常圧
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S T ∘ = ∫ 0 T C p ( T ′ , p ∘ ) T ′ d T ′ {\displaystyle S_{T}^{\circ }=\int _{0}^{T}{\frac {C_{p}(T',p^{\circ })}{T'}}\mathrm {d} T'}

および

H T ∘ = H 298 ∘ + ∫ 298 K T C p ( T ′ , p ∘ ) d T ′ {\displaystyle H_{T}^{\circ }=H_{298}^{\circ }+\int _{\text{298 K}}^{T}C_{p}(T',p^{\circ })\,\mathrm {d} T'}

と求められる。液体や固体の標準定圧モル熱容量 Cp°(T) は、SSPにおける定圧モル熱容量 Cp(T, p°) と同じである。
気体の標準状態

実在気体の標準状態は、SSPの下にある純物質の理想気体である。この状態は仮想的な状態である。例えば 298 K における H2O(gas) の標準状態は、105 Pa(または 1 atm)でも凝縮しない水蒸気であって、これは完全に仮想的な状態である。それに対して、SSPの下で現実に気体として存在する物質は、理想気体とみなせる場合が多い。

25 °C における気体の熱力学量(p° = 105 Pa)[15]気体H° − H(p°)/kJ mol−1Cp°/J K−1mol−1Cp(p°)/J K−1mol−1
水素 H20.0028.828.8
窒素 N20.0129.129.2
二酸化炭素 CO20.0437.137.4
アンモニア NH30.1035.636.8
ブタン C4H100.2598.5100.6

表から 25 °C、105 Pa におけるアンモニアの生成エンタルピー ΔfH298(p°) が 25 °C、105 Pa における標準生成エンタルピー ΔfH°298 に 0.1 kJ/mol の精度で一致することが分かる。一般に、実在気体は圧力ゼロの極限で理想気体となるので、実在気体の Cp°(T) は Cp(T, p → 0) に等しく、H°(T) は H(T, p → 0) に等しい。四酸化二窒素 N2O4 のように、低圧で分解する分子からなる気体の標準熱力学量は、分光学データと統計力学により計算される。

SSPの下で液体として存在する物質の標準蒸発エンタルピー ΔvapH°(T) は、温度 T における蒸気圧 psat(T) の下での蒸発エンタルピー ΔvapH(T, psat) にほぼ等しい。ただし、蒸気が理想気体とみなせる場合に限る。気相中で二量体を作るギ酸酢酸などでは、ΔvapH°(T) と ΔvapH(T, psat) は大きく異なる。また、下の表から、気液平衡にあるメタノール蒸気の Cp(psat) が異常に大きいことが分かる。これはメタノール蒸気には CH3OH 分子の他に四量体 (CH3OH)4 が含まれているためである[16]

25 °C における蒸発エンタルピーと蒸気の定圧熱容量(p° = 105 Pa)[15]物質psat / 105 PaΔvapH°/kJ mol−1ΔvapH(psat)/kJ mol−1Cp°(gas)/J K−1mol−1Cp(gas; psat)/J K−1mol−1
H2O0.03244.044.033.634.4
メタノール CH3OH0.17038.137.544.0116.0
ペンタン C5H120.68326.726.4120.0123.0

一般に、気体および蒸気の Cp°(T) と H°(T) は、実在気体の圧力ゼロの極限値に等しい。それに対して、気体のエントロピー S(T, p) は圧力ゼロの極限で無限大に発散する。そのため、気体の標準エントロピーは、SSPの下にある仮想的な理想気体のエントロピーとして定義される。理想気体の熱容量とエンタルピーは圧力に依存しないので、実在気体の圧力ゼロの極限値から求めた Cp°(T) と H°(T) は、SSPの下にある仮想的な理想気体のそれに等しい。詳細は「標準モルエントロピー」を参照
溶液の標準状態

