富の再分配
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学者の見解「正義#アリストテレス」および「厚生経済学」も参照

所得再配分については、両極端の考え方があり、社会全体で見て、人々が得た所得の総額が高いほど幸せであり、所得の再配分をしなくてよいという考え方(ジェレミ・ベンサム功利主義)と、社会で最も所得の低い人の幸せによって、社会全体の幸せの度合いが決まるため、所得は平等に分配されるべきという考え方(ジョン・ロールズの格差原理[10])がある[11]

経済学者飯田泰之は「最低限度の生存が保証されてこそ、長期的な計画・行動・チャレンジが可能となる。これが成長を支えるための再配分政策の必要性である」と指摘している[12]。飯田は「再配分政策は、ベンチャー精神を下支えすることによって、社会を活性化させる政策である」「再配分政策がまったく行われない場合、極度の経済格差が広がってしまう可能性がある」と指摘している[13]。また飯田は「行き過ぎた再配分政策は『頑張って働いても損しかしない』という結果を招きかねない政策でもある。再配分政策は、行き過ぎると社会全体の生産性を低下させる可能性のある政策である」と指摘している[14]

経済学者の伊藤元重は「所得分配の公平性を実現することは、資源配分の効率性の達成することとトレードオフの関係にあることが多い。効率性と公平性にどうやって折り合いをつけていくかが、公共部門の活動の重要な役割である」と指摘している[15]

経済学者のスティーヴン・ランズバーグは「政府が新たな歳入を再分配せず、無益なプロジェクトに支出すれば、社会はそれだけ貧しくなる」と指摘している[16]

アダム・スミスは、貧しい人に富が行き渡るのは望ましいが、それは経済成長によって実現されるべきであり、政府による強制的な所得移転によって達成されるべきではないとしている[17]

経済学者のヴィルフレド・パレートは自身の観察事実から、所得再配分は現実の所得分配に大きな影響を与えないとしており、特定の所得階層の生活水準を底上げするためには、限られたパイの再配分ではなく、パイ自体の拡大(経済成長)が必要であると述べている[18]

経済学者の岩田規久男は「経済成長は人々の所得格差を縮小させる最大の要因である。多くの実証研究が、政府による所得再配分政策ではなく、経済成長が所得格差の縮小させたことを明らかにしている」と指摘している[19]森永卓郎は「経済全体のパイが成長していけば、パイは比較的均等に分配されやすい。一方で縮小していけば、一部の者だけがパイの縮小の影響を被りやすくなる」と指摘している[20]。経済学者の高橋洋一は「経済成長は、多くの経済・社会問題の解決に有効である。所得再分配問題・格差問題でも、成長してパイを大きくしたほうがより対応が容易である。成長なしの分配問題は、小さなパイを切り分けるように難しい[21][22]」「経済が成長しないことで最もダメージを受けるのは、雇用環境が安定的ではない新卒者・非正規雇用者や所得再分配を受ける経済的な弱者である[23]」と指摘している。

経済学者のサイモン・クズネッツは、経済成長の初期段階では、所得不平等度は拡大するが、それはやがて平等化するとしている(逆U字仮説[24][25][26]

経済学者の堂目卓生は「経済成長が貧困を改善させるとは限らず、むしろ悪化させる場合すらある」と指摘している[17]。経済学者のトマ・ピケティは「資産・投資の収益率は常に経済成長率より高く、自由市場システムは、おのずと富の集中を進めるという傾向を備えている」と指摘している[27]

経済学者の橘木俊詔は「社会全体のパイの増加により、人によっては厚生が増加して利益を受ける場合もあるが、その一方で別の人は構成が減少して不利益を被る場合もある。被害を被る人に対して補償するというのが、ニコラス・カルドアジョン・ヒックスティボール・シトフスキーポール・サミュエルソンなどが1940-1950年代に提唱した補償原理の教えるところである」と指摘している[28]。経済学者の竹中平蔵は「競争を野放しにしていると当然、貧富の差が拡大する。それを補うための制度を作らなければならない」と指摘している[29]

哲学者のジョン・ロールズは著書『正義論』で、
参政権や思想・言論の自由などの基本的な自由を、社会の構成員すべてに平等に与える

富・地位の不平等などの格差は、均等な機会が保障され、不遇な人々の境遇が改善されている場合のみ許容する

という二つの原理を憲法として制定し、法律・制度をつくり政策として施行すれば、経済成長に頼らず、また個人の自由を侵害することなく分配が実現できるとしている[30]

ロールズの主張について、経済学者のアマルティア・センは、個人が権利・富・地位などを獲得する目的・プロセスの視点が欠落しており、人間は権利・富・地位などを分け与えられるまで持つだけの受動的な存在ではなく、自らの力でそれらを勝ち取ろうとする能動的な存在であると反論している[31]

高橋洋一は「分配のやり方だけが整備できていても、分配するパイそのものが縮小していけば、社会全体も貧しくなっていく」と指摘している[32]。経済学者の松尾匡は「貧困問題の対策として、雇用拡大なしに再配分だけで解決させようとすることは、労働者がクビ切り・賃下げに抵抗できない不況を持続させようとすることに等しい」と指摘している[33]

経済学者のケネス・アローは「社会全体の厚生水準を最大化するためには、まず競争原理の貫徹により経済効率を最大に引き上げ(経済のパイの最大化)、その後に望ましい所得分配を実現させるため、所得再配分政策の実行に移すべきである」と指摘している(厚生経済学の基本定理[34]

経済学者の八田達夫は「パイの拡大策では得をする人も損をする人もいるが、そもそもパイが拡大するのかしないのかを分析する必要がある。それが、官僚・学者・シンクタンクの役割である」と指摘している[2]
再配分としての税

税は、国民生活を支えるための重要な国の収入であるが、税には政府の支出を賄う以外に、所得の再配分という役割も持っている[35]。税は、再配分や市場の失敗などに対応するための有効な政策手段となる[36]。この観点から、
貧富の差に応じた税負担を求める「再配分税」

公害対策として、企業・人々の行動を制御するために課税する「環境税

政府支出を賄うため、税収を増やすことだけを目的とする「税収目的税」

の3つに分類される[37]

再分配税の典型は、累進的な所得税相続税である[38]。税収目的税は消費税である[38]

岩田規久男は「最高限界所得税率の引き上げ、所得控除の縮小・撤廃、給付付き税額控除制度の創設、退職金優遇税制の廃止、基礎年金の財源としての目的消費税の導入は、結果の平等をもたらす所得再配分政策である」と指摘している[39]

八田達夫は、仮に貧富の差が機会ではなく結果に過ぎないのであれば、再配分は不要であり、人頭税をかければよいとしている[40]。現実は、再配分のために税率を上げれば、豊かな人々に租税回避をさせる誘因を与えるとしている[40]。国がどの程度再配分すべきかは、再配分の重要性に関する国民の価値観と、再配分による租税回避効果に対する現状認識とに依存するとしている[41]

八田は、食品の消費税の非課税は、高所得者の外食・高級食材の消費を促すだけであり、食品だけの非課税は所得の再配分にとって焼け石に水であるが、相続を含めた所得に関しては、累進課税が技術的に可能であるとしているとしている[41]


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