張本勲
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当時の広島は大日本陸海軍とも重要拠点を置く軍都[8][14]太平洋戦争への道を突入していく日本で生きる朝鮮人家庭は虐待され、差別され、張本一家も六畳一間のトタン屋根のバラックで身を潜めるようにして生きた[8][15][16]。4歳の冬、サツマイモを焼くために、土手でとんど[17]を囲んでいた際に、急にバックしてきたトラックを避けようとしたところバランスを崩してしまい、とんどに右半身から飛び込む形になり、右手の親指から中指以外の自由を失う大火傷を負う[7][18][19][20]

1945年8月6日、5歳の夏、爆心地から約2kmの広島市段原新町(現在の南区段原)で被爆[2][8][19][21][22]比治山の影となっていた段原は直接の熱線が届かなかったが、爆風に見舞われ家は倒壊した[3][8][23]。張本は赤い閃光を見た直後に意識を失い、意識が戻った後に記憶しているのは、張本をかばって覆いかぶさり、ガラスの破片で出血していた母の血の赤い色だった。その直後に避難場所で経験した人肉の焼ける強烈な臭い、叫声を上げながら猿猴川に飛び込み亡くなっていく人々、夜通し続く呻き声を、今でも忘れることはないという[3][7][17]学徒勤労動員で比治山の西側にいた、当時12歳だった長女の点子は、大火傷を負い数日後に死亡した[2][22][23]。点子の最後を看取った張本によれば、担架で運ばれた点子は全身にやけどをしていた。「『熱いよう、熱いよう。』母の懐でうめく点子にブドウを一房もぎ、口元で搾ってあげた。『ありがとう。』消えそうな声が最期だった」と語っている[24]

終戦後、父親が朝鮮半島に戻り、生活基盤を整えてから一家も呼び寄せることになっていたが、父親が帰国後、太刀魚の骨が食道を突き破って急死し[7]、またヤミ船が下関沖で転覆した事件を受けて、母親が子供3人の身を案じて帰国を諦めることになった[2]。母親は広島駅前の闇市で牛や豚の臓物を仕入れて自宅で大工工員相手にホルモン焼き屋を始めた[3][7][8][12][25]。客の目当てはヤミ酒だった[8]

子供の時から体が大きく、ガキ大将としていつも大勢の子分を連れて歩いた[8][19]。広島市立比治山小学校5年のときに町内の野球チーム(同世代のチームではなく、社会人が趣味で集まっていたチーム)に誘われたのをきっかけに野球を始める[26]。当初は右投げ左打ちだったが、右手の怪我の影響で変化球を投げづらかった(鷲掴みにしか出来ない)ことから、サウスポーに転向[18][26]利き手を変える大改造を行なった。

水泳が一番得意だったが、進学した段原中学校には水泳部がなく、仕方なく野球部に入部[17][26]。段原中時代の2年生のときにレギュラーになり、エースで4番打者として広島県大会で優勝した[9]。中学時代はケンカに明け暮れ[8]、韓国人の子供として虐げられた怨念をケンカで晴らしているうちにそれは壮絶なものになり[8]、相手も高校生を通りこして、ヤクザのアンちゃんたちになり[8]、姉を騙したヤクザを半殺しにしたこともあったという[19]レンガで顔を殴られたり、ジャックナイフで腹を刺されたこともあり「段原のハリ」と恐れられる少年になっていた[8]。後に『仁義なき戦い』のモデルになった広島、呉のヤクザたちにも憧れ、実際に交流もあったことから「あのまま広島にいたらヤクザになっていたと思う」とも話している[8][27][28][29]。その悪の道から勲を救ったのが野球だった[8]

この頃、広島カープの当時の本拠地広島総合球場の場外の木によじのぼり、よく試合の無料見物をしていたという[2][30][31]。その折に覗き見た読売ジャイアンツの宿舎の食事風景が、その後の張本の人生を大きく変えることとなった[2][3][17][19]。戦後の物資不足や飢餓をまだ引きずる時代に、選手たちは分厚いを食べ、桐箱に入った贈答品として当時は珍重されることも多かった生卵を3つも4つも茶碗に放り込んでいたのである[13][32]。以来、張本のプロ野球選手への憧れは増大し、「トタン屋根の長屋から抜け出すにはこれしかない」[32]、「母親に広い家をプレゼントする」、「美味しい食べ物を腹一杯食べる」という夢を胸に来る日も来る日も自宅近くの猿猴川土手に吊るした古タイヤに向かってバットを振り続け、野球へと打ち込んでいった[15][32][注 2]
高校時代

甲子園出場を夢に、地元の強豪・広島商業広陵高校への入学を希望したが[33]、中学時代の素行不良が理由で叶わず[2][13][34]、野球では全く無名の松本商業高校(現・瀬戸内高校定時制に進学[19][35]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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