日本には9世紀末には伝来し、江戸時代に入ると、1670年(寛文10年)に刊本として刊行された[3]。それ以後、何度か和刻本が刊行され、戯作の素材としても用いられた[3]。 五蔵山経[注 2]とも。『山海経』の最も核となる内容を有する。古くはこの「山経」に属するものだけが存在していたと考えられる[6]。 主に異国についての情報を記している。五蔵山経に付け加えられたものであると考えられる。 古代においては『山海経』は絵地図としても構成されており、山・川・海・森林などが描き込まれ、そこに神・人物・動物・植物・鉱物が描かれていたと考えられている。とりわけ現行の『山海経』の特に海経に属する本文に存在する「杯に持って東に向かって立つ」(海内北経・蛇巫山)「几(つくえ)にもたれる」(海内北経・西王母)「東を向き崑崙の上に立つ」(海内西経・開明獣)などの描写は、本来は絵地図上に描かれた画像そのものの形を示していたと見られている[7]。 現在確認されている『山海経』の図を持つ文献には以下のものが主に存在する。いずれも明の時代、あるいは清の時代に作られた版本などであるが、この他、同種の絵巻物も存在していたと見られている。 『三才図会』などの類書には『山海経』が資料として引かれており、神・動物・異国などの情報と絵が収録されている。また、明の時代に邊景昭(べんけいしょう)の描いた絵巻物『百獣図』(1447年)にも『山海経』に由来するものと見られる動物などが多数描かれている[8]。 日本では、江戸時代に描かれた絵巻物などに『山海経』の版本に描かれている神や動物を描いたものが確認されている。ただし記された情報に錯綜など多くが見られることから『山海経』の原文そのものを資料としておらず、中間に別の資料があり、それらを参考にして描かれたものであると考えられている[9]。
構成
山経
南山経
《一経》招揺山から箕尾山まで。《二経》?山から漆呉山まで。《三経》天虞山から南禺山まで。
西山経
《一経》銭来山から?山まで。《二経》ツ山から?山まで 。《三経》崇吾山から翼望山まで。《四経》陰山から??山まで。
北山経
《一経》単狐山から?山まで。《二経》管?山から敦題山まで 。《三経》太行山からロ于毋逢山まで。
東山経
《一経》??山から竹山まで。《二経》空桑山から?山まで。《三経》尸胡山から無皋山まで。《四経》北号山から太山まで。
中山経
《一経》甘棗山から鼓鐙山まで。《二経》W諸山から蔓渠山まで。《三経》敖岸山から和山まで。《四経》鹿蹄山から玄扈山まで。《五経》苟牀山から陽虚山まで。《六経》平逢山から陽華山まで。《七経》休輿山から大?山まで。《八経》景山から琴鼓山まで。《九経》女几山から賈超山まで。《十経》首陽山から丙山まで。《十一経》翼望山から几山まで。《十二経》篇遇山から栄余山まで。
海経
海外南経
西南の隅から東南の隅にかけて。
海外西経
西南の隅から西北の隅にかけて。
海外北経
西北の隅から東北の隅にかけて。
海外東経
東南の隅から東北の隅にかけて。
海内南経
東南の隅から西のようす。
海内西経
西南の隅から北のようす。
海内北経
西北の隅から東のようす。
海内東経
東北の隅から南のようす。
大荒東経
東の海のようす。日や月の昇る地域のようす。
大荒南経
南の海のようす。
大荒西経
西北の海のようす。日や月の入る地域のようす。
大荒北経
東北の海の外のようす。
海内経
東の海の内のようす。
山海経図
明 広陵蒋応鎬絵図『山海経図絵全像』
明 胡文煥『山海経図』
清 『増補絵像山海経広注』
『怪奇鳥獣図巻』[10]
『十二霊獣図巻』 「ソウ」や「リョウシツ」など『山海経』に見られるものが描かれている。典拠には『三才図会』など類書との関係が見られている[11]。
『百鬼夜行画巻』 『百怪図巻』などに見られる日本の妖怪が描かれるが、後半に『山海経』のものが描かれている。長野市の真田宝物館に所蔵されている[12]。
山海経の神々と妖怪
開明獣
窮奇(キュウキ)
羲和
燭陰
饕餮(トウテツ)
禺彊(グウキョウ)
句芒(クボウ)
祝融(シュクユウ)
蓐収(ジョクシュウ)
西王母
女?(ジョカ)
九尾狐(キュウビコ)
讙(カン)
孟極
竦斯
白?
貫匈人(カンキョウジン)
?(キ)
天狗
応竜
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 四川大学の教授だった蒙文通の研究によれば、山海経のうち最も古い部分は蜀地方と巴地方について書かれた大荒経であり、その成立は西周時代後期にさかのぼる[1]。次いで同じ地域を扱った海内経の一篇が書かれたと見られている。
^ 五蔵(ごぞう)とは「東・西・南・北・中」を示している。
出典^ a b c 徐朝龍 1998, pp. 2?7.
^ 袁珂 著、鈴木博 訳『中国の神話伝説』上、青土社、1993年 359頁
^ a b c d e 日本古典文学大辞典編集委員会『日本古典文学大辞典第3巻』岩波書店、1984年4月、632頁。
^ 小川琢治 1928, p. 131.
^ 小川琢治 1928, p. 161.
^ 小川琢治 1928, p. 95.
^ 小川琢治 1928, p. 85.
^ 荒俣宏『アラマタ図像学1 「怪物」』小学館(小学館文庫) 1999年 98-113頁
^ 伊藤清司「大陸を跋扈する怪鳥奇獣たち」 別冊太陽『日本の妖怪』平凡社 1987年 139-141頁
^ 伊藤清司 監修・解説、磯部祥子 翻刻『怪奇鳥獣図巻:大陸からやってきた異形の鬼神たち』工作舎 2001年 ISBN 4-87502-345-6 同絵巻の全図全文を収録する
^ サントリー美術館 『動物表現の系譜』図録 1998年 119頁 静嘉堂文庫所蔵。同絵巻の全図(白黒図版)を収録する(96頁)
^ 『あの世・妖怪 信州異界万華鏡』長野市立博物館 2003年 32-33頁
参考文献
小川琢治『支那歴史地理研究』弘文堂、1928年。