山口方言に特徴的な助詞およびその他の品詞は多数あるが、主要なものは次のとおり。
接続助詞「でも」
打ち消しの逆接仮定条件を表す接続助詞「-でも」(共通語「-しなくても」)は、(1)動詞の未然形+打消助動詞「ん」+「でも」、(2)動詞の未然形(語尾が長音化)+「でも」、(3)動詞の未然形+打消助動詞「い」+「でも」の形で用いられる。
[用例] (1)行かん-でも、(2)行かー-でも、(3)行かい-でも(いずれも「行かなくても」の意)。
接続助詞「やー」
仮定条件を表す接続助詞「やー」(共通語「-ば」)は、動詞の仮定形に接続し、動詞語尾と融合して拗音化する。そのため、山口方言の動詞の仮定形はすべて拗音化している。元は共通語と同じく「-ば」の形だったが、音韻変化により「-やー」になったと考えられる。
[用例] 行き-ゃー(行けば)、見り-ゃー(見れば)。
接続助詞「けえ」
理由の接続助詞(共通語「-から」「-だから」)は、他の中国方言と同様に「-けえ」が盛んに用いられる。この他、「-からに」「-けに」「-けん」「-から」が見られる。
副助詞「なぇーと」
軽い提示・例示を表す副助詞(共通語「-でも」「せめて-なりとも」「せめて-ぐらい」)として、「なぇーと」が用いられる。室町時代末期から江戸時代にかけて頻用された副助詞「-なりと」の「り」がイ音便化したもので、現代共通語ではほぼ消滅したが、山口方言では「なぇーと」の形で残存している。
[用例] 水なぇーと飲みーさん(水でも飲みなさい)。
間投助詞「のんた」
周防方言の代表的な間投助詞「-のんた」は、「のー、あんた」が短縮したもので文末に用いられ、「-だよね」「-ですよね」という親愛・強調・念押しを表す。下関・豊浦方言(豊関方言)には見られない。俗に周防方言を「のんた弁」ともいう。「-のーた」「-ねーた」「-うんた」「-んた」の形をとることもある。
[用例] よーおいでました-のんた(よくお越しになりましたですねえ)。
終助詞「の」
強調・念押し・詠嘆を表す終助詞に「-の」がある。しばしば「-のー」と長音化する。他の中国方言と共通した終助詞である。
[用例] そりゃいけん-のー(それはダメだよ)、それい-のー(そうだよなー)。
終助詞「で」
念押し・断定・勧誘を表す終助詞に「-で」がある。共通語の「-ぜ」とほぼ同じ働きをもち、ザ行→ダ行の子音交替により「-ぜ」→「-で」と変化したと考えられている。
[用例] 来ちゃいけんで(来てはいけないぞ)、こりゃすごいで(これはすごいなあ)、はよ行こうで(早く行こうよ)。
終助詞「い」
念押し・強調を表す終助詞「-い」は山口方言に特徴的に見られる助詞である。後ろに他の終助詞「や」「ね」「の」を伴うことが多い。明確に「い」と発音されるよりも、軽く「ぃ」と発音される傾向が強い。
[用例] それ-い-ね(そうなんだよ)、やります-い-ね(やりますよ)、そりゃそれ-い-のー(そりゃそうだよなー)。
終助詞「-い」は、動詞の連用形の後に接続すると命令表現となる。「-い」の持つ念押し・強調の意が動詞に適用され、命令を表すようになったと考えられている。下一段活用動詞の場合、連用形の語尾はエ列音となるため、「-い」と連母音融合を起こして「-えー」と長音化する。
[用例] 歩き-い(歩きなさい)、食べー(食べなさい)。
終助詞「わー」
軽い強調・感情の表現として終助詞「-わー」がある。後ろに他の終助詞「や」「ね」「の」を伴うことが多い。「わー」の「w」音が脱落して直前の語尾と融合する現象もよく見られる。
[用例] 負けちょる-わー-やー、負けちょ-らー-やー(いずれも「負けてるのかよー」の意)。
終助詞「ちゃ」「ちゃー」
山口方言の特徴と言うべき終助詞が「-ちゃ」「-ちゃー」であり、念押し・呼びかけ・強調・断定を表す。直前の語との間に促音をはさむことも多い。山口県から北九州市、大分県、宮崎県にかけて頻用されているほか、仙台弁でも多用されることが確認されている。
[用例] それ-っちゃ(そうだよね)、よお-っちゃ(おい)、いけん-ちゃー(ダメだぞー)、食べり-っちゃ(食べなよ)、始まる-っちゃ(始まるぞ)。
準体言助詞「そ」
準体言助詞「-そ」も山口方言に独特な助詞である。事物・場所・人などを抽象的かつ指示的に表す語であり、体言性を強く持つ。「それ」の語幹の「そ」から由来した語と考えられている。「-そ」の同義語として、豊関・美祢方言では「-と」が用いられることもある。
[用例] あの-そ(あれ・あのこと・あの人)、最初の-そ(最初のもの)、丸い-そ(その丸いもの)。
終助詞「そ」「ほ」
前述の準体言助詞「-そ」は、その指示的な性格から強調を表す終助詞「-そ」としても使用されている。サ行→ハ行の子音交替により「-ほ」となることも多い。「-そ」は山口県中部で、「-ほ」は山口県西部で使用される傾向が見られる。「-そ」「-ほ」が上がり調子となるときは、疑問を表す。
[用例] 行く-そ(行くんだよ)、やな-そ(嫌なのよ)、これ書いた-そ!(これ書いたよ!)、ええ-そ?(いいの?)、そうな-そ?(そうなの?)。
感動詞「それ」
同意・驚嘆を表すのに頻用されるのが、感動詞「それ」である。成年以上の会話に頻出し、大人言葉としての性格が見られるとされる。ただし、こそあど言葉
山口方言には多岐に渡る俚言(方言語彙)が存在するが、主なものを挙げると次のとおりである。日常的に使用される語彙の中には、古語がそのまま残存している例がある。周辺の広島弁や北九州弁と共通する語彙、また西日本一帯で広く共通する語彙もあるため、以下は必ずしも山口方言特有の語彙だけではない。広島弁#語彙や北九州弁#語彙も参照のこと。
地形語彙
峠地形を「たお」といい(例:椿峠-つばきだお、吉敷峠