溶媒の標準状態は、純溶媒の標準状態に等しい。

溶質の標準状態は、質量モル濃度 1 mol/kg の仮想的な理想希薄溶液である。 この仮想溶液は、溶質と溶媒の相互作用が現実の溶液と全く同じで、溶質同士の相互作用が全く存在しない溶液である。現実の溶液では、濃度ゼロの極限で溶質同士の相互作用がゼロになる。よって、溶液反応の標準反応エンタルピー ΔrH° と標準反応エントロピー ΔrS°、および標準溶解エンタルピー ΔsolH° は、いずれも無限希釈状態への外挿値として得られる。例えば標準中和エンタルピー ΔnH°(25 °C) = −55.8 kJ/mol は、強酸と強塩基の中和エンタルピーを濃度を変えていくつか測定し、測定結果を濃度ゼロの極限に外挿することにより得られた値である[17]

溶質成分 B の部分モル体積 VB や部分モル熱容量 Cp, B のような部分モル量(英語版)もまた、無限希釈の極限で VB° や Cp, B° に収束する。それに対して、部分モルギブズエネルギーすなわち化学ポテンシャルは無限希釈の極限で負の無限大に発散する。そのため、温度 T の溶質成分 B の標準化学ポテンシャル μB°(T) は、SSPの下にある質量モル濃度 1 mol/kg の仮想的な理想希薄溶液における化学ポテンシャルとして次式で定義する。

μ B ∘ ( T ) = lim all m i → 0 [ μ B ( T , p ∘ , m 1 , m 2 , . . . ) − R T ln ⁡ ( m B / m ∘ ) ] {\displaystyle \mu _{\text{B}}^{\circ }(T)=\lim _{{\text{all}}\,m_{i}\rightarrow 0}[\mu _{\text{B}}(T,p^{\circ },m_{1},m_{2},...)-RT\ln(m_{\text{B}}/m^{\circ })]}

ここで p° はSSP、mi は i 番目の溶質成分の質量モル濃度、R は気体定数、m° は 1 mol/kg であり、μB(T, p°, m1, m2, ...) は実在溶液における成分 B の化学ポテンシャルである。この定義により、溶質成分 B の標準化学ポテンシャル μB°(T) は VB° や Cp, B° と同様に、溶液の濃度 m = (m1, m2, ...) には依らない値となる。SSPの下での実在溶液の成分 B の化学ポテンシャルは μB°(T) を使うと

μ B ( T , p ∘ , m ) = μ B ∘ ( T ) + R T ln ⁡ ( m B / m ∘ ) + R T ln ⁡ γ B ( T , p ∘ , m ) {\displaystyle \mu _{\text{B}}(T,p^{\circ },{\boldsymbol {m}})=\mu _{\text{B}}^{\circ }(T)+RT\ln(m_{\text{B}}/m^{\circ })+RT\ln \gamma _{\text{B}}(T,p^{\circ },{\boldsymbol {m}})}

と表される。ここで γB(T, p°, m) は成分 B の活量係数であり、温度、圧力、濃度の関数である。

溶質の標準状態の定義は、溶媒の標準状態の定義と比べて複雑である。しかし、標準状態をこのように定義すると、溶質成分間の相互作用による理想溶液からのずれをすべて活量係数 γB に押し込めることができる。溶液の非理想性が標準状態に取り込まれずに済む、というのがこの定義のポイントである[18]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ a b SSPと同時にSTPが変更されたと考えるなら1982年頃であり、Gold book(英語版)の第2版が出版された時点で初めて推奨されたと考えるなら1997年である。
^ STPと同様に、時代や地域や分野が違えば、別の条件がNTPと呼ばれうる。
^ これは1990年頃より前のSTPであり、NTPと同じである。
^ SSPの下で気体を理想気体とみなすことができて、溶液を理想溶液とみなすことができるなら、「SSPにおける量であることを表すために ° を付けて表される」[13]と考えてもよい。

出典^ 日本熱測定学会 ICCT2008で発表したポスター
^ a bグリーンブック』 p. 74.
^ a b CODATA Value
^ Cox 1982, p. 1247.
^ a b 長野 (2004)
^ 長野 “標準状態圧力の成立過程”
^ a bアトキンス物理化学要論』 p. 21.
^ a b Calvert 1990, pp. 2216, 2217.
^ JIS K 0211:2013 p. 5.
^ボール物理化学』 p. 8.


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