妊産婦
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すべての受精卵が着床に成功するわけではなく、染色体に異常がある受精卵など一定の割合は淘汰される。受精卵が着床しなければ妊娠は不成立で、排卵から12 - 16日後に月経が起こる。(cf.緊急避妊
子宮外妊娠「子宮外妊娠」を参照

受精卵が何らかの理由で卵管など子宮以外の場所に着床した場合は子宮外妊娠と呼ばれ、放置すると危険な状態になる。産婦人科での緊急な処置が必要となる。
妊娠判定

着床した受精卵の初期胎盤から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン (hCG) という特有のホルモン(これが黄体の寿命を延ばして子宮に着床状態を維持させる)の検出により、女性の尿が少量あれば妊娠の有無は簡単に判定できる。妊娠検査薬は薬局で求めることができるが、より確実を期するためには医療機関を受診する。
妊娠期間の数え方

受精後胎齢と月経後胎齢の2つの数え方がある。前者は発生学で用いられ、後者は臨床産科で用いられる。

受精後胎齢 - 受精初日を1日目として、満日数、満週数であらわす。

月経後胎齢 - 最終月経初日を0日目として、満日数または満週数で表す。

両者の関係は「受精後胎齢 = 月経後胎齢 - 2週」で表せる。

日本やアメリカでは一般に最終月経の第1日目を妊娠0週0日とする月経後胎齢で妊娠期間を計り、40週0日を標準的な妊娠期間として出産予定日を導出している。ただし、最終月経を起点とするこの数え方では、同じ週数でも各人の月経周期の長さ(最終月経から排卵までに要する日数)によって妊娠の経過にばらつきが出る可能性があるため、現代の医学の見解では妊婦健診における胎児の発育度合いから逆算しておよそ受精日 = 2週0日となるように微修正を加えることも多い。産科学では4週(28日)を1か月と扱い、最終月経から母体を「1か月」「2か月」と数えでの月数で表現する(満でないことに注意。すなわち、妊娠0か月は存在せず、最終月経開始日はすでに妊娠1か月であり、月経予定日〈4週0日相当〉を過ぎても次の月経が来ないことに気づいて検査を行った時点で、妊娠2か月である)。

なお、フランスでは臨床産科においても受精後胎齢が使われており、推定された受精日から何週、または何か月経過したかで妊娠期間を表している。日本でもかつては受精後胎齢を用いて、受胎から出産までを俗に「十月十日(とつきとおか)」と言い習わしてきた。
妊娠の経過

受精卵は、妊娠7週6日までは「胎芽」、8週以降は「胎児」と呼ばれる。胎児の諸器官の原型は妊娠初期にほとんどが形成される。諸器官は妊娠中期に著しく成長し、22週頃には早産してもNICU(新生児集中治療室)の保育器内で生存できる場合がある。36週以前、または2,500グラム未満で生まれた場合は低出生体重児(未熟児とは言わない)、1,500グラム未満の場合は極低出生体重児、1,000グラム未満の場合は超低出生体重児と呼ばれる。

妊娠により乳首、脇、背中上部、腹部、太もも、性器など、全身的に特に色素の濃い部分に色素沈着を生じさせ、通常は分娩後に全身的に皮膚は明るく戻っていく[18]。インドでの調査では、妊婦650人中全員になんらかの皮膚の変化が起きており、80%に黒線(正中線)が、75%で乳輪が黒くなり、64%に肝斑(顔のシミ)が、39%に皮膚伸展線条(妊娠線)が生じ、ほかの皮膚症状は10%以下だが、特に足の湿疹や痒み、妊娠線に沿った蕁麻疹が起こることがある[19]。妊娠線では産後に縮小し目立たなくなるが完全には消えないことも多い[20]
正常妊娠

検査として、胎児の心拍数を母体の陣痛の強さと共に記録する胎児心拍数陣痛図がある。胎児の自律神経が発達してくると心拍数が細かく振れる様になる。これを基線細変動と言う。
妊娠初期

(満15週まで)母体の外観は妊娠前とほとんど変わらないが、妊娠に伴い、ホルモン分泌が変わるなどのため、様々な変調が起きる。

肉体的:
つわり、嗜好の変化、眠気、頻尿、便秘

精神的に不安定になる。周りの者に当り散らす。落ち込む。

悪影響をおよぼすもの

喫煙、飲酒ストレス、特定の薬、風疹などのウイルス、X線などが、胎児の諸器官形成に悪影響を及ぼし、奇形または自然流産の原因となることがある。
妊娠中期

(満16 - 27週)胎動が感じられるようになる。古来、日本では妊娠5か月目の戌の日に「腹帯(ふくたい・はらおび)」をしめはじめた。

普通、つわりもほぼおさまり、安定期とされる。ただし、胎児が子宮外に出てしまうと生存はほとんど困難で、流産となる(22週以降は生存の可能性がでてくるので早産と呼ばれる)。.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、妊娠中の女性に関連するメディアがあります。

