山荘
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日本の避難小屋には緊急避難専用の小屋と、自炊寝具持参の宿泊を念頭に置いた小屋がある。
緊急避難小屋

緊急避難専用の小屋は、大雨(ひょう)や強風 等から一時的に避難することを念頭に作られている。こうした無人小屋を手間とお金をかけて作り管理する人や組織があるおかげで毎年多くの登山者の命が救われていると言える。登山計画を立てる時は、登山路の途中に緊急避難小屋があるのを見つけたら、その位置をよく憶えておくといざという時に自分の命を救うことになる。

山形県蔵王山頂避難小屋

白山の登山道(平瀬道)にある大倉山避難小屋

日本の有人小屋

有人小屋では寝具が備え付けてある。

開設期間外は完全に閉鎖する山小屋がほとんどであるが、一部のスペースを冬季避難小屋として開放するところもある。雪崩の多発する谷間の山小屋の中には、冬季は建物を解体し、翌年の初夏に組立てなおすところも多く、容易に解体できる構造となっており、プレハブ小屋そのものの山小屋も存在する。

徳島県剣山頂上ヒュッテの食堂と売店

富士山吉田口頂上にある「扇屋」の売店

営業期間

高山の有人小屋の場合、北アルプスなど多くの登山者が訪れる地域では、営業期間は、6月中旬から10月中旬(あるいは11月初め)というところが多いが、メインルートから外れている小屋では、登山者の多い夏季だけの営業のところもある。西穂山荘新穂高ロープウェイが通年運行しており、その山頂駅から近い標高2,360 mの高地で通年営業を行っている北アルプス中では唯一の山小屋である[6]。また、標高が高く気象条件の厳しい富士山の山小屋は7・8月の2ヶ月しか営業しないところが多い。ただし5合目にある佐藤小屋は富士山で唯一通年営業を行っている[7]。高山であっても、八ヶ岳の一部の小屋のように、四季にわたって入山・宿泊者が見込める小屋では、通年営業をしている場合もある。
予約

従来は予約をせずに「飛び込み」利用をする利用者も多かった。これは、多くの山小屋では予約をしても基本的には旅館ホテルと違い、大部屋・相部屋での雑魚寝となり、予約無しで宿泊した場合と待遇の違いに大差がなかったからである。これは、山小屋がホテルや旅館等の宿泊施設とは異なり、緊急避難場所の役割も担っているという事情による。かつて、多くの山小屋は基本的には宿泊希望者を拒めないために、最混雑時は廊下や食堂に布団を敷いて就寝したり、他人と同じ布団で就寝することも起こりうる。

しかし、新型コロナウイルスの流行以降、密を避けるため、多くの山小屋では定員制を導入し、予約が必須のところや無予約の宿泊者は割高な宿泊料となるところが増加した。

ただし、予約無しでも宿泊可能の山小屋であっても、午後3時頃までに到着することが推奨される。目的地への到着が遅くなるほど、道に迷った場合のリカバリーが困難になるほか、遭難した場合に救助隊が駆けつけられないリスクが高まる[8]。また、山の天気は夕方に雨となることが多い。早着は山小屋宿泊の基本である。また、あまり遅い時間に到着すると夕食の提供ができなくなったり、相部屋の人々に迷惑をかけるためマナー上からも問題となる。

ただし、宿泊者を制限することにより入山者の総量制限を行っている尾瀬や、夜間登山が盛んで夜間でも道に迷う心配の少ない富士山伊吹山、交通路の整っている上高地など登山口の山小屋などは以前から定員以上の宿泊を受け付けていない。このような山小屋においては予約をしないと宿泊できない場合もありうるほか、宿泊できても食事の提供を受けられない場合がある。大峰山地域の山小屋のように、登山口に予約がない場合は宿泊ができないことを看板などで明示している場合もある。また、個室の利用を希望する場合も、予約がないと満室の場合がある。団体で利用する場合はどのような小屋でも、基本的には予約を必要とする。何人以上だと予約が必要かは小屋によって異なるので、予め問い合わせたほうが良い。逆に予約をしたからといって、暴風雨といった極めて悪条件の中を無理をして予約を入れた山小屋に向かうことは禁物である。警報が出た場合や交通機関がストップした場合は、ほぼすべての山小屋が当日のキャンセルであっても違約金を請求しないが、携帯電話や山小屋の公衆電話などで連絡がつけられる場合はキャンセルの連絡を入れるべきなのは当然である。悪天候程度での当日キャンセルは多くの山小屋はキャンセル料を必要とする。
山小屋の食堂・売店

有人小屋は昼間時間帯に食堂売店を営業することが多く、登山者に昼食を提供したり清涼飲料水菓子類を販売している。これらの施設を利用すると少々価格が高いことを考慮しても、食事等の荷物を減らすことができるメリットがある。また、水の確保の困難な稜線上の登山路においては飲料水を販売しており、トイレの利用も可能のため、登山者にとってはルート上の宿泊地以外の小屋も欠かせない存在であるが、営業期間や非営業日および、昼食や売店の営業の有無・営業時間の確認は必要である。富山県立山の大汝休憩所。休憩専用の山小屋
山小屋での食事福島県安達太良山くろがね小屋カレーライスの夕食

