広辞苑
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なお第六版では、新たな事実判明・発覚での改変も行っている[注 4]

言葉の意味の変化に伴った語釈の追加・変更[17]も見られ、「姑息」は本来「その場しのぎ」の意味であるが、「ずるい」の意味で多く使われるようになったことを受け第七版で「卑怯なさま」の語釈が加えられた。同じく「にやける」も本来の「なよなよとしている」の他に「にやにやする」の語釈が第七版で加わった[18]

なお日本人の人名は物故者(故人)の掲載のみに限定し、存命の人名については掲載していないが、他の国語辞典もほぼ同様の処置を取っている[注 5]

広辞苑の最後の見出し語は初版から第六版まで一貫して「んとす」であったが、第七版で新しく「んぼう[注 6]」が追加され最後の語となった[19]
論争

谷沢永一渡部昇一との共著の中で、「博文館から『辞苑』の版権を取得した岩波書店が『広辞苑』として改訂を重ねる中で、3版から劇的に内容が変わり左翼理論の活発な演習場と化した」と主張した[20]。水野靖夫はこれを受けて「左翼の曲がり角」と呼んでいる[21][22][23]
慰安婦・従軍慰安婦及び朝鮮人強制連行

1955年の初版では『慰安婦』を「戦地の部隊に随行、将兵を慰安した女」と定義し、1983年の第三版では「戦地将兵を慰安する女性」と定義している。1970年代以降になって「従軍慰安婦」問題が社会問題となり、外交における日韓問題にまで発展すると、第四版(1991年)以後で「従軍慰安婦」項目が登場し、「日中戦争太平洋戦争期、日本軍将兵の性的慰安のために従軍させられた女性」と記載された。

新井佐和子は、初版にあった「朝鮮事変」「朝鮮貴族」などが消え、第四版では「朝鮮人虐殺」「朝鮮人強制連行」などと入れ替わっていると指摘(「朝鮮」の語を含む用語、5増5減)。「説明文の言い回しまで微妙に異なるのは、執筆者が高崎宗司和田春樹にかわったからだろうか」と疑問を呈している[24]

さらに、第五版(1998年)では「日中戦争、太平洋戦争期、日本軍によって将兵の性の対象となることを強いられた女性。多くは強制連行された朝鮮人女性。」と記述されている。これについて谷沢永一は「削除あるいは訂正すべきだ」とした[25]。その後、第六版(2008年)において、後半部は「植民地・占領地出身の女性も多く含まれていた」と改訂されたが、「朝鮮人強制連行」の項目で、「日中戦争・太平洋戦争期に100万人を超える朝鮮人を内地・樺太(サハリン)・沖縄・東南アジアなどに強制的に連行し、労務者や軍夫などとして強制就労させたこと。女性の一部は日本軍の慰安婦とされた。」と、慰安婦が強制連行されたとの説明内容を維持している[注 7]
意図的な作為による書き換え

水野靖夫は『広辞苑』の各版(初版?第六版)における近現代史用語を比較分析し、幾つかの問題点を指摘した。例えば伊藤博文の説明文について、「安重根が版を追うごとに格上げされている」ことに疑問を呈している[注 8]。また、日英同盟の説明文について、「中国と英領インドの現状維持を目的」(初版・第二版)が削除されて「日露戦争で日本に有利な役割を果たした」(第三版以降)と明記されていること、「ロシヤのアジアへの侵出」(初版)が「ロシアのアジア進出」(第二版以降)に書き換わっていることなどを取り上げており、これを水野は「意図的な作為が明らかである」とする[29]
那智黒論争

粘板岩の「那智黒」の項目では、実際の産出地が三重県熊野市であるにもかかわらず、1955年の第一版から産出地が「和歌山県那智地方」と誤って記載されていた、と2013年に複数のメディアで報道された。報道によると「熊野市からは1997年頃に訂正の申し入れが岩波書店になされたが、その後に刊行された第五版・第六版でもそのままになっていた」としている[30]。これに対して、岩波書店は、1997年頃に熊野市から指摘を受けて検討した結果、『紀伊続風土記』等の江戸時代の史料に那智地方で産出する旨の記述があることから、1998年刊行の『広辞苑』第五版で解説文を「那智地方に産した」という過去形に変更しており、現在の採石地が那智地方であるとは説明していないと主張するとともに、これら一連の報道は「事実経過を歪曲し、また『広辞苑』の記述を誤りと決めつけた不当な内容となっている」とウェブサイト上で反論している[31]
第六版の複数誤記問題

2008年に発行された第六版では、その記載内容について複数の誤記が発見されている。まず「芦屋・蘆屋」の項目では、「在原行平松風・村雨の伝説などの舞台」と記載されているが、正しくは「須磨」である。広辞苑編集部は、ウェブサイト上で「お詫びと訂正」を行い、早期の訂正を行いたいとしている[32] が、これは第五版から残っていた誤りである。さらに「横隔膜ヘルニア」の項目では、「横隔膜の欠損部や筋肉の弱った所を通って腹部内臓が腹腔へ逸脱する現象」などと記載されているが、腹腔内の内臓が腹腔に逸脱するというのはおかしく、この文脈であれば「胸腔へ逸脱」とすべきである。編集部は2008年1月にこの誤りを認め、第二刷から訂正したいとしている[33]

2017年5月「フェミニズム」などの項目の記述について、明日少女隊ウェブスター辞典オックスフォード英語辞典を引き合いに出して説明文の書き換えを求める公開質問を行った。広辞苑編集部はこの指摘を受け説明文を見直す決定を行い[34][35]、第七版において説明文の変更が行われた。
第七版の誤記述問題と紙の限界

第七版の初刷では、内容について以下のような誤記述がネット上で指摘された。誤記情報がインターネット上でいち早く拡散されながらも、岩波書店側の対応が後手に回り「紙の辞書」のマイナス面が際立つ事態になった[36]。岩波書店はJ-CASTニュースの取材に対して「完璧なものを出したいと努力はしているが見落としが出てしまうのが現状」と答えている[37]
LGBT
「多数派とは異なる性的指向をもつ人々」という説明になっている。Tで表されるトランスジェンダーは心と体の性が一致しないことであり、「性的指向」とは関係がない[38][39]
しまなみ海道
因島生口島大三島屋代島(周防大島)を経由する」という説明になっている。屋代島(周防大島)は大島(愛媛県今治市)の誤り[40]
坊守
浄土真宗で、僧の妻」と説明しているが、2000年代に入り、本願寺派大谷派が相前後して女性住職の配偶者や家族が坊守を称することを認めており[41]、訂正を求める声もある[42][43]

一方、20年にわたり間違いが指摘されてきた将棋宗家伊藤家の始祖についての記述は修正されている[37]。また、「仮にこれまで指摘されているものだけに止まるなら、奇跡的に少ないと言うべき」といった意見もある[44]
台湾記述と台湾からの批判

『広辞苑』第六版は、「中華人民共和国」の項目に示す中華人民共和国行政区分の図に台湾「台湾省」として組み入れ、「日中共同声明」の項目では「日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と承認し、台湾がこれに帰属することを実質的に認め」たと記述する。台北駐日経済文化代表処は2017年12月11日「台湾が中華人民共和国の「台湾省」として紹介され」ている「誤記」「事実と異なる内容」として、岩波書店に対し「中華民国台湾は独立主権国家であり、断じて中華人民共和国の一部ではない」と修正を要求した[45][46][47]


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