E=Pの『アザンデ人の世界─妖術、託宣、呪術─』における妖術に関連して、ザンデ語を以下のように訳し分けた。 E=Pはアザンデ人についてのみ注視した議論を展開し、それが他民族の文化における超自然的な因果律理解全般に適用できるような整理をした訳ではない。そのため、世界各地の様々な呪術文化についての研究が蓄積されるについて、用語の使い分けが十分に議論が整理されたのかというと定かではない。 例えば、南米で一般的な邪眼などは、「行為者が妬みの視線を持ったこと」が契機になっておきる不幸と、それに対する恐れや対処法などによって構成される。では、邪眼は妖術だろうか邪術だろうか?特殊な技芸と連関している訳ではないという点において、邪術や呪術一般のイメージとずれがあるが、災因論の契機としての「妬みをともなった視線」であることはかわりはない。アザンデ人の妖術は階級や血縁などの連関が間接的に示されていたが、邪眼はそういうわけではない。 近年の社会人類学文献において、多くの超自然的な因果関係についての説明において、呪術ではなく妖術の語が使われており、議論の整理が待たれる
マング
妖物 witchcraft-substance
特定の人物が持つ腸の突起物のことで、生きている場合は託宣によって所在が明かにされ、死体の場合開腹によって確かめられる。もしマングを持っていたとされた人物が、開腹された結果それを持っていない場合、妖術師であるという汚名が返上される。
妖術 witchcraft
妖物から発揮される心的な力で、人の健康や財産に危害を与えるとされる
妖液 witchcraft-phlegm
(1)とは異なる。妖術医の間においてのみ用いられる用法。呪薬を用いることで妖術医たちが体内に生じさせることができる液体のこと
妖物を持っている、あるいは託宣や占い師によって判断された場合、妖術師(ボロ・マング)と認定される。また妖術師は呪薬や呪術儀礼、呪文を行使せずに他人に危害を加えることができると信じられている。妖物は遺伝するとされる。
ングア
呪術 magic
呪薬を用いることで目的を達成することができるとされる技術・儀礼で、一般に呪文をともなう。社会的に肯定されているングアをとくに善い呪術(ウェネ・ングア)という
呪薬 medicine
呪術に必要な、神秘的な力が宿った全ての物質のことで、多くは植物である
治療術 leechcraft
内科的、外科的な病気治療で、呪薬を投与するときもある
秘密結社 closed association
共同で呪術儀礼を行うための地域的な結社
呪薬を所有し、それを呪術儀礼において用いると呪術師(ボロ・ングア)とされる。一方で呪薬を使わずに治療を行う治療師の場合もボロ・ングアとされる
グベグベレ・ングア、キティキティ・ングア
邪術 bad magic
不正あるいは不道徳な呪術
悪い呪薬 bad medicines
邪術において用いられる呪薬
派生的な諸問題
関連項目
魔術
呪術
邪術
文化人類学
参考
E.E. エヴァンズ=プリチャード 著、向井 元子 訳『アザンデ人の世界―妖術・託宣・呪術』みすず書房、2001年(原著1937年)。
脚注^ 長島信弘によれば馬淵東一が訳したとされる。
長島信弘 (2008). “近藤英俊/小田亮/阿部年晴篇, 『呪術化するモダニティ-現代アフリカの宗教的実践から-』, 風響社, 2007年, その1,”