本作の画面中央には、手にした燃えかすの炭に息を吹きかけ、もう一方の手に持ったロウソクに火をつけようとしている少年、または少女がいる。その左背後からは、鎖で繋がれた猿が首を出して火を眺めている。反対側の最前景には、赤い帽子を被った、おどけたような様子の髭面の男性が横向きで描かれている。火から放たれる光が少年、または少女の顔と右手の掌を白く照らし、猿と男性の顔をもぼんやりと浮かび上がらせている[1]。
本作は、『ロウソクの火を灯す少年』の構図に成年の男性と猿を加えていることから、美術を「自然の猿真似」として示しているとも解釈しうるであろう。しかし、「男は火、女は麻くず、悪魔がやってきて息を吹きかける」というスペインの古い諺と本作との関連も指摘されている。この作品では一見したところ女性は登場しないが、男女の愛に関わる何らかの文学的出典に依拠しているとも考えられる。事実、「火を吹く」という行為には、性欲を掻き立てるという象徴的な意味合いがあり、また猿は伝統的に肉欲の奴隷、罪の象徴でもあった。中心人物の性別がはっきりしないことや、男性の意味ありげな笑いから、本作にこうした寓意を読み取ろうとする研究者もいる[1][2]。
この作品は何かしらの暗喩を含んだ寓話か、戯画であるか、道徳的メッセージを持つものか、あるいは絵画についての考察であるのか、色と光の習作であるのかもしれない。そのすべてがありうる、謎の作品である[2]。
なお、本作には他の2点のヴァージョンに加えて、様々な模写があるが、それらの模写は質の点からエル・グレコの作とは考えられない。本作は、他の2点のヴァージョンに比べ周囲が切断されているため若干サイズが小さい[1]。制作時期としては最初に描かれたもので、色調が明るく、明度も高い[2]。
同主題作
エル・グレコ『寓話』(1587-1597年ごろ)個人蔵
エル・グレコ『寓話』(1587-1597年ごろ)スコットランド国立美術館、エジンバラ
脚注^ a b c d e プラド美術館ガイドブック、2009年刊行、57頁 ISBN 978-84-8480-189-4
^ a b c d e f g プラド美術館展 スペインの誇り、巨匠たちの殿堂、2006年刊行、64頁
^ プラド美術館の本作のサイト [1]