工学
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ウィリアム・ギルバートは、1600年に De Magnete を著し、"electricity"(電気)という言葉も史上初めて使ったということで電気工学の祖とされている[17]

機械工学の分野では、トーマス・セイヴァリ1698年に世界初の蒸気機関を作った[18]。蒸気機関の開発が産業革命をもたらし、大量生産の時代が始まった。

18世紀には工学を専門とする専門職が確立し、工学は数学や科学を応用する分野のみを指すようになっていった。同時にそれまで軍事と民間の工学とされていた分野に、それまで単なる技能とみなされていた機械製作も工学分野の一つとされるようになった。
近現代産業革命で大きな役目を果たしたワット蒸気機関は工学の重要性を示す歴史上の例である。

電気工学の発端は1800年代アレッサンドロ・ボルタの実験であり、その後マイケル・ファラデーゲオルク・オームといった先駆者の実験を経て1872年電動機が発明された。19世紀後半にはジェームズ・クラーク・マクスウェルハインリヒ・ヘルツの成果によって電子工学の分野が始まった。その後の真空管トランジスタの発明によって電子工学の発展が加速され、今では工学の中でも特に技術者の多い領域となっている[10]

トーマス・セイヴァリジェームズ・ワットの発明によって機械工学の発展が促された。産業革命期に各種機械やその修理や保守のための道具が発達し、イギリスからさらに海外へと広まっていった[10]

化学工学産業革命期の19世紀に機械工学と共に発展した[10]。大量生産は新素材や新製法を必要とし、化学物質の大量生産の必要性から1880年ごろまでに新たな産業として確立された[10]。化学工学はそういった化学工場や製法の設計を担っている[10]

航空工学航空機の設計を扱う分野で、航空宇宙工学はそれを宇宙船の設計にまで広げた比較的新しい学問分野である[19]。その起源は19世紀から20世紀にかけての航空機の先駆的開発にあるが、最近では18世紀末のジョージ・ケイリーの業績が起源とされている。初期の航空機は他の工学分野の概念や技法を取り入れつつ、大部分は経験主義的に発展していった[20]

ライト兄弟が初飛行に成功してわずか10年後には航空工学が大いに発展し、第一次世界大戦には軍用航空機が開発されるまでになった。一方で、理論物理学と実験を結合することで科学的な基礎付けをする研究が行われていった。

工学の博士号を最初に取得した人物は、イェール大学ウィラード・ギブズで、1863年のことである。これは自然科学分野でもアメリカ合衆国で2人目の博士号である[21]
コンピュータの利用スペースシャトルの大気圏再突入の際の高速な空気の流れのコンピュータ・シミュレーション

コンピュータが工学に果たす役割は大きくなっている。工学についてコンピュータが支援を行う各種ソフトウェアが存在する。数理モデルの構築や、それに基づいた数値解析もコンピュータを使用してなされている。

例えばCADソフトウェアは3次元モデルや2次元の設計図の作成を容易にする。CADを応用したデジタルモックアップ (DMU) や有限要素法などを使ったCAEソフトウェアを使えば、時間とコストのかかる物理的なプロトタイプを作らなくともモデルを作成して解析を行うことができる。

コンピュータを利用することで、製品や部品の欠点を調べたり、部品同士のかみ合わせを調べたり、人間工学的な面を研究したり、圧力・温度・電磁波・電流と電圧・デジタル論理レベル・流体の流れ・動きなどシステムの静的および動的特性を解析できる。これらの情報を総合的に関するソフトウェアとして製品情報管理がある[22]

特定の工学分野のためのソフトウェアもある。例えば、CAMソフトウェアはCNC機械に与える命令列を生成する。生産工程を管理するソフトウェアとして工程管理システム (MPM) がある。EDAは半導体集積回路プリント基板や電子回路の設計を支援する。間接材調達を管理するMRO (Maintenance, Repair and Operations) ソフトウェアなどもある。

近年では、製品開発に関わるソフトウェアの集合体として製品ライフサイクル管理 (PLM) ソフトウェアが使われている[23]
社会的状況

工学は本質的に社会や人間の行動に左右される。現代の製品や建設は必ず工学設計の影響を受けている。工学設計は環境・社会・経済に変化を及ぼす強力なツールであり、その応用には大きな責任が伴う。多くの工学系の学会は行動規約や倫理規約を制定し、会員や社会にそれを周知させようとしている。

工学プロジェクトの中には論争となっているものもある。例えば、核兵器開発、三峡ダム建設、SUVの設計と使用、重油抽出などである。これに対して、企業の社会的責任について厳しい方針を設定している工学企業もある。

工学は人間開発の重要な駆動力の1つである[24]。アフリカのサハラ砂漠周辺の工学的キャパシティは非常に低く、そのためアフリカ諸国の多くは独力で重要なインフラストラクチャを開発することができないでいる。ミレニアム開発目標の多くを達成するには、インフラストラクチャの開発と持続可能な技術的開発ができるだけの十分な工学的キャパシティを必要とする[25]

海外での開発や災害救助を行うNGOは技術者を多数抱えている。次のようないくつかの慈善団体が人類のために工学を役立てることを目指している。

国境なき技師団 (Engineers Without Borders)

Engineers Against Poverty (EAP)

Registered Engineers for Disaster Relief (RedR)

Engineers for a Sustainable World (ESW)

他の学問分野との関係
科学.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}科学者はあるがままの世界を研究し、技術者は見たこともない世界を創造する。—セオドア・フォン・カルマン現代のタービン。タービンが自然界にそのままあったわけではない。自然界に存在しなかったものを創造したわけである。また、その創造のために、様々な自然科学的な理論を大いに活用するが、実際に用いるのはそうした純理論だけではない。経験則も用いたおかげで、こうしたタービンも実現しているのである。

Fung らは古典的な工学教科書 Foundations of Solid Mechanics の改訂版の中で、次のように書いている。

工学は科学と全く異なる。科学者は自然理解しようとする。技術者は自然界に存在しないものを作ろうとする。技術者は発明を強調する。発明を具現化するには、アイデアを具体化し、人々が使える形で設計しなければならない。それは装置、道具、材質、技法、コンピュータプログラム、革新的な実験、問題の新たな解決策、既存の何かの改良である。設計は具体的でなければならず、形や寸法や数値が設定されていなければならない。新しい設計にとりかかると、技術者は必要な情報が全て揃っているわけではないことに気づく。多くの場合、科学知識の不足によって情報が制限される。そこで技術者は数学や物理学や化学や生物学や力学を勉強する。そうして工学における必要性から関連する科学に知識を追加することも多い。こうしてengineering sciences(理工学) が生まれた。[26]

科学的手法と工学的手法にはオーバーラップする部分がある。工学的手法は、科学的手法と、科学的に厳密には解明されていないが過去の同様の事例から確からしいと思われる経験則を組み合わせたものである。


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