帝国単位
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イギリスにおいて、メートル法はほとんどの目的のために公式に使用することとなっている。しかし、市民の間では広範囲に帝国単位が使用されている。すべてのイギリスの道では、大通りでの積載量(トン)を除いて主に帝国単位が使用される[30]

取引や小売で使われる全ての計量機器についてメートル法による量で表示することが、1995年の計量単位規則(The Units of Measurement Regulations 1995)で義務付けられている。これは、「メートル法殉教者(英語版)」(Metric Martyrs)と呼ばれる帝国単位でしか取引しないと言って譲らない業者の利益団体に対する判決で確定した。若干の報道によって与えられる印象とは違い、これらの規則は、メートル法の単位と帝国単位を一緒に使うことは妨げない。イギリスのほとんど全ての業者は帝国単位を表示してほしいという顧客からの要請を受け入れ、両方の単位の目盛りを表示するのが小売業で当たり前になっている。メートル法の単位に帝国単位を伴って表示された(これを「補助表示」(supplementary indicator)という)価格表示は、帝国単位がメートル法の単位よりも小さく目立たないように書かれる。欧州計量単位指令(英語版)(指令80/181/EEC)では、2009年12月31日まで帝国単位による補助表示の使用を許容していたが、2009年3月11日に発表された指令の改訂で、無期限に使用が許容されることとなった[31]

イギリスは1995年にメートル法(国際単位系)への法的な移行を部分的に完了した。ただし、いくつかの用途で帝国単位が法的に許容または強制されたままである。例えば、生ビールとサイダーはパイント単位で売らなければならない[32]。道路標識の距離の表示はヤードとマイルでなければならない[33]。道路標識の長さと幅の規制はフィートとインチでなければならない(ただし、メートル法による換算値が付記される。また、重量はメートル法の単位による)[33]。速度制限はマイル毎時でなければならない[33]。そのため、イギリスで販売される車両の速度計はマイル毎時の目盛りがついていなければならない。2005年以降のアイルランドの車両など外国製の車両については、キロメートル毎時だけの表示でも法的に許容されている。トロイポンドは1878年の度量衡法によりイギリスで非合法化されたが、トロイオンスは宝石や金属の重さの計量にいまだに使用されている。

古くからある鉄道(多くはビクトリア時代に建設された)は帝国単位の大きな利用者である。距離をマイル・ヤード・チェーン・フィート・インチで、速度をマイル毎時で計測する。ただし、最新の地下鉄や路面電車はほとんどメートル法を使用している。ロンドン地下鉄もメートル法のを使用している[34]。メートル法は英仏海峡トンネルハイスピード1でも使用されている。両線はアシュフォード国際駅とドーランズ・ムーア貨物ターミナル(英語版)で接続しており、速度はメートル法と帝国単位の両方で示される。

大部分のイギリスの人々は、いまだに日常生活で帝国単位を使用している。例えば距離はマイル・ヤード・フィート・インチ、体重は大人はストーンとポンド[35]、赤ちゃんはポンドとオンス(ただし、キログラムの使用も増えつつある)、容積は牛乳やビールはパイント(またはその分数)で、まれに瓶入り・缶入りの清涼飲料やガソリンにも使用される[30][36]。オーストラリア、カナダ、アイルランド、イギリス、アメリカ合衆国を含むいくつかの英語圏の国では、馬の体高は通常ハンド(4インチ=101.6 mm)の単位で計られる。どのように計測したかに関わらず、公式の医療記録の身長と体重はメートル法で記録しなければならない。車両の燃費は、公式の数字は常に100 km当たりのリットルで表示されるが、実査にはガロン当たりのマイルでしばしば議論される。公認の建物では、ビールとサイダーはパイントと半パイント単位で販売しなければならない。牛乳は、スーパーマーケットや商店ではリットル単位とパイント単位の両方の容器で買うことができる。非メートル法のナット、ボルトなどは利用できるが、通常、専門の供給元だけからしか入手できない。農業・林業・不動産に関連した土地の面積はエーカーや平方フィートで計測されて広告される。ただし、政府が使用する目的の場合には、単位は常にヘクタールや平方メートルである。帝国単位の表示なしに「454 g」とだけ書かれた1ポンド入りのゴールデンシロップの缶

