山口弁
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現代山口方言で最も盛んに使用されている副詞が「ぶち」である。「ぶち」は元々「打つ(ぶつ)」の連用形に由来しており、現在では「とても」「すごく」の意を表す強意の副詞として使用されている。伝統的な山口方言ではなく、1970年代頃から主に若年・青年層の間で使用されはじめた新方言であり、急速にほとんどの年齢層へ普及した(@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}山口県の東部では戦前でも「ぶち」は一般的に使われていたという意見もある[要出典])。だが最近は下関地区は対照的で「ぶち」はあまり使われておらず、「超」や「かなり」が使用される場合が多い。類似の副詞には、「ぶち」の他に「ぶり」「ばり」などがある。元は、「ごっぽう」「じょーに」などが使用されていたが、21世紀に入るまでにほとんど「ぶち」に取って代わられた。「ぶち」「ぶり」「ばり」は広島地方・北部九州地方にも伝播しており、「ばり」は兵庫県など関西地方でも使用されている。北部九州への伝播については、福岡のテレビ・ラジオ番組で活躍する山口県出身のタレント(安田栗之助)が、番組内で「ぶち」「ばり」を頻発したことによるとされる。
助詞・その他

山口方言に特徴的な助詞およびその他の品詞は多数あるが、主要なものは次のとおり。
接続助詞「でも」
打ち消しの逆接仮定条件を表す接続助詞「-でも」(共通語「-しなくても」)は、(1)動詞の未然形+打消助動詞「ん」+「でも」、(2)動詞の未然形(語尾が長音化)+「でも」、(3)動詞の未然形+打消助動詞「い」+「でも」の形で用いられる。

[用例] (1)行かん-でも、(2)行かー-でも、(3)行かい-でも(いずれも「行かなくても」の意)。

接続助詞「やー」
仮定条件を表す接続助詞「やー」(共通語「-ば」)は、動詞の仮定形に接続し、動詞語尾と融合して拗音化する。そのため、山口方言の動詞の仮定形はすべて拗音化している。元は共通語と同じく「-ば」の形だったが、音韻変化により「-やー」になったと考えられる。

[用例] 行き-ゃー(行けば)、見り-ゃー(見れば)。

接続助詞「けえ」
理由の接続助詞(共通語「-から」「-だから」)は、他の中国方言と同様に「-けえ」が盛んに用いられる。この他、「-からに」「-けに」「-けん」「-から」が見られる。
副助詞「なぇーと」
軽い提示・例示を表す副助詞(共通語「-でも」「せめて-なりとも」「せめて-ぐらい」)として、「なぇーと」が用いられる。室町時代末期から江戸時代にかけて頻用された副助詞「-なりと」の「り」がイ音便化したもので、現代共通語ではほぼ消滅したが、山口方言では「なぇーと」の形で残存している。

[用例] 水なぇーと飲みーさん(水でも飲みなさい)。

間投助詞「のんた」
周防方言の代表的な間投助詞「-のんた」は、「のー、あんた」が短縮したもので文末に用いられ、「-だよね」「-ですよね」という親愛・強調・念押しを表す。下関・豊浦方言(豊関方言)には見られない。俗に周防方言を「のんた弁」ともいう。「-のーた」「-ねーた」「-うんた」「-んた」の形をとることもある。

[用例] よーおいでました-のんた(よくお越しになりましたですねえ)。

終助詞「の」
強調・念押し・詠嘆を表す終助詞に「-の」がある。しばしば「-のー」と長音化する。他の中国方言と共通した終助詞である。

[用例] そりゃいけん-のー(それはダメだよ)、それい-のー(そうだよなー)。

終助詞「で」
念押し・断定・勧誘を表す終助詞に「-で」がある。共通語の「-ぜ」とほぼ同じ働きをもち、ザ行→ダ行の子音交替により「-ぜ」→「-で」と変化したと考えられている。

[用例] 来ちゃいけんで(来てはいけないぞ)、こりゃすごいで(これはすごいなあ)、はよ行こうで(早く行こうよ)。

終助詞「い」
念押し・強調を表す終助詞「-い」は山口方言に特徴的に見られる助詞である。後ろに他の終助詞「や」「ね」「の」を伴うことが多い。明確に「い」と発音されるよりも、軽く「ぃ」と発音される傾向が強い。

[用例] それ-い-ね(そうなんだよ)、やります-い-ね(やりますよ)、そりゃそれ-い-のー(そりゃそうだよなー)。
終助詞「-い」は、動詞の連用形の後に接続すると命令表現となる。「-い」の持つ念押し・強調の意が動詞に適用され、命令を表すようになったと考えられている。下一段活用動詞の場合、連用形の語尾はエ列音となるため、「-い」と連母音融合を起こして「-えー」と長音化する。

[用例] 歩き-い(歩きなさい)、食べー(食べなさい)。

終助詞「わー」
軽い強調・感情の表現として終助詞「-わー」がある。後ろに他の終助詞「や」「ね」「の」を伴うことが多い。「わー」の「w」音が脱落して直前の語尾と融合する現象もよく見られる。

[用例] 負けちょる-わー-やー、負けちょ-らー-やー(いずれも「負けてるのかよー」の意)。

終助詞「ちゃ」「ちゃー」
山口方言の特徴と言うべき終助詞が「-ちゃ」「-ちゃー」であり、念押し・呼びかけ・強調・断定を表す。直前の語との間に促音をはさむことも多い。山口県から北九州市、大分県、宮崎県にかけて頻用されているほか、仙台弁でも多用されることが確認されている。

[用例] それ-っちゃ(そうだよね)、よお-っちゃ(おい)、いけん-ちゃー(ダメだぞー)、食べり-っちゃ(食べなよ)、始まる-っちゃ(始まるぞ)。

準体言助詞「そ」
準体言助詞「-そ」も山口方言に独特な助詞である。事物・場所・人などを抽象的かつ指示的に表す語であり、体言性を強く持つ。「それ」の語幹の「そ」から由来した語と考えられている。「-そ」の同義語として、豊関・美祢方言では「-と」が用いられることもある。

[用例] あの-そ(あれ・あのこと・あの人)、最初の-そ(最初のもの)、丸い-そ(その丸いもの)。

終助詞「そ」「ほ」
前述の準体言助詞「-そ」は、その指示的な性格から強調を表す終助詞「-そ」としても使用されている。サ行→ハ行の子音交替により「-ほ」となることも多い。「-そ」は山口県中部で、「-ほ」は山口県西部で使用される傾向が見られる。「-そ」「-ほ」が上がり調子となるときは、疑問を表す。

[用例] 行く-そ(行くんだよ)、やな-そ(嫌なのよ)、これ書いた-そ!(これ書いたよ!)、ええ-そ?(いいの?)、そうな-そ?(そうなの?)。

感動詞「それ」
同意・驚嘆を表すのに頻用されるのが、感動詞「それ」である。成年以上の会話に頻出し、大人言葉としての性格が見られるとされる。ただし、こそあど言葉としての「それ」も存在する。

[用例] それ-っちゃ(そうだよ)、それ-それ(そうそう)、それ-いね(そうなんだよ)、それ-ぁー-それ(それは確かにそうだ)。

敬語表現
丁寧表現
山口方言の丁寧表現の代表が「-であります」である。太字の「あ」にアクセントを置く。この「アリマス言葉」は、明治初期に共通語や軍隊用語の丁寧表現に導入されたと言われている。ほぼ県全域で盛んに使用されるが、豊関方言や宇部方言ではあまり使用されない。また、過去形の「した」に丁寧表現の「です」を付け「したです」(標準語で言う「しました」)など、普通表現に「です」を加えた丁寧語が用いられる。
敬意・尊敬表現
軽い敬意を表す助動詞に「-やる」「-やーる」がある。室町末期以降の古語「-あり」の
連体形「-ある」が変化したもので、軽い敬意・親愛を示す。山口方言独自の敬意助動詞である。「来-やーる(来なさる)」などと用いられる。もう少し高い敬意を表す助動詞が「-なさる」で、長門方言では「-さんす」となる。行きなさる、行きさんす(いずれも「お行きになる」の意)。命令形は、「-なさる」が「-なされ・-んされ・-んはれ」となり、「-さんす」が「-さんせ・-しゃんせ・-さん・-さい」であり、丁寧な依頼表現となる。岩国市を中心に、敬意・尊敬表現として「お-る」が用いられる。接頭語「お」と「る」の間に動詞の連用形が入る。「お-やり-る(おやりになる)」「お-食べ-る(お食べになる、召し上がる)」。打ち消しは、「お-やり-ん」「お-食べ-ん」[2]。接続助詞「-て」は、動詞の連用形の後ろに接続すると尊敬表現となる。ナ行・マ行・ガ行・バ行の五段活用動詞の後ろに接続する時は、「-で」と濁音になる。日常生活で非常に多用されている表現である。

