張本勲
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終戦後、父親が朝鮮半島に戻り、生活基盤を整えてから一家も呼び寄せることになっていたが、父親が帰国後、太刀魚の骨が食道を突き破って急死し[7]、またヤミ船が下関沖で転覆した事件を受けて、母親が子供3人の身を案じて帰国を諦めることになった[2]。母親は広島駅前の闇市で牛や豚の臓物を仕入れて自宅で大工工員相手にホルモン焼き屋を始めた[3][7][8][12][25]。客の目当てはヤミ酒だった[8]

子供の時から体が大きく、ガキ大将としていつも大勢の子分を連れて歩いた[8][19]。広島市立比治山小学校5年のときに町内の野球チーム(同世代のチームではなく、社会人が趣味で集まっていたチーム)に誘われたのをきっかけに野球を始める[26]。当初は右投げ左打ちだったが、右手の怪我の影響で変化球を投げづらかった(鷲掴みにしか出来ない)ことから、サウスポーに転向[18][26]利き手を変える大改造を行なった。

水泳が一番得意だったが、進学した段原中学校には水泳部がなく、仕方なく野球部に入部[17][26]。段原中時代の2年生のときにレギュラーになり、エースで4番打者として広島県大会で優勝した[9]。中学時代はケンカに明け暮れ[8]、韓国人の子供として虐げられた怨念をケンカで晴らしているうちにそれは壮絶なものになり[8]、相手も高校生を通りこして、ヤクザのアンちゃんたちになり[8]、姉を騙したヤクザを半殺しにしたこともあったという[19]レンガで顔を殴られたり、ジャックナイフで腹を刺されたこともあり「段原のハリ」と恐れられる少年になっていた[8]。後に『仁義なき戦い』のモデルになった広島、呉のヤクザたちにも憧れ、実際に交流もあったことから「あのまま広島にいたらヤクザになっていたと思う」とも話している[8][27][28][29]。その悪の道から勲を救ったのが野球だった[8]

この頃、広島カープの当時の本拠地広島総合球場の場外の木によじのぼり、よく試合の無料見物をしていたという[2][30][31]。その折に覗き見た読売ジャイアンツの宿舎の食事風景が、その後の張本の人生を大きく変えることとなった[2][3][17][19]。戦後の物資不足や飢餓をまだ引きずる時代に、選手たちは分厚いを食べ、桐箱に入った贈答品として当時は珍重されることも多かった生卵を3つも4つも茶碗に放り込んでいたのである[13][32]。以来、張本のプロ野球選手への憧れは増大し、「トタン屋根の長屋から抜け出すにはこれしかない」[32]、「母親に広い家をプレゼントする」、「美味しい食べ物を腹一杯食べる」という夢を胸に来る日も来る日も自宅近くの猿猴川土手に吊るした古タイヤに向かってバットを振り続け、野球へと打ち込んでいった[15][32][注 2]
高校時代

甲子園出場を夢に、地元の強豪・広島商業広陵高校への入学を希望したが[33]、中学時代の素行不良が理由で叶わず[2][13][34]、野球では全く無名の松本商業高校(現・瀬戸内高校定時制に進学[19][35]。入学後1か月ケンカしなかったら普通科に転入させるという約束での入学であった[36]。昼間は学生食堂で働き、夜は学業に勤しんだため、野球をする時間が全く取れず[33]、甲子園出場の夢を叶えられそうにないことを悟る[13]。松本商業の野球部監督が「いっそ広島から出したらどうだ。あの子は化けるよ」と兄にアドバイスし[13][33]、自身も理髪店で「常勝!平安、浪商」と書かれた雑誌を見て、まず京都平安高校に問い合わせたが、途中からは無理と断られる[13]。その後に大阪の浪華商業高校(浪商高等学校を経て現・大体大浪商)野球部に梁川郁雄と一緒に売り込みに行き、同校に転校した[13][37]タクシー運転手の兄が月給2万3,000円から約半分の月1万円を仕送りしてくれた[16][33]。甲子園出場の夢を果たすことが何よりの恩返しと信じ、ひたすら野球に打ち込む[33]

浪商では1年の終わり頃に4番になるが、張本が入部する前の部内の暴力事件で1年間の対外試合禁止処分(1年の秋から2年の秋)を受け[19][33]、この際に恩師である中島春雄も監督の座を退くことになった。甲子園出場のチャンスは3年のの2回だけになった[33]

広島のみならず、「大阪でも一番喧嘩が強い」と名を轟かせ、他校のワルから決闘を申し込まれたが[38]、野球で忙しく相手をする暇はなかった[38]

1957年、2年の初夏に中島春雄の戦友であり、度々同校を訪ねていた当時読売ジャイアンツ監督の水原茂に、高校を中退して左投手としての入団を勧誘される[9][13]


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