寛容
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? ジョン・ロック『寛容についての書簡』[15]

第二に、人の認識範囲は狭く、また誤り易いので、自分の宗教的な意見が正しく、他人のそれが誤っているということについて、確実な知識を持てない[16]

確かに、国王は他の人々よりも権力という点では生まれながらに上位にあります。しかし、自然においては平等です。支配の権利も支配の技術も、それ以外のことがらの確実な知識を伴うものとは限りませんし、ましてや真の宗教の知識を伴うものではさらさらないのです。 ? ジョン・ロック『寛容についての書簡』[17]

第三に、暴力という強制によって人々を救済することはできない[18]

さらにまた、これら二つの意見を異にする教会のいずれかが正しいことが明らかであったとしても、だからと言って、その正しいほうが他方の教会を破壊する権利が生じることはないでしょう。なぜなら、教会は世俗のことがらに関してはいかなる支配権をも持つものではなく、人々の心に誤りを納得させ、真理を教えるのに、火や剣は決して適切な道具ではないからです。 ? ジョン・ロック『寛容についての書簡』[19]

このようなロックの寛容論の通奏低音は、可謬的な人間という人間像である[20]
ヴォルテールの寛容論

ロックからほぼ半世紀後のフランスの思想家であるヴォルテールも、自身の寛容論を人間の誤り易さによって基礎付けている。

寛容とは何であるか。それは人類の持ち分である。われわれはすべて弱さと過ちからつくりあげられているのだ。われわれの愚行をたがいに許しあおう、これが自然の第一の掟である[21]。…(中略)…われわれがたがいに赦しあるべきことのほうがいっそう明らかである。なぜならば、われわれはみな脆弱で無定見であり、不安定と誤謬に陥りやすいからである[22]。---ヴォルテール『哲学辞典』「寛容」の項目

このようなヴォルテールの寛容論は、新教徒冤罪で処刑されるというカラス事件の再審請求運動を経て、「恥知らずを粉砕せよ」というモットーの下で、ある種の不寛容さを含む正義論へと発展していった[23]。そこに現れているのは、「不確実はほとんど人間の宿命である」にもかかわらず「いずれかに立場を決めねばならず、それも場あたりであってはならない」という綱渡り的な実践的思考である[24]
マルクーゼの『抑圧的寛容』

ヘルベルト・マルクーゼもまた、1965年に出版された『純粋寛容批判』に納められた論文『抑圧的寛容』(en:Repressive Tolerance)において権力者への隷属や多数決で規定される民主主義的権力の横暴の容認を『消極的寛容』(passive tolerance)と批判し、社会的弱者を虐げる権威や権力を容認しない『抑圧的寛容』を主張した。しかし論文の最終部分で保守主義者の批判に対して次のように反論した。しかしながら、既成の半民主主義の代替は、たとえそれがいかに知的であっても独裁やエリートではなく、真の民主主義に向けての戦いである。[25]

この点で彼の多数決批判論はプロレタリアート独裁エリート主義ではなく『法の支配』に近い。
脚注[脚注の使い方]
出典^ 保坂俊司「インド仏教思想における寛容思想とその展開」釈悟震 他『インド宗教思想の多元的共存と寛容思想の解明』山喜房仏書林、2010年、pp.240-282.
^ “ ⇒Tolerance”. Merriam Webster. 2012年4月7日閲覧。
^ a b 深沢克己『信仰と他者?寛容と不寛容のヨーロッパ宗教社会史』東京大学出版会、2006年, i頁
^ 深沢克己 (2006, p. 19)
^ a b c d e 宇野p89-97
^ 井上公正『ジョン・ロックとその先駆者たちーイギリス寛容論研究序説ー』お茶の水書房、1978年、p.33-34.
^ 井上公正 (1978, p. 34)
^ 井上公正 (1978, p. 35)
^ 井上公正 (1978, pp. 34?35)
^ 井上公正 (1978, p. 36)
^ 井上公正 (1978, pp. 38?39)
^ 井上公正 (1978, p. 246)
^ 井上公正 (1978, pp. 247?250)
^ 井上公正 (1978, p. 247)
^ 大槻春彦責任編集『ロック ヒューム〔第3版〕』世界の名著27、中央公論社、昭和45年、p.361.
^ 井上公正 (1978, p. 248)
^ 大槻春彦責任編集『ロック ヒューム〔第3版〕』世界の名著27、中央公論社、昭和45年、p.369.
^ 井上公正 (1978, p. 250)
^ 大槻春彦責任編集『ロック ヒューム〔第3版〕』世界の名著27、中央公論社、昭和45年、p.363.
^ 大槻春彦責任編集『ロック ヒューム〔第3版〕』世界の名著27、中央公論社、昭和45年、p.18-19.
^ 串田孫一責任編集『ヴォルテール ディドロ ダランベール〔第7版〕』世界の名著29、中央公論社、昭和52年、p.327.
^ 串田孫一責任編集『ヴォルテール ディドロ ダランベール〔第7版〕』世界の名著29、中央公論社、昭和52年、p.334.
^ 串田孫一責任編集『ヴォルテール ディドロ ダランベール〔第7版〕』世界の名著29、中央公論社、昭和52年、p.26-27.
^ 串田孫一責任編集『ヴォルテール ディドロ ダランベール〔第7版〕』世界の名著29、中央公論社、昭和52年、p.27.
^ ヘルベルト・マルクーゼ、『抑圧的寛容』ロバート・ボールウェルク、ベリントン・モア2世との共著『純粋寛容批判』 せりか書房 1968年に所録

参考文献

宇野重規『西洋政治思想史』有斐閣、2013年。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 978-4-641-22001-0。 

関連項目ポータル 哲学

相対主義

良心の自由

良心の囚人

信教の自由

寛容のパラドックス

アクセプタンス

宗教寛容令

国際寛容デー

イントレランス

外部リンク

Toleration
(英語) - インターネット哲学百科事典「寛容」の項目。

Toleration (英語) - スタンフォード哲学百科事典「寛容」の項目。





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