山火事
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被害山火事と大量の煙燃える樹木
人的被害
直接的な死亡、怪我

高温の炎と大量の煙によって死亡する。2023年のハワイ・マウイ島山火事では114人の死亡が確認され、アメリカ国内の山火事としては過去100年で最悪の被害となっている[29][30]

消火に当たる消防士や兵士も犠牲となる[31]。1971年の呉市山林火災では18名の消防士が焼死で殉職している。
大気汚染による健康被害

急激かつ大量にが発生し、甚大な大気汚染が発生する。

2019年のオーストラリア森林火災では、危険とされる基準値の11倍に達する大気汚染が生じ、多くの住民が目や呼吸器の苦痛を訴え衛生担当者が懸念を表明する事態となった。煙は学校へも到達し、子どもたちは早退させられた。この汚染は一ヶ月以上継続している[32]

アメリカ・カリフォルニア州では山火事による煙で、一時世界で最も大気が汚染された都市となった[33]
物的被害

炎は家屋に延焼し住居家畜などの財産が焼失する。2023年のハワイ・マウイ島山火事では2,200棟以上の建物が損壊、 経済的な損失額は30億ドル(約43450億円)から75億ドル(約1兆875億円)の間とも推定されている[34][35]
環境への影響
動植物への影響

山に生息する野生の動植物への影響は大きく、2019年のオーストラリア山火事では約4億8000万の哺乳類、鳥類、爬虫類が死んだと推定されている[36]。豪政府のレイ環境相は「地域に生息するコアラの30%以上が死んだ可能性がある」と発言、地元メディアは最大8000頭のコアラ死亡の可能性を報じている[37]。また川も灰で汚染されることで、大量の魚が死滅する[38][39]
二次災害の発生焼け跡

樹木の焼失により山の吸水・保水能力は低下し、降雨を吸収することが出来なくなる。それによって土砂が流出しやすくなり、大雨のたびに洪水土砂くずれ土石流へと連鎖する[40]
オゾン層の破壊

山火事によるオゾン層の破壊が指摘されている[41]。 米マサチューセッツ工科大学などの研究チームは、大規模な山火事がオゾン層を破壊する可能性があると英科学誌ネイチャーで発表。「温暖化によって頻繁に激しい山火事が起きれば、オゾン層の回復を遅らせる可能性がある」と警鐘を鳴らしている[42]
その他

以上のように甚大な被害を引き起こすため、戦争時には、戦術の一つとして敵国内に山火事を引き起こすことが試みられることもある。第二次世界大戦において、日本軍はアメリカに大規模な山火事を起こすためオレゴン州の山林に焼夷弾を投下した。「アメリカ本土空襲」も参照
法律
刑事

日本の法律では、山火事を生じさせた場合以下の法律により処分される可能性がある。

過失による山火事:森林法第203条第一項違反により罰金(50万円以下)

放火による山火事:森林法202条により、自分の所有する森では七年以下の懲役、他人の森にまで広がった場合は二年以上の有期懲役

さらに住宅などにも燃え広がった場合、過失致死傷罪なども加わるケースがある[43]

シリアでは2021年、3人が死亡した大規模な山火事で放火を自供した24人が処刑された[44]
民事

アメリカ合衆国では、オレゴン州の森林に花火を投げ入れて約194平方キロ以上の森林が焼失する大規模な山火事の発端となった少年(当時15歳)に対し、36661万ドル(約40億円)を賠償するよう求める判決が出た[45]。 また少年には、5年間の保護観察と、林野当局と一緒に1920時間の奉仕活動が課されている[45]

カリフォルニア州で2017年と2018年に発生し、100人が死亡した山火事では、大手電力会社PG&Eの老朽化した電気設備が火災の原因とされた。同社は被害者から300億ドル超えの請求を受けるとして会社再生法を申請[46]。その後総額135億ドル(約1兆4600億円)の賠償金を支払うことで和解した[47]

日本国内では立木等の被害に対して賠償を求められた例がある。高知県内の国有林に小型機が墜落、7‐8haのスギ林が燃えた例では、所有者の国が搭乗者の遺族に対して4,500万円の損害賠償を求める訴訟を起こした[48]
各地の概況
日本

総務省消防庁調べによれば、直近5年間(2016年‐2021年)の林野火災平均出火件数は約1300件[49]。 林野火災の動向については、短周期で増減を繰り返しながら長期的には減少傾向で推移している。

林野火災の原因の上位は、たき火、火入れ、放火であり、人為的な原因により発生することが多い[50]。日本は国土の7割が森林に覆われているものの、夏場の湿度が比較的高いため、自然発火によって山火事が起きることは稀である。

異常乾燥やフェーン現象が拡大を助長させることがある。瀬戸内海の各島では多かれ少なかれ被災経験を持つ。かつては北海道でも山火事が頻発した時代があり、統計のある1886年から1945年の60年間に1,438,682町歩(約150万ha)が焼失[51]。1892年当時の北海道の森林面積が約390万haである[52]ことから、単純計算で森林面積の4割弱が被害を受けていたこととなる。

1971年(昭和46年)、広島県呉市の灰ヶ峰で発生した山火事は、死者17名を出す大惨事となった。これは戦後の林野火災としては最も犠牲者が多く、かつ17名全員が消防署職員であり、最も殉職者を多く出した火事としても記録に残っている。

2021年2月21日、栃木県足利市で大規模な山火事が発生した。ハイカーによるタバコの不始末と考えられている[53]

消火は、地上から消防車を用いて行うが、現場周辺の道路(林道)の状況によっては消火は困難になる。ヘリコプターの出動による消火剤の散布も行われるが、積載量は限られる上、天候や時間帯、ヘリポートからの距離に左右されるため確実性にかける。このため、水嚢(すいのう)を背負った消防団員らを投入する人海戦術に頼る消火も行われる[54]

優良な木材の生産地域で発生した場合、林業及び加工・流通などの関連産業に及ぶ被害額は甚大なものとなる。

対策として防火帯(防火保安林)の設置が行われるほか、道路の斜面緑化には枯れ草を出しにくい常緑性の牧草が採用されることがある。

北米

落雷などによる自然発火のほか、焼畑農業など人為的な原因により発生する。ヘリコプターや航空機による海水や湖水を汲みあげての空中消火も行われるものの、規模が極めて大きくなりがちであることから集落や道路などの拠点防御が目的となる場合も多い。基本的に自然鎮火を期待することとなる。

ロッキー山脈周辺の山岳地で時に発生し、数週間にわたって続くこともある。

各地で発生する山火事の消火作業を民間の消防会社にアウトソーシングする自治体も多く、複数の企業が参入したが採算性が低いため撤退も多い。

カリフォルニア州では刑務所の受刑者の中で危険度が低い者に消防教育を施した「受刑者消防隊」が山火事発生時に防火帯を築くなどの補助作業を時給1ドルの刑務作業として行うプログラムにより経費を節減している[55]


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