この時期、胎児はどんどん発育する。それにつれて子宮が大きくなり、妊婦の腹部は膨らんでいく。腹部の膨らみ具合には個人差があり、一般に痩せ形で体脂肪の少ない人は早くから腹部の膨らみが目立ちやすい。スポーツ選手など普段から腹筋を鍛えている女性の場合、子宮が背中側に押されるために臨月になっても腹部が大きくならない場合がある。腹部の重みを支えるため背骨に負担がかかるようになる。乳房は乳腺の発達によってふくらみを増し、乳輪は色素が沈着して茶褐色が濃くなる。

線は各月の子宮底(子宮の上端)の位置

赤い線は各月の子宮の輪郭

妊婦の腹部

20週の胎児の超音波映像

妊娠8か月の女性のお腹

妊娠後期

(満28週以降)胎児が更に大きくなり、子宮も大きくなる。それに伴い、母体への負担が増えていく。貧血になる妊婦も少なくない。妊娠高血圧症候群妊娠中毒症)が起こりやすいので、注意が必要である。高血圧蛋白尿むくみなど。

早産などで胎児が子宮外に出ることになっても生存する確率がだんだん高くなる。
出産直前

子宮口が柔らかくなってくる。通常、陣痛が起こる前から開きはじめる。陣痛が起こると、胎児心拍数陣痛図では、陣痛に一致して胎児の心拍数が低下する。これを早発一過性徐脈と言う。
異常妊娠

検査は、胎児心拍数陣痛図では基線細変動が見られなくなる。これを基線細変動消失と言う。陣痛に同期してやや遅れて胎児の心拍数が低下する。これを遅発性一過性徐脈と言う。基線細変動消失や遅発性一過性徐脈が見られた場合は胎児仮死と考える。胎児仮死の場合は、たとえ肺ができ上がっていない妊娠36週未満であっても急いで分娩(急速遂娩)を行う必要がある。急速遂娩には帝王切開も含まれる。
出産「出産」および「分娩」を参照

最終月経からおよそ40週頃、子宮筋が周期的に収縮を繰り返し始める(「産気づく」)。最初は、間歇的に突っ張る程度だったのが、だんだん強度と頻度を増していく。子宮の定期的な収縮が10分間欠、または1時間に6回となった時点で陣痛発来という。子宮の収縮で胎児の頭が子宮口をだんだん押し広げていく。子宮口が広がることを子宮口開大と言う。収縮を繰り返すうちに、胎胞の卵膜が破れて羊水が出る(破水)。直径10センチメートルで「全開」。 陣痛と同時に産婦に「いきみ」がおこり(息を止めて腹に力を加えるような状態)、胎児はゆっくりと回りながら(回旋)産道を下り、ついには母体から出る。出産(分娩)によって妊娠状態は終了する。
産後:産褥期

回復
子宮が元の大きさに戻るまでには4 - 6週間かかる。産後の出血(悪露)が消失するまで約4週間かかるが、特に合併症などがない限り、絶対安静の必要はなく、無理をしない(重いものを持つ、長時間立つなど)程度で通常の生活を送ることができる。
労働基準法第六章の2、第66条で産後の休養期間を6週間(医師の許可と本人の希望があれば職場復帰可能) - 8週間以上与えるよう要求している[21]のもこのためである。

マタニティ・ブルー
妊娠初期同様、出産後はホルモン分泌の急激な変化が起こる。具体的には、体内の女性ホルモンが急に減少するので、精神的に不安定になりやすく、周囲の人間の配慮と援助が求められる。
妊婦健康診査

母子保健法第15条により、妊娠した者は、厚生労働省令で定める事項につき、速やかに、保健所や自治体に妊娠の届出をするようにしなければならない、と定められている[22]。届出をすると、母子健康手帳が交付される。

妊娠判明後、通常は産科助産所において定期検診として、妊婦健康診査を受ける。周産期の異常への対処を行い、周産期死亡率の改善を図っている。

妊婦健康診査は通常、妊娠23週(妊娠6か月)までは4週間に1度、妊娠24週間(妊娠7か月)から妊娠35週(妊娠9か月)までは2週間に1度、妊娠36週間(妊娠10か月)以後は1週間に1度行う[23]
妊娠の診断

月経の消失、市販の妊娠診断薬によって受診されることが多い。2008年現在、妊娠の決定は妊娠診断薬、すなわち尿中hCGのほか、超音波断層検査、ドプラ法などを用いて行う。これらの近代的な検査が存在しなかった場合は身体診察で経過観察を行っていた。古典的には妊娠不確徴(性器以外の徴候)としてつわり様症状、腹部膨隆など、妊娠半確徴(性器徴候)として子宮の腫大、軟化、乳房の増大、乳輪の着色、妊娠確徴(胎児徴候)として胎児部分触知、胎児心音聴取(Traube法、約12週以降)、臍帯雑音聴取、X線による胎児骨格、他覚できる胎動などがある。古典的方法では客観的に妊娠確徴が見られるのに妊娠5か月まで至っていた。


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