山口弁
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なお屋代島(周防大島)は内輪東京式アクセントである[1]
文法
動詞

山口方言の動詞活用は、共通語とほとんど差異はないが、若干、共通語と異なる活用をする動詞がある。山口方言の動詞活用の主な特徴は次のとおり。

五段活用「借る」
未然形借ら-ん、借ろ-う、
借るじゃろ-う連用形借り-て、借っ-た
終止形借る連体形借る-とき
仮定形借り-ゃー命令形借れ

上一段活用・下一段活用動詞の五段活用動詞化
文語で四段活用をする動詞で、共通語では上一段活用になっているものには、山口方言では五段活用として残っているものがいくつか存在する。代表的なものは「借る」(共通語「借りる」)であり、この他、「足る」「飽く」(共通語では「足りる」「飽きる」)がある。また、共通語で下一段活用の「任せる」「合わせる」(文語では下二段活用の「任す」「合わす」)が、山口方言では五段活用の「任す」「合わす」になる。

ナ行変格活用「往ぬる」
未然形いな-ん、いの-う、いぬろ-う、
いぬるじゃろ-う連用形いん-で、いん-だ
終止形いぬる連体形いぬる-とき
仮定形いに-ゃー、いぬり-ゃー命令形いね

ナ行変格活用「死ぬる」「往ぬる」
「死ぬる」「往ぬる(いぬる)」の2動詞は、現代共通語には存在しないナ行変格活用を行う。これら2動詞は、古語文法においてナ行変格活用を行っており、山口方言に古語文法が残存している一例である。ナ行変格活用における古語文法と山口方言の相違点としては、終止形(古語で「死ぬ」「往ぬ」)が連体形と同じ「死ぬる」「往ぬる」に変化していること、連用形(古語で「死に-て」「往に-て」)が撥音便を起こして「死ん-で」「往ん-で」に変化していること、仮定形(古語で「死ぬれ-ば」「往ぬれ-ば」)が山口方言では「死ぬり-ゃー」「往ぬり-ゃー」に変化していることが挙げられる。このうち仮定形での拗音化は、ナ行変格活用に限らず、山口方言の動詞活用全てに生じている現象である。

サ行変格活用「せる」
未然形せ-ん、せよ-う、
せるじゃろ-う連用形せ-て・せ-た
終止形せる連体形せる-とき
仮定形せり-ゃー命令形せ、せー

サ行変格活用「せる」
共通語のサ行変格活用動詞「する」は、山口方言では「せる」となり、共通語とは異なる活用を行う。また、サ行音→ハ行音への子音交替によって、主に周防地域で「へる」となっている。全般的に下二段的な活用を行うが、20世紀後期ごろから共通語「する」の影響が強くなり、「せる」と「する」が無意識に混用される傾向にある。

カ行変格活用「来る」
未然形こ-ん、こ-う、こよ-う、
くるじゃろ-う連用形き-て・き-た
終止形くる連体形くる-とき
仮定形くり-ゃー命令形こい、き-やー

カ行変格活用「来る」
共通語のカ行変格活用動詞「来る」も、山口方言では若干異なる活用を行う。
バ行・マ行・ワ行五段活用動詞のウ音便
バ行・マ行・ワ行の五段活用動詞の連用形は、促音便撥音便とはならずにウ音便となる。このウ音便化は、安芸方言・石見方言・九州方言と共通しており、山口方言がいわゆる「ウ音便地帯」に含まれていることを示している。

[用例] 飛ぶ→飛うで(トーデ)、挟む→挟うで(ハソーデ)、買う→買うて(コーテ)。

全動詞の仮定形の拗音化
全ての動詞は仮定形のとき、動詞の活用語尾と接続助詞「-やー」(共通語「-ば」が転訛したもの)とが融合し、「-ゃー」と拗音化する。
動詞「おる」
西日本方言で広く使用される動詞「おる(居る)」だが、近畿方言では「いる」と併用されるのに対し、山口方言ではもっぱら「おる」が使用される。
助動詞

山口方言を大きく特徴づけている品詞の一つが助動詞である。特徴的な助動詞のうち主要なものは次のとおり。
進行・継続「-よる」と完了・存続・結果「-ちょる」
山口方言では、動作の進行・継続を表す「-よる」と状態の完了・継続・結果を表す「-ちょる」の2種類のアスペクト表現が存在する。共通語には、こうした区別はなく、いずれも「-ている」で表される。西日本方言、とりわけ中国方言において進行アスペクトと完了アスペクトの区別が発達しており、山口方言のアスペクト表現もその一つである。進行・継続の「-よる」は、山口方言も周辺方言と差異はないが、完了・継続・結果の「-ちょる」は山口方言独特のもので、周辺方言では「-とる」である。県東部では、安芸方言の影響で「-とる」の使用が見られる。

[用例1] そっちへ行きよる(今そっちへ行く最中である、移動中である)。そっちへ行っちょる(既にそっちへ行って(到着して)いる)。

[用例2] 雨がやみよる(雨が今やみつつある)。雨がやんじょる(雨が既にやんでしまっている)。

打消「-ん」
打ち消しの助動詞(共通語「-ない」)は、他の西日本方言と同様に「-ん」となる。「-んか」では命令表現になる。

[用例]今日ゲームせんか?(今日ゲームしないか?)

