小児麻痺
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稀にポリオウイルス以外のエンテロウイルスが感染することでポリオウイルス様の症状を引き起こすこともある[15][16]
感染経路

急性灰白髄炎は糞口経路(腸管が感染源)ないし口口経路(口腔咽頭が感染源)によって感染し、いずれの経路も感染性が高い[14]。流行地域ではほぼ全てのヒトに野生型ポリオウイルスが感染する[17]温帯気候においては季節性に流行し、夏から秋にかけて新規感染が増加する[14]。一方、熱帯地域ではこの流行の季節性はほとんど不明瞭となる[17]潜伏期(incubation period)として知られる曝露から初期症状までの期間は、通常6日から20日で、最短で3日、最長では35日間となる[18]。ウイルス粒子は初期感染の後、数週間にわたって糞便中に排泄される[18]。ポリオは基本的には汚染された食べ物や水の摂取による糞口経路で伝播する。一方で偶発的に口口経路によって伝播することもあり[12]、特に公衆衛生が整備された衛生的な地域によって観察される[14]。ポリオの感染性は発症の前後7から10日の間に最も高くなるが、唾液や糞便中にウイルスが存在している限り感染の可能性がある[12]

ポリオの感染や重篤化の危険性を高くする因子として、免疫不全[19]栄養失調[20]、麻痺発症直後の物理的運動[21]ワクチンや治療薬の接種による筋骨格系の損傷[22]妊娠[23]がある。@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}妊娠時にウイルスは血液胎盤関門を通過できるが[要出典]、胎児は母体の感染にも[要出典]ポリオワクチン接種にも影響を受けないようである[24]。母体の抗体もまた胎盤を通過し、新生児を生後2?3ヶ月に渡りポリオ感染から保護する受動免疫を与える[25]
病態生理ポリオにより閉塞した腰部前脊髄動脈

ポリオウイルスは口から体内に侵入し、最初に咽頭か小腸粘膜の細胞に感染する。細胞への感染においては細胞表面に発現し、ポリオウイルス受容体としても知られる免疫グロブリン様受容体、CD155分子に結合することで細胞内へ進入する[26]。細胞内へ侵入したウイルスは宿主細胞のセントラルドグマを乗っ取り、複製を開始する。ポリオウイルスはおよそ1週間で消化器系の細胞内で増殖し、そこからさらに扁桃(特に扁桃の胚中心にいる、濾胞樹状細胞)、パイエル板M細胞を含む腸管リンパ組織、および頸部ないし腸間膜リンパ節へと感染を広げ、その場で十分に増殖を重ねる。そしてウイルスはさらに血流へと進入する[27]

ウイルス血症として知られる血流へのウイルスの拡散により、ポリオウイルスは全身へ拡散する。ポリオウイルスは血中およびリンパ液中で長期間生存、増殖可能で、17週間にわたり循環することがある[28]。少数の症例においてはウイルスが褐色脂肪細網内皮系、筋などの他の組織でも増殖する[29]。この持続的なウイルスの増殖は重度のウイルス血症を招き、軽微な感冒様症状の発展につながる。稀にこれがさらに進行し、ウイルスが中枢神経系へ侵入、局所的な炎症反応を誘起する。中枢神経系にウイルスが侵入してもなお、多くの症例ではを包む層状の組織、髄膜に炎症が限局し、これは非麻痺型無菌性髄膜炎と呼ばれる[5]。CNSへの感染がウイルスに与える利点は無いと考えられており、CNSへの感染は通常の消化器感染から事故的に生じるようである[30]。ウイルスがCNSへと広がる方法はほとんど理解されていないが、基本的には偶発的であるようで、感染者の年齢、性、社会経済学的地位はCNSへの移行の有無にはほとんど影響しない[30]
麻痺型ポリオポリオウイルス感染に続発する骨格筋組織の神経細胞破壊が麻痺の原因となる。

感染者のおよそ1%でポリオウイルスは特定の神経線維にそって感染を広げ、脊髄脳幹、運動皮質の運動ニューロンを好んで細胞内において増殖、これを破壊する。これが麻痺型急性灰白髄炎の形成につながる。麻痺型のポリオの様々な臨床型(脊髄型、延髄型、延髄脊髄型)は神経が受ける損傷の大きさと炎症が起きる部位、影響を受けるCNSの部位が異なるだけで本質的には同一である。

神経細胞の破壊は後根神経節内に病変を形成する。同様の病変は網様体、前庭神経核、小脳虫部、深部小脳核にも形成されうる[30]。麻痺に関連した破壊的変化はは他にも前脳領域、特に視床下部視床に発生する[30]。ポリオウイルスが麻痺を起こす分子機構はほとんど理解されていない。

早期麻痺型ポリオの症状は高熱、頭痛、背部と首のこわばり、様々な部位における非対称性の筋力低下、接触への過敏、嚥下困難筋肉痛、表在反射と深部反射の消失、痺れ、神経過敏、便秘、排尿困難などである。麻痺へは通常、発症の1日から10日後に進行し、2日から3日継続、発熱が収まるとそれ以上進行しない[31]

麻痺型ポリオ発症の期待値は年齢と共に増加し、麻痺の範囲も同様である。小児においてはCNSに感染した症例でも非麻痺型髄膜炎に帰結する事がほとんどであり、麻痺は1000件当たりでわずか1件においてのみ発生する。一方で成人の場合、麻痺型は75件当たり1件の頻度で発生する[32]。5歳以下では片方の脚の麻痺が最も多い。しかし、成人では胸部および腹部を冒す広範な麻痺が四肢にも影響する(頸髄損傷)事がより多くなる[33]。麻痺型の頻度は感染したポリオウイルスの血清型によっても変化し、一番高い1型では1/200、一番低い2型では1/2000の頻度でそれぞれ麻痺を生じる[34]
脊髄ポリオ脊髄前角における運動ニューロンの位置

脊髄ポリオは麻痺型ポリオで一番多い型で、前角、すなわち脊柱腹側にある灰白質の運動ニューロンにウイルスが侵入した結果として生じ、この運動ニューロンは胴部、四肢、肋間の筋肉を含む、筋肉の運動を支配する[7]。ウイルスの侵入は神経の炎症を生じ、運動ニューロンの神経節の損傷と破壊に繋がる。脊髄の神経細胞が死ぬと、ワーラー変性が発生、死んだ神経細胞が元々支配していた筋肉は弱ってしまう[35]。神経細胞の破壊によって被支配筋は脳や脊髄からの信号を受け取れなくなり、神経刺激を受け取らなくなった筋は萎縮、弱った筋肉は制御困難になって最終的に完全な麻痺に至る[7]。麻痺の重篤度は急速に最大に達し(2日から4日)、通常発熱と筋肉痛を伴う。深部腱反射にも影響はおよび、消失ないし低下する。一方で麻痺した四肢の感覚障害が起こることはない[36]

脊髄麻痺の範囲は影響を受けた神経の領域に依存し、頸部胸部、腰部の各領域に影響が及ぶ可能性がある[37]。ウイルスの影響が体の両側におよぶこともあるが、多くの場合、麻痺は非対称的である[27]


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