[用例] 部長が来-て-ですよ(部長が来られますよ)、ビールを飲ん-で-ですか(ビールは飲まれますか)。
「-ちゃった」も頻繁に使用される尊敬語である。尊敬の接続助詞「-て」と敬意の助動詞「-やる」の過去形「-やった」が融合して「-ちゃった」表現が成立したとされており、常に過去・完了の形をとる。ナ行・マ行・ガ行・バ行の五段活用動詞の後ろに接続する時は、「-じゃった」と濁音になる。しばしば「-してしまった」の意味で誤解される。

[用例] 部長が来-ちゃった(部長が来られました)、ビールを飲んじゃった(ビールをお飲みになった)。

語彙

山口方言には多岐に渡る俚言(方言語彙)が存在するが、主なものを挙げると次のとおりである。日常的に使用される語彙の中には、古語がそのまま残存している例がある。周辺の広島弁や北九州弁と共通する語彙、また西日本一帯で広く共通する語彙もあるため、以下は必ずしも山口方言特有の語彙だけではない。広島弁#語彙北九州弁#語彙も参照のこと。
地形語彙
峠地形を「たお」といい(例:椿峠-つばきだお、吉敷峠-よしきだお)、「垰」の字をあてることも多い。谷地形は「えき」といい、「浴」の字をあてる。
自称
自称表現には、男が「おいどま」「おどま」「おるま」「わし」などを、女が「うち」「わたし」「おれ」などを使用する。現在では、女が「おれ」と言うことはほとんど見られない。
その他


いけん - いけない・駄目だ。[用例]「そねえことしちゃいけん(=そんなことをしてはいけない)」「それ食うちゃいけん(=それは食べてはいけない)」下関地区や北九州市などではかなりの頻度で使用されており、どの方言よりも一番多く使用され使用率はかなり高い。[要出典]

いなげな - 変な・怪しげな。

いらう - 触る。「いろう」とも言う。[用例]「人のもん、いらうな!(=人のものに触るな!)」

ええ - 良い。西日本や東北地方で広く使用。

えっと・よーけ - たくさん。[用例]「ミカンよーけもろうたでよ(=ミカンをたくさんいただいたよ)」

えらい・こわい - 動詞として、疲れた。形容詞として、とても。特に前者は中部地方(名古屋弁など)から中国地方(広島弁など)にかけて西日本では広く聞かれる。東日本などでは「偉い」と勘違いされやすい。

横着な・ちゃくな - 生意気な。

おせらしい - 大人っぽい。

おてらさん - 僧侶。

かろう・かるう - 背負う。[用例]「ランドセルをかるう(=ランドセルを背負う)」

かやす - こぼす。[用例]「スープをかやす( = スープをこぼす)」

きなる - 気取る・格好つける。

くじゅうくる - 叱る。[用例]「先生にくじゅうくられたぁーね(=先生に叱られてしまったよ)」「そねえなことしちょったらおおくじくられるでよ(=そんなことをしていたらひどく叱られるよ)

こわい - 固い。[用例]「この昆布はちいとこわいけえ、よう噛みきられんちゃ(=この昆布はちょっと固いので、とても噛みきられないよ)」

さばる - もたれかかる

しあわせる - 幸いに存ずる。[用例]「○○していただければ幸せます(=○○していただければ幸いです)」

じら - わがまま。[用例]「じらくんなっちゃ!(=わがまま言うな!)」

しろしい - うるさい。うろうろ動いている人に対して「せせろしい」ということもある。

すじひき - 定規のこと。

せんない - 仕方がない・面倒くさい・つらい。

たう - (長さや高さが)届く。荷物が届くことには使わない。[用例]「このひも、たうか?(このひも届くか?)」「手がたわん!(=手が届かない!)」「もうちいとでたう(=もうちょっとで届く)」「とうた?(=届いた?)」


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