大抵の有人小屋は1泊2食付の宿泊ができるため、希望者には夕食および朝食が提供される。かつての山小屋の夕食は作り置きが容易なカレーライスが定番であった。現在はカレーライスを夕食に出す山小屋は少数派になったが、それでも富士山の多くの山小屋や南アルプスや東北地方などの一部山小屋や、不便な場所にある小規模な山小屋の一部では今でも毎日カレーライスが出される。ただ、多くの山小屋ではヘリコプターなどにより、比較的生鮮食料品の輸送が楽になったことや、大規模な自家発電を行うことにより冷蔵が可能になったことなどにより、バラエティに富んだ夕食を提供できるようになった。山小屋によっては予約することにより、本格的なコース料理を出すところさえある。ただ、最盛期は多くの宿泊者に対応するために、多くの小屋では味噌汁スープを除いては、何時間も前から予め皿に盛ることができる冷たいおかずがメインとなる。

最盛期は食堂の収容者数の数倍の宿泊者に対応するために、山小屋に到着した順番に数交代制で時間を決めて夕食を摂る場合もあり、食後に食堂でビールなどを飲んでゆっくりとできない時期もある。そのような時期は、最終回の夕食後にすぐ翌朝の朝食の準備が始まることが多く、食堂の談話室としての利用も時間が制限されることがある。もちろんシーズンオフや宿泊者の少ない小規模な山小屋では、ゆっくりと小屋のオーナーや管理人などと語らいながらの食事ができる場合もある。

山小屋では素泊まりや1食のみの利用も可能である。それらの利用者のために自炊スペースを用意した小屋もあるが、自炊スペースがない小屋の場合、食堂の片隅で自炊を認めるところや、晴天時は屋外のベンチ等でしか自炊を認めないところもある。
トイレ

トイレ排泄物の処理に苦労している山小屋が多く、宿泊者以外からは使用料を徴収することが多い。従来はほとんどが垂れ流し式であった[9]。便槽もなく、直接山の斜面や谷川に放流されるものや、一旦便槽に貯蔵して、秋の小屋閉めの時に便槽内に水を貯めてから一斉に放流する方法などがあった。常時放流式のトイレの中には、川の水を常時便器内に流すという、見かけは非常に清潔なものも存在する。従来型の便槽式の場合、便槽の壁や底をコンクリートなどではなく石垣等の隙間のあるものにし、液体はある程度周辺の土に浸透させることが多い。いずれにせよ周辺環境に与える問題や美観・悪臭の問題があったものの、もし便槽を空にしないまま冬を迎えると、便槽の内容物が完全に凍結し、翌年は使用できなくなる問題があったため、放流は止むを得なかった面がある。ただ、利用者が少ないトイレの常時少量放流の場合は自然にある程度分解するのも事実である。

その後環境意識の高まりや富士山における世界遺産登録問題もあり、少しずつ環境配慮型トイレが登場している[9]1999年(平成11年)から環境省による「山岳環境等浄化・安全対策緊急事業」で、国が費用の半額を補助して環境対策が行われている[9]。主なものは焼却型・バイオ型・簡易浄化槽型・内容物輸送型などがある。焼却型は石油プロパンガスで内容物を焼却する方法であるが、燃料コストが大きくなる上に、化石燃料の大量使用は地球環境全体には決して「環境配慮」とはいえない欠点がある。バイオ型と簡易浄化槽型は、低温の高山においてはそのままでは微生物の活動が充分に期待できない欠点があり、あまり多くの利用者があるトイレには利用できない。そのため常時自家発電機を運転して保温するなどの対策が立てられているトイレもあるが、燃料コストと化石燃料大量使用問題が、焼却型同様に発生する。内容物輸送型は便槽ごとヘリコプターなどで輸送する方法であるが、維持コストが非常に大きくなる上にヘリコプターが化石燃料を多く消費することは焼却型と同じである。山小屋でのトイレ維持管理のコスト対策として、チップ制を導入している山小屋もある[10]

新しく作られたトイレは、従来の山小屋のトイレのイメージを覆すものも多く、簡易水洗トイレや洋式トイレはもちろん、シャワートイレウォシュレット等)を設置する例もあり、山小屋のトイレは臭い・汚い・暗いというイメージは少しずつ改善されつつある。トイレがない山小屋や山域では携帯トイレの利用をする場所が設置され、その使用を推奨している例もある[10]

いずれにせよトイレによっては、指示に従ってトイレットペーパーを備え付けのゴミ箱に捨てたり、宿泊者以外は利用料金を必ず払うなど、登山者側の協力も大切である。また、自然環境に対する悪影響をできるだけ少なくするために、トイレ以外での用便は緊急時以外は慎むべきである。

従来型の便槽式トイレは、低温により微生物の働きが弱いため、トイレのアンモニア臭がひどく、大抵山小屋の宿泊棟や食堂からは離れて建てられており、深夜に行く場合や雨天時に行く場合は非常に面倒である。


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