工学は大半の分野で理学(数学・物理学・化学等)を基礎としているが、工学と理学の相違点は、ある現象を目の前にしたとき、理学は「自然界(の現象)は(現状)どうなっているのか」や「なぜそのようになるのか」という、既に存在している状態の理解を追求するのに対して、工学は「どうしたら、(望ましくて)未だ存在しない状態やモノを実現できるか」を追求する点である[注釈 2]。或いは「どうしたら目指す成果に結び付けられるか」という、人間・社会で利用されること、という合目的性を追求する点である、とも言える。
したがって工学では安全性、経済性、運用・保守性といった、実用上の観点の価値判断が重要である。使用できる時間・人員・予算等といった資源の制約の中、工学的目的を達成するための技術的な検討とその評価を工学的妥当性と言い、工学的な性質の分析には、環境適合性、使いやすさ、整備のしやすさ (Maintainability)、生涯費用(ライフサイクルコスト)など、(質量、速度などのある意味、即物的で一意的に測定できる性質とは違った、人間がある配慮のもとに構成した) <<評価方法>> が必要なものが多い。そうした評価方法の開発も工学の重要な分野とされる。
また公共の福祉に対する配慮も必要であり、工学各分野の学会(電気学会、土木学会など)では倫理的な内容を盛り込んだ信条規定(Creed)が定められている。工学には、他の学問の成果を社会に還元するための技術の開発という面もあるが、近年はそれに加えて、その技術の適用にあたっての長所、短所の調査(アセスメント)、調査結果とともに調査過程の資料を公表説明すること(アカウンタビリティ)が求められるようになってきている。
現代の我々が用いている意味での "engineering" という用法・概念は18世紀になって生まれたものであるが、その概念に合致するような営みは、実際には古代から行われていたとも考えられている。(→#歴史)
工学を実践する者を「エンジニア engineer」あるいは「技術者」と呼ぶ。日本では技術者の公式な資格の一つに技術士がある。 工学という用語や概念自体は歴史的に見れば比較的新しいものであるが、現代の「工学」という概念で照らしつつ人類の歴史を遡って眺めてみれば、それに相当するものは実際上は古代から存在していたと言うこともできる。 "engineering" という言葉・概念は比較的新しいもので、先に "engineer"(技術者)という言葉が存在していた。1325年ごろ文献に現れたときには「軍用兵器の製作者」を意味していた[7]。当時、"engine" には「戦争に使われる機械仕掛け」(例えばカタパルト)すなわち「兵器」という意味があった。"engine" の語源は1250年ごろラテン語の ingenium からできた語で、ingenium は「先天的な特性、特に知能」を意味し、そこから派生して「賢い発明品」を意味した[8]。なお、"engineer" は "engine" に接尾辞 "-eer" がついた形で「機関の操作者」という意味、といったような説明がたいへんしばしば見られるが、(少なくともそれが現在の意味における「機関」(engine)ではなく)誤り(異分析)であり、英語版Wiktionaryのengineerの記事でも「Sometimes erroneously linked with engine + -eer. 」としている[9]。 後に民間の橋や建築物の建設技法が工学分野として円熟してくると、civil engineering[10] (日本語にあえてすれば土木工学)と呼ばれるようになった。これは "engine" が元々「兵器」を意味していたことから、軍事とは無関係の分野であることを示すために "civil"(市民)とつけたものである。 つまり、古くは "engineering" という語は military engineering 軍事技術だけを意味していたことがある[6]。だが、18世紀以降は civil engineering(=軍事以外の技術)が発展し、それ以来 engineering という言葉は、エネルギーや資源を利用しつつ便宜を得る技術一般[6]を指すようになったのである。 近代的な「工学」と概念は上記のような経緯で形成されたわけであるが、そうした近代的な「工学」に合致するものを人類の歴史を遡ってあらためて探してみると、すでに古代にもそれは見つかる。
歴史