宝永地震
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土佐国の浦戸湾に面した種崎村[注 6] では波高7-8(23m)に達し[153] 草木一本も残らず約700人が溺死した。今村明恒[130][153]も指摘するように種崎は太平洋に面した砂州で波高の増大には不利な地形であり、この『万変記』による波高は必ずしも種崎を指すのではなく、筆者沢田弘列が耳にした中で波高が土佐最大の津波であったとの見方もある[154]。当時種アに住居していた土佐藩士柏井貞明が少年時代の記憶を元に記した『柏井氏難行録』[155]には、家族連れで避難中にけた黒い津波に飲まれ母と妹を失いながらも命からがら逃げ延びた様子が生々しく描かれている[156]

地盤沈下した高知城下周辺は浦戸湾から侵入した津波によって一帯が海となり、久万、泰泉寺、薊野、一宮、布師田介良大津の山の根まで浸水した。『谷陵記』には「堅固ニ設タル家ハ、地震ニ倒レ、或ハ破損、御城ハ全シ、潮ハ町ハ真如寺橋ヨリ北見通シ限リ、江ノ口堀筋ハ常通寺橋ヨリ、潮江川ハ常通寺島限リ、新町下知ハ海ニナル」との記録もある[17][157]

『南路志』の記録では須崎(現・須崎市)において新荘川筋は下郷村の天神宮より上方4 - 5町(海岸より約4.5km)、桜川筋では吾井郷村(あいのごうむら)の為貞(海岸より約2.5 km)まで潮が入ったという。須崎では約400人溺死し糺池に遺体が流れ込み、内陸の神田村では遡上高18mと推定され諏訪神社が流された[158]。須崎八幡宮の神輿が流出し、4日後に伊豆下田で拾い上げられて新八幡宮として祭られ、その後伊豆では豊漁続きとなったが須崎から返還の要望があり返されることとなった[159](『南路志』[160])。

久礼(現・中土佐町)では津波が大坂谷、焼坂、長沢まで押し寄せ、焼坂麓の標高25.7mの地点まで遡上し[153]久礼八幡宮が流失し死者は約200人に上った[161]。『谷陵記』など古文書には、土佐の海岸各地で集落が全滅したことを示す「亡所」とか「潮は山まで」という記録が随所に見られる。この「亡所」は特に土佐の西側で多く現れ、香我美郡手結(現・香南市)から幡多郡榊(現・宿毛市)までが特に著しい[162][163][164]

土佐藩は、10月26日(1707年11月19日)に領内における被害状況を幕府に報告し、『公儀差出』には流家11170軒、損田45170余、死人1844人とあり、『丁亥変記』には藩主松平土佐守は1年間参勤交代を免ぜられたことが記される。この外、松平和泉守(鳥羽藩)、伊達遠江守(宇和島藩)、松平遠江守(掛川藩)、内藤紀伊守田中藩)、三宅備前守(田原藩)も同様に参勤交代を免除されている(『小田原大久寺 元禄・宝永地震』[165])。
豊後水道・瀬戸内海

宇和島では本町、裏町、新町、弓町、糀崎まで大潮が入り、吉田浦では民家50軒が流失した(『谷陵記』)。

豊後臼杵(現・臼杵市)では津波が臼杵城三の丸侍屋敷まで押し寄せた[66]。また、内陸約5kmの臼杵石仏付近の南津留や末広革道辺りまで潮が溢れたという記録もある(『温故年表』)[166][167][168]。豊後佐伯では、大手前に高さ5尺(約1.5m)の津波が押し寄せ、潮の差込は昼夜7度に及び、「城内でも遠慮は要らぬ」と、町人らを佐伯城に避難させた(『元禄宝永正徳享保日記』[169])。「村の古文書」によれば米水津(現・佐伯市)では養福寺の石段2段を残して浸水しその標高は11.5mに及び、色利浦では10m、宮野浦では5.7mに及んだという[139]

地盤沈下・液状化に加え、地震動・津波による堤の決壊で瀬戸内海沿岸の播州赤穂小豆島などでは塩田が破壊され、遠江宇布見、尾張刈谷、伊勢山田・二見、紀伊新宮、備前岡山児島湾、伊予西条など各地で新田を中心に田畑に潮が入り破壊された。室町時代から始まり、江戸時代に入って加速した新田開発件数は宝永地震以降激減し、開発の在り方に転換を余儀なくされた[170]
被害の全容

地震および津波によって、合計で少なくとも死者2万人、田畑の損壊30万石を下らず、船の流出および損壊3000とされる[57]。『竹橋余筆』および『楽只堂年録』に纏められた各の損害の幕府への報告数など、確かな数字の合計では死者5000人余とされ、流失家約1.8万、潰家約5.9万、半潰・破損約4.3万、蔵被害約2千、船の流出および損壊約3900、および田畑の損壊約14万石および約1.6万町歩となる。その数字は幕府への報告時点では正しいとされるものの実際の総計は数十%多いと考えられる。また大坂の文献次第で全体の死者数は大きく変るなど被害は全体としてつかみにくい[4]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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