宇宙の戦士
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なおこの区別は参政権といくつかの公職への就職を制限するだけのもので、見た目には両者とも全く区別なく生活し、言論や表現の自由も保障されてはいる。形態はアメリカ合衆国における“市民”と“永住権保持者”の違いに似る。

なお、兵役を経験し、軍歴の有る者だけに参政権を与える理由として、「兵役を経験した者は、自らの意志で、自分自身の利益より公共の福祉(社会全体・人類全体の利益)を優先させるからである」との見解が、作中で語られている[2]
議論

本作は1959年という、冷戦時代の真っ直中、ベトナムの情勢が戦争へ向けて大きく傾いていた時期に刊行された。軍事教練という「力による教育」の強調や、敵意を持った勢力に対してはこちらの側も相応の力を有していてはじめて対等に対峙できる、というスタンスが多くの議論を呼んだ。

作中では、主人公の歴史哲学の教師であるジャン・V・デュボア機動歩兵退役中佐が、軍事に貢献することで市民としての権利をえられたかつての都市国家(ポリス)時代のギリシャ、あるいはローマ帝国のような軍国主義的、戦争肯定的な発言を繰り返している。同時に、権利と安全は無償ではなく、国家を防衛するという義務と引き替えに個人の権利とその行使が保障されるという「市民」の基本概念をデュボアが主人公に熱心に説明する場面がある。作品中では最も基本的な市民の権利である統治権力の再選択権=投票権は、兵役により「市民」(劇場版では「一般市民」に対して「特別市民」)となった者だけが有することができる。

また、「統制された暴力機構」としての軍隊と社会の規律と理想(暴力の行使が異常であることを軍人達が認識している)が語られ、さらには「過去」の軍隊、すなわち現在の現実に存在する軍隊は否定的に描かれているなどから、単純な保守派のマチズモとはいえないが、表面に現れている暴力肯定なイメージによって、拒否反応を示す読者や論者も多かった。

人類と敵対するアレクニドの、社会性昆虫のような生態が作中で共産主義に喩えられており、これは発表当時における社会主義国への皮肉であった[3]

戦争否定派からは「二等兵物語に宇宙服を着せただけ」という批判もあった(日本語版あとがきによる)。元々ハインラインには「◎◎をSF風にしただけ」という置き換え型の作品が多い。同じSF作家であるハリイ・ハリスンは反戦小説『宇宙兵ブルース(英語版)』を書くことで、『宇宙の戦士』の軍国主義的な思想に皮肉と笑いをもって真っ向から対立した。ハインラインは数々の問題作を書いたが、『宇宙の戦士』はその最初のものである。

なお、作者のハインラインは基本的にリバタリアンであるが、アメリカ海軍兵学校を卒業し士官として勤務(後に結核により除隊)したり、社会主義者アプトン・シンクレアに共鳴するなど[4]、単なる右派でも左派でもなかった。アイザック・アシモフ曰く、元々のハインラインはリベラルであったが、ハインラインは保守的なバージニア・ガーステンフェルド(英語版)と2度目の結婚をしてから変わったという(I. Asimov: A Memoir)。ハインラインの後の作品、例えば『月は無慈悲な夜の女王』では社会主義者あるいはリベラリストの名残も見られ、他にも『異星の客』のような共産主義的な風刺小説を書いたり、『愛に時間を』で国のために戦うのは馬鹿げているかのような発言をするなどした。本人の思想をそのまま語っているのではなく、その都度、世界観にあわせたキャラクターの発言ともとりうる。ただし、個人の自由と独立、それを守るために戦うことについての強い愛着と信頼(そして戦わずしてそれを求める者への蔑視)はおおむね一貫している。
書誌情報(日本語訳)

ロバート・A・ハインライン 著、矢野徹 訳『宇宙の戦士』早川書房ハヤカワ・SF・シリーズ 3136〉、1967年。 

ロバート・A・ハインライン 著、矢野徹 訳『宇宙の戦士』早川書房〈ハヤカワ文庫 SF 230〉、1977年7月。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 978-4-15-010230-2。 

ロバート・A・ハインライン 著、内田昌之 訳『宇宙の戦士』(新訳版)早川書房〈ハヤカワ文庫 SF 2033〉、2015年10月22日。ISBN 978-4-15-012033-7。 

関連作品・他の作品への影響
パワードスーツ

作品中に登場する様々な小道具類やアイディアは、以降の作品に影響を与えた。特に、兵士が「着る」、すなわち着衣のように装着して体全体で操縦する、「装甲を施した宇宙服型ロボット兵器」という概念のパワードスーツ(強化防護服)のアイデアは、その後、多くのSF作品で類型の兵器を生む源流となり、特に1980年代から1990年代にかけて大流行した。例えば、ジェームズ・キャメロン監督の『エイリアン2』(1986年)のパワーローダーや世界観は本作の影響を大きく受けたとされる[5]


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