事務所や工業用地は通常平方フィートで広告されるが、カーペットやフローリング製品は平方メートルと平方ヤードの併記で販売される。鋼管のサイズはインチ単位であるが、銅管のサイズはミリメートル単位である。ロードバイクのフレームはセンチメートル単位だが、オフロードバイクのフレームはインチ単位である。テレビやモニターの画面のサイズは、常に対角線のインチ単位の長さで表される。長さや幅で売られる食物(ピザやサンドイッチなど)は、通常、インチ単位で売られる。衣類は常にインチで大きさを設定され、メートル法による補助表示はしばしば小さく書かれる。

ソーントンズ(Thorntons)のチョコレートやタイフー(Typhoo)の紅茶など、多くの包装済みの食品には、メートル法と帝国単位の両方が表示されている。ただし、帝国単位による大きさで包装して、メートル法の単位だけを表示するのも一般的になっている。例えば、ライル(Lyle)のゴールデンシロップの1ポンドの缶には「454 g」とだけ書かれていて、帝国単位は書かれていない。同様に、大部分のジャムの瓶やソーセージのパックには、帝国単位の表示なしに「454 g」とだけ書かれている。
インド詳細は「インドのメートル法化」および「en:Metrication in India」を参照

インドでの帝国単位からメートル法への転換は、1955年から1962年にかけて段階的に行われた。度量衡のメートル法化は、インドの国会によって「度量衡標準法」(Standards of Weights and Measures Act)として1956年12月に成立し、1958年10月1日に施行された。十進制の通貨を導入する「インド通貨法」(Indian Coinage Act)は、1955年に可決された。100パイサを1ルピーとする新しい通貨のシステムは1957年4月に施行された。施行から5年間は新旧両方の単位が使用できたが、1962年4月に古い単位の使用が禁止された。この、メートル法化、古い単位の非合法化、全ての政府出版物と法律の再発行、教育システムのメートル法への変更を同時に行うメートル法化の手法は「ビッグバン」と呼ばれる[37]

今日、公式の計測はすべてメートル法で行われる。しかし、一般的な用法において、一部のより古いインドの度量衡はいまだに帝国単位を参照している。山の高さなどは、今でもフィートで計測される。その上、インドの命数法によるカロール(crore、千万)とラーク(lakh、十万)が十進化された通貨単位とともに使用されていたり、世界中で使われるように、タイヤの直径がインチ単位で計測されたりする。道幅は一般にフィートで計られるが、公文書ではメートルを使用する。体温は華氏で測定されることがある。建設や不動産業ではメートル法と帝国単位の両方が使用されており、家の大きさは平方フィートで、土地の面積はエーカーで表示するのが一般的である。バルク綿は、キャンディ(candy、0.35ロングトン、355.62キログラム)やベイル(bale、170キログラム)単位で売られる[37][38]

インド英語では、オーストラリア英語シンガポール英語(英語版)・イギリス英語と同様に、litre, metre, metric tonneのようにフランス語に由来する伝統的な綴り方を使用する。帝国単位のトンは常にtonと綴られる(詳細はイギリス連邦諸国の英語(英語版)を参照)[38]
香港

香港では現在以下の3種類の単位系が使用されている。

中国の度量衡(英語版)(中国本土ではもはや広くは使用されていない)

イギリス帝国単位

メートル法

1976年、イギリス統治下の香港政府はメートル法への転換を始めた。2012年現在、道路標識など政府が使用する単位はほとんどメートル法の単位である。しかし、上記の3つの単位系とも、公式に取引のために使用することが許容されており[39]、一般社会では3つの単位系が混用されている。

中国の長さの単位でよく用いられるのはであるが、これらの単位は日常生活ではあまり使われず、帝国単位やメートル法の単位の方が好まれる。帝国単位は、同じような大きさの中国の単位と同じ漢字で書かれる。区別のために、帝国単位には「英」、中国の単位には「華」がその前につけられる。また、中国の単位の文字に「口」をつけて帝国単位を1文字で表す文字も作られている。哩(マイル)、呎(フィート)、吋(インチ)などである。ヤードは音訳から「碼」と書かれる。

