屠畜
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pHの低下に伴い、筋源繊維タンパク質であるミオシンアクチンが強く結合してアクトミオシンを生成し、硬い状態になる。死後硬直中の肉は硬く、保水力も悪い[10]

屠殺の後、非可食部位やその他の副生物は取り除かれ、残ったものを枝肉と呼ぶ。牛や豚などの肉畜の場合は、正中線に沿って左右に切断される。このように左右に切断されたそれぞれを半丸枝肉と呼ぶ。ニワトリなどのように、枝肉の形態をとらないものもある。屠畜の後、屠体もしくは枝肉は冷却される。冷却ののち、屠体や枝肉のままでは流通に適さない場合、さらに部位ごとに解体する。

肉食という行為は、動物の生命を奪う事で自らの生命を永らえさせるものである。このため犠牲となる動物に感謝を捧げる思想も見られ、その感謝の意味で苦しませる事への忌避も見られる。その延長で動物の苦痛に対しても言及している文化もあり、例えばユダヤ教では「一回の切断で致命傷を与える(何度も切り付けない)」ために、屠殺に使う刃物(ナイフ)は「良く研磨されているもの」と定めている。これは「よく切れる刃物で切り傷を負った場合は、一時的な麻痺により負傷直後は余り痛みを感じない(後に治る過程での痛みはある)が、切れ味の悪い刃物で怪我をすると、切った直後から酷く痛む」という人間自身の経験によるものであると考えられる。多くの文明社会では、畜肉に対する感謝を表す人間の活動が大なり小なり見られ、感謝祭慰霊などといった宗教行事にも関連している。

牛を食べないヒンズー教徒が多いインドでは、州法で牛のと殺を禁止している州もある[11]
競走馬と屠殺

食用・加工用の家畜ではなく、競走馬など他の目的で飼育されていた動物が、結果的に屠殺される場合もある。

競走馬が成績低迷や高齢などを理由に競走生活を引退した後は、繁殖馬、乗馬クラブや学校馬術部等での乗用、動物園などの観光用、研究用などに転用、あるいは功労馬として余生を送る馬も存在するが、その割合は少数であり、大半の競走馬は屠殺されているのが実情である(参考→乗馬#乗馬への転身という意味)。功労馬でなくても牧場で余生を送る様に計らう馬主も存在し、余生を送ることが出来るか否かの判断は、経済的合理判断と共に多分に馬主のパーソナリティや牧場所有の有無などに負うところが多い。

屠殺後の用途として、馬肉に回される場合もある。日本では馬肉は「桜肉」と呼ばれ、古くから栄養豊富な食肉として、また「ニューコンミート」(→コンビーフ)のような代用食として親しまれている。ただし、江戸時代には生きた牛馬の屠殺は幕府の禁制の対象であり、自然死や事故死のものが「薬」にされた。食肉も禁制であったため、「薬」と称された。他の用途としては家畜飼料ウマの項を参照のこと。

日本で桜肉として流通しているのはペルシュロン、ブルトン、ベルジャンの混血種である日本輓系種を屠殺したものがほとんどである。これらは当初から食肉を目的に生産されるものと、ばんえい競走の競走馬を目的に生産されたものの、能力検定に不合格となったり馬主としての買い手が見つからないなどの理由で食肉に回されるものがある。またばんえい競走の競走馬でありながら、腸閉塞等の不慮の事故で斃死した馬は、そのまま桜肉として加工して厩舎関係者に配り、食する形で供養するという習慣が現在でもあるが、この習慣はサラブレッドなどの軽種馬の競馬の関係者の間ではみられない。

屠殺以外の殺処分においては、たとえ重度の負傷をした場合でも食用・加工用を前提としない薬物による安楽死処分が一般的である。殺処分の方法を選ぶ必要はあるものの、屠殺により馬資源を活用する方が本来は合理的ではあるのだが、競馬場内で重傷を負った馬を屠殺場へ移動させるというのは感情的な反発も強い。また1973年(昭和48年)10月に動物愛護法が制定され苦痛を伴う殺処分が法律により禁止された。

足を傷めることは競走馬全般において問題ではあるが、ことサラブレッドの場合は「速く走ること」に特化して品種改良が続けられた結果、その足はきわめて繊細なものであり、負傷に弱い。足を傷めると負傷がまでもを侵し、更に残った問題の無い足に負担が余計に掛かって関節炎などを併発、結果的に悶え苦しみ最悪の場合には衰弱死するか痛みでショック死する場合もある。このため予後不良と診断された競走馬は、動物愛護の見地から安楽死されることがある(→蹄葉炎)。

ウマの屠殺に否定的なアメリカ合衆国では、エクセラーファーディナンドといった有名な競走馬が、それぞれ輸出先のスウェーデン日本で屠殺され、市場に流通するなどした。同事件は米国内で問題視され、米下院で馬の屠殺禁止法案が可決されている。その他にも中央競馬八大競走で優勝したにも関わらず、日本中央競馬会の施設に送られず、行方不明になった馬も存在した。また、重賞レースを勝っているにもかかわらず、功労馬繋養展示事業の対象馬になる事無く処分される馬も多い。

先に挙げた米国の例のほかにも、特に競馬の盛んなイギリスのような国家では馬の繁用が難しくなったときには人道的な安楽死が求められ、屠殺に強い拒否感・嫌悪感を示す。食のタブーなど社会的な事情にも絡んだこの問題だが、日本ではペットとしてみなされ、まず屠殺されることなど無い(ただし保健所では捨て犬、捨て猫、野良が大量に処分されている)が、中国韓国などそれらを食べる文化を持つ地域では日常的に屠殺され、食肉市場に流通している状態と対比させると理解しやすい(→犬食文化)。こういった食文化の違いに端を発する動物の屠殺にまつわる文化摩擦は世界各地に多々存在する。
鶏の屠殺

日本では、まず、鶏を意識のある状態で逆さ吊り(懸鳥)し、その後、電気水槽で気絶処置(スタニング)を行い、続いて首の切断(放血)をするという方法、もしくは気絶処置無しで懸鳥→首の切断、という方法が一般的である。諸外国では、ガスで気絶処置を行った後で懸鳥→首の切断、という方法が行われることもある。これらの作業は一連の流れ作業で行われるが、このラインの処理速度が速いと動物福祉に悪影響を及ぼす。米国では速度を制限している[12]

逆さ吊り(懸鳥)は家禽にストレスを与えることが知られている[13]。また気絶処置なしでの放血は動物福祉上問題があるとして、EU指令「殺害時における動物の保護について」[14]の中では禁止されている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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