理とは、債権者の満足に、不動産から生じる天然果実や法定果実などの収益を充てる執行をいう。担保不動産収益執行によって、執行裁判所が不動産の管理人を選任し、その収益(賃料)を金銭債権の弁済に充てる(民事執行法94条・95条)。
引渡命令
配当の実施
執行裁判所が、差押債権者や配当の要求をした他の債権者に対し、法律上優先する債権の順番に従って売却代金を配る手続である。原則として、抵当権を有している債権と、債務名義しか有していない債権とでは、抵当権を有している債権が優先される。また、抵当権を有している債権の間では、抵当権設定登記がされた順に優先し、債務名義しか有していない債権の間では、優先関係はなく、平等に扱われる。
強制管理