平坦な土地の面積の伝統的な単位は帝国単位の平方フィート(方呎、平方呎)であり、今も不動産の用途で広く使用されている。ただし、農地の面積には、伝統的に中国の単位のを使用する。

体積の測定には、香港はメートル法を公式に使うが、ガロン(加侖)も時折使われる。
カナダ「カナダのメートル法化」および「en:Metrication in Canada」も参照アメリカ・カナダ国境付近で売られている1米ガロン入りのガソリンの缶。帝国単位とメートル法による換算値が付記されている。

カナダにおける帝国単位からメートル法(国際単位系)への移行は、1970年代に行われた。政府内で、メートル法に転換する努力は広範囲に渡った。ほぼ全ての政府機関が国際単位だけを使用した。帝国単位は全ての道路標識から除かれた。しかし、パーキングビル(英語版)の入口の高さ警告などの私設の標識には、未だに両方の単位系が見られる。1980年代のブライアン・マルルーニー内閣の時代には、メートル法化への動きは滞った。メートル化への強い反対があり、妥協として政府は、帝国単位の法的定義を維持し、メートル法の単位を同時に示している場合に限り帝国単位の使用を許容している[40][41][42][43]。燃料や肉など計量して販売される商品についてはメートル法の単位で値段をつけることが法律で義務付けられているが、メートル法の単位が表示されているならば帝国単位を付記することは許容されている[44][45]。しかし、帝国単位だけで値段がつけられている果物や野菜については寛大に見逃される傾向がある。カナダ環境省(英語版)はメートル法の単位系とともに帝国単位でも気象情報を提供するが、カナダのメディアの気象情報ではメートル法だけが使われる。ただし、アメリカとの国境近くにあるラジオ局のいくつか(CIMX、CIDRなど)は、気象情報で帝国単位を使い続けている。

普通の会話において帝国単位が今でも使われる。今日、カナダ人は日常生活でメートル法と帝国単位を混ぜて使う。しかし、メートル法と帝国単位の仕様の比率は年代により異なる。高齢者はほとんど帝国単位を使うが、若い世代はメートル法をよく使う。病院で新生児はSIで計測されるが、家族や友人には出生時の体重と身長は帝国単位で告げられる。運転免許では国際単位を使う。家畜の競売市場では、牛はハンドレッドウェイト(ショート)あたりのドルで売買されるが、豚は100キログラムあたりのドルで売買される。

帝国単位は、レシピ、建設、住宅リノベーション、庭造りでまだ支配的である[46][47][48][49][50]。土地は現在メートル単位で調査を受けて登記されるが、最初の調査では帝国単位が使われた。例えば、19世紀の終わりから20世紀初頭にかけて大草原を農場に分割する際には帝国単位が使用された。これが、カナディアン・プレーリー(英語版)で距離と面積の帝国単位がいまだに広く使用されている理由である。アパート、分譲マンション、家の大きさは平方メートルよりも平方フィートで表わされることのほうが多い。カーペットやフローリング・タイルは平方フィート単位で売られている。

自動車の燃費は100kmあたりのリットルと英ガロンあたりのマイルの両方で表わされる[51]。アメリカの自動車の燃費は米ガロンあたりのマイルで表わされるが、どちらの国もどのガロンが使われているか明記されていないため、カナダの車はアメリカの車よりも20%燃費が良いという誤った印象を招いている。カナダの鉄道は帝国単位を使い続けている(列車の長さ(フィート)、列車の高さ(フィート)、積載量(ショートトン)、速度(マイル毎時)など)[52]

銃と弾薬についても帝国単位が使われ続けている。薬莢の種類は帝国単位で表わされ、これは比較的最近発明されたもの(例えば.204 Rugerや.17 HMRなど。口径は1インチ以下の小数で表される)でも同様である。ただし、メートル法ですでに分類されている場合は、メートル法のまま(9x19mmパラベラム弾など)である。弾薬の製造において、弾丸と火薬の重量は、メートル法と帝国単位のどちらの薬莢についても、グレーンで表される。

