居住移転の自由
[Wikipedia|▼Menu]
身体の自由は、単に拘束されないという消極的な自由に止まらず、自分の好きな所に居住・移転する積極的な自由をも含む。

精神的自由権としての性格人が自分の好むところに移動することは、表現の自由集会の自由と密接な関係にある。また移動の自由は、人間の活動範囲を広げ、新しい人的接触の場を得る機会を与えることにより、人格の形成と成長に不可欠の条件となる。

居住移転の自由が多面的・複合的な権利であることから、その限界も、それぞれの場合に応じて具体的に検討する必要がある。精神的自由の側面に関わる場合には、経済的自由の側面に関わる場合に比べ、より厳格な審査基準を採用するべきである。
共通な制約

移民もしくは移住の)市民における国際的な旅行に関する制約はありふれている[8]。各国内では、未成年に対する旅行の自由はしばしばより大きく制限される。そして刑法は(たとえば仮釈放保護観察、登録のようにそれが)人々に犯罪の有罪を宣告したりまたは負わせるのに適用できるよう、この権利を修正しうる[9]

制約は次のことを含む場合がある。

(労働者の自由な移動もしくは移住の)労働市場の入り口での、国と地域の公式な最低限の賃金関税障壁

必要に応じて導入されそして所持されなくてはならない、公式な身分証明書(国内移動許可証、市民証)。

国の正当性にもとづき、住所もしくはその配偶者の変更を登録するような、市民における義務。

住宅建設、そしてしたがって特定の区域に定住するような、保護貿易論者の局所的あるいは地域的な障壁。

他の個人の所有地へ侵入すること。

私有地間での移動の自由

いくらかの裁判権において、ある土地の私的な所有者が特定の人物らを、ショッピング・モール公園のような、公の目的に使われる土地から排除できるものについての、その広がりにたいする疑問が生じた。
国内での制限

投獄の状況において最も顕著に、政府は犯罪の有罪を宣告された人物の、居住移転の自由を一般的に鋭く規制するかもしれない。
特定の国における入国制限詳細は「不法滞在」を参照

査証規制指数(英: Visa Restrictions Index)は、その国が幾つかの国にたいして査証なしに入国を認める人数によって国々を順位づけする。世界の多くの国々は、それらの領土にはいるその市民ではないものにたいして、査証もしくは入国の許可のいくらかのそのほかの書類を要求する。
特定の国における出国制限詳細は「不法移住英語: illegal emigration)」を参照

多くの国々は、有効な旅券、国際的な組織が発行した旅行書類または、幾らかの場合、身分証明書をもって、それらの市民が出国することを要求する。発行の条件と、旅券の発行を与えることを政府当局が拒絶することは、国々によって異なる。
日本
大日本帝国憲法(明治憲法)

大日本帝国憲法(明治憲法)は居住移転の自由について「法律ノ範囲内ニ於テ」認めていた。
大日本帝国憲法第22条
日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ居住及移転ノ自由ヲ有ス

明治憲法下の権利保障は原則として「法律ノ範囲内ニ於テ」または「法律ニ定メタル場合ヲ除ク外」認めるというものであった(法律の留保[10]

美濃部達吉はこの条文には国境外に移住する自由を含むと解していた[11]

また、伊藤博文の「憲法義解」は「定住シ借住シ寄留シ及営業スルノ自由」と捉えて営業の自由は居住移転の自由に含むものと捉えていた[1][12]。しかし、当時の学説における通説は営業の自由は憲法上保障されていないと解釈されていた[12]
日本国憲法

日本国憲法は居住移転の自由について22条1項に規定を置いている。
日本国憲法第22条第1項
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
移動の自由

日本国憲法第22条第1項の保障する居住移転の自由については、国内において住所又は居所を定めそれを移転する自由に限定されるのか、旅行の自由のように人間の移動の自由を含むかで学説は分かれる[13]
「公共の福祉」の解釈

日本国憲法第22条第1項の「公共の福祉」と、居住移転の自由の関係について学説は分かれており、
居住移転の自由は経済的自由権であるとして職業選択の自由と同様に、日本国憲法第22条第1項の「公共の福祉」による政策的制約を受けるとする説

居住移転の自由は、経済的自由権の一種とみるべきではないとして、日本国憲法第22条第1項の「公共の福祉」による制約は、職業選択の自由のみにかかるもので、居住移転の自由は日本国憲法第13条の「公共の福祉」による内在的制約のみを受け、政策的制約は許されないとする説

日本国憲法第22条の文言から、居住移転の自由も職業選択の自由と同様に、第22条の「公共の福祉」による制約を受けるが、居住移転の自由について、それが民主制の本質的自由など経済的自由の側面に関わらないものであるときは、精神的自由に近似した基準を適用すべきであるとする説

がある[14]
居住移転の自由の制約

居住移転の自由も一定の制約を受ける。

人身の自由の側面に向けられた制約

懲役刑や禁錮刑を受けた者の刑務所への拘禁(「刑法」)[15]

親権者の子に対する居所指定(「民法」821条)[15]

本人の保護及び社会衛生上の見地からの患者の強制入院や隔離(「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」第29条等)[15]


経済的自由の側面に向けられた制約

破産目的の遂行のための破産者の居住に係る制限(「破産法」第37条)[16]

職務の特殊性のための居住場所の制限(「自衛隊法」第55条等)[16]


海外渡航の自由の問題「海外渡航の自由」も参照

外国移住の自由については居住移転の自由(1項)とは別に日本国憲法第22条2項に規定されている。一時的な海外渡航の自由について、日本国憲法第22条の第1項と第2項のどちらで保障されているか見解は対立している。
周辺資料

伊藤正己『憲法』[第3版]弘文堂〈法律学講座双書〉、1995年。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}
NCID BN13665850。著者は元最高裁判事。基本的人権、統治機構の問題を解説した体系書。1995年当時の時宜を反映する問題や最高裁の重要な憲法判断などの論点・判例を盛り込む。

佐藤幸治『憲法』[第3版]青林書院〈現代法律学講座5〉、1995年。NCID BN12509576。憲法学習の基本書。第2版改訂箇所『第4編 基本的人権の保障』ほかを踏まえ、その後の学説・判例の動向を追った。別注に本文から割注(重要判例・論点)を抽出。

Baubock, Rainer ; Perchinig, Bernhard ; Sievers, Wiebke. (2009) Citizenship policies in the New Europe. 改訂補完版、アムステルダム大学出版局〈IMISCOE調査報告書〉、NCID BB00163877。

引用文献

主な編著者の順。

芦部信喜『憲法学III人権各論(1)増補版』有斐閣、2000年、560頁。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:35 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef