山中貞雄
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藤井によると、学生時代の山中は勉強をほとんどやらず、教室では居眠りをしたり、教科書に漫画を描いたりしていたが[注 2]、それでいて成績はクラスの中位以上をキープしていたという[12]。この頃には映画熱が強まり、小遣銭を貰うとその大半を映画見物に費やした[13]。また、商業学校の映画愛好家たちと『ドリーム・ランド』と題した映画パンフレットを発行し、そこに『十銭白銅奇譚』という習作シナリオを連載した[14][15]
映画界入り

1927年、商業学校5年生の山中は映画監督になることを決意し、マキノ・プロダクション(マキノプロ)の若手スターで新進監督だった先輩のマキノ正博に手紙を出し、同社への入社を希望した[16][17]。さらにマキノの自宅を訪れ、正博の父親でマキノプロを主宰する牧野省三と面談し、入社を認められた[16][17]。同年3月、山中は第一商業学校を卒業したが、同校では卒業論文を書くという大学並みの制度があり、山中は「商品としての活動写真」という論文を提出した[14]。そして4月にマキノプロの御室撮影所に監督志望で入社し、台本部へ配属された[3]。台本部は、各地の支社や常設館に送る新作のレポートを作成する部門で、そこには全作品のシナリオが集まったため、脚本の勉強をするにはうってつけの場所だった。山中も台本部の作業に没頭しながら、たくさんのシナリオに目を通し、脚本作りの勉強をした[16]。マキノプロでは従業員がペンネームを名乗ることが多く、山中もそれに倣って「社堂沙汰夫(しゃどうさだお)」というペンネームを名乗った[16]

入社から2ヶ月後、山中は助監督部へ配属され、マキノプロの代表監督である井上金太郎監督のお盆用の特作映画『いろは仮名四谷怪談』(1927年)で助監督を務めた[3][18]。当時の助監督は、監督の補佐だけでなく、ロケ先の会計、俳優の出迎え、野次馬の整理などの雑事も任され、撮影がうまく進行するために走り回らなければならなかった[19]。しかし、山中はのろまで、いつも何もしないで監督の後ろに立っているだけで、隙あらばカメラのファインダーを覗こうとしてカメラマンに追っ払われた[19]。いつしか山中は「ダメな助監督」として撮影所内に知れ渡り、どの監督からも声をかけられなくなってしまった[19][20]。それでも撮影所は忙しく、会社としてもこのまま山中を遊ばせるわけにはいかなかったため、山中は新人監督の小石栄一などの組についたりして助監督1年目を過ごした[19]

1928年、なかなか監督から声がかからなかった山中は、それを見かねたマキノ正博の組につくことになり、『蹴合鶏』『浪人街 第一話 美しき獲物』などでサード助監督を務めた[20][21]。しかし、何をやらせてものろまで役に立たなかった山中は、助監督として落第だったため、ほかの助監督たちにどんどん先を越されてしまい、監督昇進のチャンスを見過ごしていた[20][22]。それにもかかわらず、山中は要領よく動こうとしたり、会社に監督昇進を頼み込んだりはしなかった[22]。この頃の山中は先輩助監督の吉田信三と仲良くなり、暇さえあればお互いの下宿に寄り合ってシナリオ修業に励んだ[21]。この時に2人で現代劇のシナリオ『街角行進曲』を共同執筆し、マキノ正博に賞賛されたが、諸事情で映画化には至らなかった[20][23]
シナリオライターに時代劇スターの嵐寛寿郎は、山中を脚本家または監督としてデビューさせた。

1928年10月、山中はマキノの勧めで、マキノプロから独立した嵐寛寿郎の独立プロダクションである嵐寛寿郎プロダクション(第一次寛プロ)にシナリオライター兼助監督として入社した[3]。マキノによると、撮影所の人たちの山中に対する「のろまな助監督」というイメージは相当深く根をおろしており、このままでは出世は望めそうにもなかったため、転社を勧めたという[20]。寛プロは、貸しスタジオの双ヶ岡撮影所で映画を作り、片岡千恵蔵などの独立プロ4社と日本映画プロダクション連盟を結成して自主配給に乗り出したが、すぐに経営難となり、他の独立プロが次々と解散する中、寛プロも連盟の瓦解で自主配給の道を絶たれ、撮影所も追い出され、さらにはスポンサーに逃げられて困窮した[24][25]。山中が入社したのはそんなジリ貧の時であり、その日の宿賃や飯代を手に入れるために寛寿郎のブロマイドを売り歩き、煙草も手に入れられないことからモク拾いをした[26]

山中の入社後、寛プロは金欠状態の中、奈良の旅館を拠点にオールロケで『大江戸の闇』と『鬼神の血煙』を撮影した。


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