航海や航空では海里(nautical mile)などの海事用(nautical)の単位が用いられるが、これは帝国単位でもメートル法の単位でもない。ただし、高度は帝国単位のフィートで計測するのが世界標準になっている[53]
オーストラリア詳細は「オーストラリアのメートル法化」および「en:Metrication in Australia」を参照

オーストラリアのメートル法化はほとんど完了し、帝国単位はごく一部で使用されるだけになった。飛行機の高度やテレビ画面のサイズなど、国際的にヤード・ポンド法が使用されるものはまだ残っている。ビールやサイダーは液量オンスに基づく大きさのグラスやジョッキで販売されるが、値は5ミリリットル単位に丸められている。
ニュージーランド詳細は「ニュージーランドのメートル法化」および「en:Metrication in New Zealand」を参照

ニュージーランドでは1970年代にメートル法化が完了した。しかし、1992年に書かれた大学生による研究論文によって、出生時の体重と身長を記録するのに、メートル法の単位とともに帝国単位が継続的に使用されていることが明らかになった[54]

航空業界は、古い帝国単位を使用している最後の主要な業界の一つである。高度と空港の海抜はフィートで計測される。それ以外の全て用途(燃料量、航空機の重量、滑走路長など)にはメートル法の単位を使用する。
アイルランド詳細は「アイルランドのメートル法化」および「en:Metrication in Ireland」を参照

アイルランド欧州連合に加盟してからメートル法に公式に切り替えた。1997年から新設の道路標識の距離をメートル法化し、2005年に速度制限をメートル法化した。限られた用途については帝国単位のままとされている。伝統的にパイントで売られるパブのビールの販売などである。他の全ての商品はメートル単位で売られることが法律で義務づけられている。ただし、バターやソーセージなどは454グラム(1ポンド)単位で売られている。2005年以前に販売された自動車の大部分は、マイル毎時を第一の単位とする速度計がついている。ただし、キロメートル毎時による表示もつけられている。
その他の国

いくつかの帝国単位は、カナダ、インド、マレーシア、スリランカ、南アフリカ、香港で限られた用途に残っている。不動産業者は、面積を記述するためにエーカーや平方フィートを使い続ける。特に人の身長については、会話や民間の出版物でフィートとインチがしばしば使われる。インドでは、インチ、フィート、ヤード、華氏度がそれらのメートル法の対応する単位とともにしばしば使われる。面積は未だにエーカーがよく使われるが、政府文書ではヘクタールが使われる。気象情報や天気予報では摂氏度は使われるが、体温には華氏度が使われる[55]

メートル法が使われるより前、マレーシアで固有名詞のない町や村を表わすのに、マレー語の単語batu(「岩」を意味する)を使って、主要な通りからの距離で表わした(例えば、batu enamは「第6のマイル」または「マイル6」の意味である)。それらの名前の多くは、国がメートル法を採用した後でも変わっていない。

アンギラアンティグア・バーブーダミャンマーケイマン諸島ドミニカ国グレナダモントセラトセントクリストファー・ネイビスセントビンセント・グレナディーンでは、石油は今も英ガロンで販売されている。2009年、アラブ首長国連邦の内閣は、2010年1月1日より、石油の新しい販売価格をガロンではなくリットルで定める布告第(270 / 3)を発行した。これは、国の法的な計測単位の基礎として国際単位系の使用を義務付けるという、2006年の国の計量システムについてのUAE内閣の決議第31号に基づくものである[56][57]。シエラレオネは、2011年5月に燃料をリットルで販売することに変更した[58]

2011年10月、アンティグア・バーブーダ政府は、国際単位系を単位の法的な制度として確立する2007年の計量法に基づいて、メートル法化プログラムを再始動すると発表した。アンティグア・バーブーダ政府は2015年の第1四半期までに帝国単位から完全転換すると約束した[59]
関連項目.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、帝国単位に関連するカテゴリがあります。


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