小さいおうち
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二・二六事件についても、岡田首相が女中の機転によって助かったというエピソードの方が誇らしげに語られる[3]。「贅沢は敵だ」がスローガンだった時代に、抑圧される暗い日々ではなく、そういう状況にありながらも、時子のために暮らしに彩りを添えようとしたタキの姿は、当時の市井の生きた女たちの姿を想起させる[4]。教科書などで語られる史実は、しょせん誰かの解釈であって、バラバラすぎて描きにくく、簡単にまとめることのできない〈その時代に生きていたひとの感情・事柄〉がタキの回想録から自在に溢れてくる[3]。また、ライターのアライユキコは、平井家でタキのために用意された「たった二畳の板間」という空間から愛情と身びいきで凝視された小さな昭和史、その感覚で描き切っているところが素晴らしいと絶賛する[3]。また、人が自分史を語る時にやってしまいがちな、都合の悪いことや思い出すのもつらいことの隠蔽や捏造が最終章で明らかになることで、物語の奥行きが増している[2]

直木賞の選評では、丹念な取材と精密な考証によって時代の空気を描き切った著者の作家としての資質の評価、及び次作への期待の高まりが感じられる点(浅田次郎)、全体の完成度は高く、受賞作とするのに大きな異議はない(北方謙三)など概ね高評価だが、この設定ならもっといろいろなことができるのにもったいない(宮部みゆき)、昭和モダンの家庭的な雰囲気はある程度書けてはいるが、肝心のノートに秘められていた恋愛事件がこの程度では軽すぎる(渡辺淳一)といった評が成された[5]
映画

小さいおうち
The Little House
監督
山田洋次
脚本平松恵美子
山田洋次
原作中島京子
製作総指揮迫本淳一
出演者松たか子
黒木華
片岡孝太郎
吉岡秀隆
妻夫木聡
倍賞千恵子
橋爪功
吉行和子
室井滋
中嶋朋子
林家正蔵
ラサール石井
あき竹城
松金よね子
螢雪次朗
市川福太郎
秋山聡
笹野高史
小林稔侍
夏川結衣
木村文乃
米倉斉加年
音楽久石譲
撮影近森眞史
編集石井巌
配給 松竹
公開 2014年1月25日
上映時間137分
製作国 日本
言語日本語
興行収入12.6億円[6]
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2014年1月25日公開。監督は本作が通算82作目となる山田洋次で、直木賞受賞作の映画化、およびラブストーリーへの挑戦は初めてである[7]第64回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に選出され[8]、黒木華が最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した[9]

2015年3月1日に、テレビ朝日系列『日曜洋画劇場』の特別企画として、地上波初放送された(文字多重放送 / データ放送[10]
ストーリー

大学生の健史の大叔母であったタキが亡くなる。遺品の中には赤い屋根の家の絵があったが、健史の父の一言で処分される。そのうち、健史宛ての品が見つかる。開けてみるとタキが健史にうながされて大学ノートに書き記していた自叙伝があった。健史はそんなに明るい時代じゃなかったんじゃないの、というが、タキには未来に満ちた時代に思えたのだった。恋愛の話も書いてよ、という健史に対し、タキはそんなのはなかったと言い生涯独身を貫いた。

昭和11年、タキは山形から上京し小説家の女中となるが、その後、小説家の妻からの紹介でおもちゃ会社の常務をしている平井家へ奉公に上がる。平井家は東京郊外にあり、前年に建てられたばかりの少しモダンな赤い瓦屋根の小さいおうちだった。平井とその妻・時子、かわいらしいが小児まひになった息子・恭一らとの穏やかな暮らしが続く。時子は美人でやさしく、『風と共に去りぬ』を愛読する聡明な女性であった。

だが、おもちゃ会社に新しく入った芸大卒の青年・板倉の出現で状況は一変する。板倉は平井家にストコフスキーのレコードを見つけ、彼が出演したディアナ・ダービン主演映画『オーケストラの少女』の話で時子と意気投合する。演奏会でも出会い、板倉は帰りに近藤書店で買った『タンクタンクロー』を恭一の土産にと手渡す。

そして台風が来た時、雅樹が出張先から戻れないことを報せに駆けつけた際には、2階の雨戸を固定した後で一晩泊まることになった。その夜、時子と板倉は接吻してしまう。

そんな中、タキに縁談の話が来る。しかし相手は53歳の老人という、あまりにも年が離れていることもあり、タキは嫌がり、破談となった。

おもちゃ会社の存続のために板倉を打算で結婚させようとする平井は、時子に板倉の説得をするように言う。板倉の下宿に通ううちに時子の気持ちが揺れ、恋愛へと発展し、タキはその狭間で悩んでしまう。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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