打消完了「-だった」「-んじゃった」「-んかった」
打ち消し完了の助動詞(共通語「-なかった」)は、「-だった」「-んじゃった」「-んかった」となる。いずれも動詞の未然形に接続する。山口方言で特徴的なのが「-だった」で、元々は古語の打消助動詞「-ず」の連用形「-ざり」と口語の過去助動詞「-った」が融合した「-ざった」の形をとっていたが、ザ行→ダ行の子音交替により「-だった」(または「-じゃった」)となった。

[用例] そんとは見だった・そんとは見んじゃった(そんなものは見なかった)。よーやらだった・よーやらんじゃった(とてもやることはできなかった)。
以上の他、「-なんだ」「-んやった」が使用される場合もある。
断定「-じゃ」「-や」
断定の助動詞(共通語「-だ」「-である」)は、「-じゃ」「-や」となる。
推量「-ろう」
推量の助動詞(共通語「-だろう」)は、「-じゃろー」「-ろー」となる。県西部では「-ろー」の勢力が強く、「寝る-ろー(寝るだろう)」「行く-ろー(行くだろう)」などと用いられる。古語の推量助動詞「-らむ」の残存形だとされる。
過去推量「-つろー」
県東部では、過去推量の助動詞(共通語「-ただろう」)として、「-つろー」が使用されている。「食べ-つろー(食べただろう)」などと用いられる。古語の過去推量助動詞「-つらむ」の残存形とされる。
否定意思・否定推量「-まい」「-まー」
否定意思・否定推量の助動詞は、共通語と同じく「-まい」が用いられるが、共通語では日常会話にほとんど登場しないのに対し、山口方言ではごく一般的な表現として使用されている。また、「アイ」→「アー」の連母音融合により、「-まー」と発音されることが多い。「やる-まー、やら-まー(やらないでおこう)」「いけ-まー(だめだろう=いけないだろう)」などと使用される。
使役「-す」「-さす」「-らす」
使役の助動詞(共通語「-せる」「-させる」)は、「-す」「-さす」「-らす」となる。「やら-す(やらせる)」「食べ-さす(食べさせる)」「食べ-らす(食べさせる)」などと用いられる。
能力「-きる」
能力を表す助動詞に「-きる」がある。共通語の「-ことができる」に近い。「持ち-きる(持つことができる)」「走り-きる(走ることができる)」「パソコンをし-きる(パソコンを使うことができる)」などと用いられる。九州方言から伝播した助動詞であるとされる。
命令「-さん」「-さんせ」
命令の助動詞(共通語では「-なさい」「-ください」)は、「-さん」「-さんせ」となる。「-さんせ」の方がより丁寧なニュアンスが強い。「行き-さん」「来な-さんせ」などと用いられる。これとは別に「-さい」も存在し、動詞との間に助詞「ん」をはさむ。「行きん-さい」などと用いられる。県東部では、「-ない」「-まい」も存在する。いずれも動詞の連用形の後に付き、「行き-ない」「行き-まい」などと用いられる。
形容詞

形容詞「うれしい」
未然形うれしいじゃろ-う、うれしかろ-う、
うれしい-ろう連用形うれしかっ-た、
うれしゅう-なる
終止形うれしい連体形うれしい-とき
仮定形うれしけり-ゃー

形容詞の活用にも、共通語といくつかの差異がある。未然形は、「ながかろ-う」または「ながいじゃろ-う」となる。特に旧長門域では「ながい-ろう」という形も見られる。連用形は、共通語「ながく-なる」に対して山口方言「なごう-なる」とウ音便になる。仮定形は、共通語「ながけれ-ば」に対して山口方言「ながけり-ゃー」と連母音融合が起こる。また「無い」については、共通語「無けれ-ば」が山口方言では「無けり-ゃー」「無けんに-ゃー」「無けらんに-ゃー」「無けらに-ゃー」となる。
形容動詞

形容動詞「きれいだ」
活用形ジャ活用カリ活用型
特殊活用
未然形きれいじゃろ-うきれいなかろ-う、
きれいな-ろう、
きれいなじゃろ-う
連用形きれいじゃっ-た、
きれいで-あります、
きれいに-するきれいなかっ-た
終止形きれいじゃきれいな
連体形きれいな-ひときれいな-ひと
仮定形きれいなら、
きれいじゃったらきれいなけり-ゃー

山口方言の形容動詞の活用には、「ジャ活用」と「カリ活用型特殊活用」がある。
ジャ活用
ジャ活用は、共通語形容動詞の「ダ活用」とほぼ同一で、「だ」の代わりに「じゃ」を用いる。これはコピュラの「だ」が山口方言では「じゃ」となることに伴うものである。
カリ活用型特殊活用
ジャ活用とは別に、古語文法における形容動詞の「カリ活用」に類似した活用をする場合もある。古語が残存した形態ではないかと言われている。山口方言ではジャ活用よりも、このカリ活用型特殊活用の方が優勢である。特に終止形で「-じゃ」の形を用いることは少なく、圧倒的に「-な」の形が使用されている。

[用例] あのひたーほんまにきれいなね(あの人は本当にきれいだね)。

副詞

山口方言で特徴的な副詞には次のものがある。
可能・不可能を示す「えー」「よー」
山口方言に見られる副詞「えー」は、古語の可能・不可能を示す副詞「え(得)」に由来しており、以下に肯定文が続くときは可能表現となり、打ち消し文が続くときは不可能表現となる。

[用例]えー打つか(打てるか?)。えー打たん(とても打てない)。
副詞「よー」も「えー」と同様の働きをするが、古語の副詞「よく(能く)」のウ音便形であり、西日本方言に広く見られる。
強意のはたらきを持つ「さで」
強意のはたらきを持つ副詞に「さで」がある。「さで」自体に明確な意味内容はないが、「さで投げる」「さで捨てる」「さで込む」「さで入れる」などと用い、直後の動詞の意味内容を強調するはたらきを持っている。ただし、接続する動詞は限られており、「投げる」「捨てる」「入れる」といった、物を移動する動作の動詞に接続する傾向が強い。
新方言「ぶち」
現代山口方言で最も盛んに使用されている副詞が「ぶち」である。


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