結合した細菌類は、好中球形質膜がこれを包むようにして、好中球内に取り込む。好中球内で細菌類を取り込んで裏返しになった細胞膜の袋を食胞という。
細菌類を取り込んだ食胞は顆粒と融合し、顆粒内容物が食胞内に放出される。
顆粒内容物が放出された食胞内で細菌類は2つの手段で殺菌される。1つは酸素依存性の機構で、NADPH酸化酵素系の働きで活性酸素や過酸化水素を発生させ食胞内にて殺菌する。アズール顆粒に含まれるミエロペルオキシダーゼは過酸化水素(H2O2)と塩化物イオン(Cl-)から次亜塩素酸(HOCl)を産生する。細菌は、酵素反応によって生じたHOClにより、効率的に殺菌される[12]。
もう1つは非酸素依存性の機構で、顆粒から放出される殺菌性酵素(ラクトフェリン、リゾチーム、エラスターゼなど)などで殺菌・分解する[12]。
細菌類を飲み込んだ好中球はやがて死亡し、死体は膿になって体外に放出されるか、組織内のマクロファージなどにより処理される。
顆粒の種類と主な顆粒内内容物
1次顆粒(アズール顆粒):ミエロペルオキシダーゼ、カテプシンG、エラスターゼ、プロテイナーゼ3、デフェンシンなど[13]。
2次顆粒(特殊顆粒):ラクトフェリン、リゾチーム、コラゲナーゼ、チトクリームb558、カテリジンなど[13]。
3次顆粒(ゼラチナーゼ顆粒):ゼラチナーゼ、リゾチーム、ロイコリジンなど[13]。
分泌顆粒:補体レセプター、CD14、CD16、ホルモンペプチドレセプターなど[13]。
分化過程造血幹細胞とその細胞系譜
好中球を含め、全ての血球は骨髄の中に存在する造血幹細胞に由来する。骨髄中において造血幹細胞は赤血球・各種の白血球・血小板に分化するが、最終的に好中球に分化する場合は造血幹細胞、骨髄系幹細胞(骨髄系前駆細胞)、顆粒球・単球系前駆細胞、顆粒球前駆細胞、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、後骨髄球の順に分化成熟する。さらに桿状核球を経て分葉核球へと分化するが、この最後の2つをもって好中球と呼ぶ。骨髄の顕微鏡写真。アルコール固定後ギムザ染色。左上に分葉核球が2つ、左下に桿状核球が2つ、中央の大きな細胞が前骨髄球、前骨髄球の周りの4つが骨髄球および後骨髄球である。
造血幹細胞から分裂し、分化し始めた細胞は盛んに分裂し、数を増やしながら、少しずつ分化の方向を進めていく。幹細胞から前駆細胞、骨髄芽球の段階までは、顕微鏡による形態学的観察では最終的に好中球などの顆粒球系に分化する細胞であるか識別は困難であるが、骨髄芽球の段階からは顆粒が生じ始め、顆粒球系の細胞と形態学的にも判断できるようになる。前骨髄球の段階になると好中球への分化傾向が明らかになる。
骨髄芽球の段階から光学式顕微鏡では見えないが電子顕微鏡で確認できる一次顆粒(アズール顆粒)が生じ始め、前骨髄球では光学顕微鏡でも確認できる豊富な一次顆粒(アズール顆粒)を持つようになる[14]。骨髄球の段階では一次顆粒は見えなくなり(見えないが存在はする)代わりに二次顆粒(特殊顆粒)が発現する。さらに三次顆粒など好中球には各種の顆粒が存在するようになる。
顆粒球系と判断できるようになった段階以降も、骨髄芽球で1回、前骨髄球で2回、骨髄球で2回ほどの細胞分裂を起こし、数を増す[14]。後骨髄球の段階になると細胞分裂する能力は失われる。通常時には骨髄芽球以降の段階で7日から14日[15]、平均でおよそ11日の時間をかけ成熟する[14]。
骨髄芽球や前骨髄球など幼若な段階では細胞の核は大きく丸く、核内構造(クロマチン構造)は繊細であるが、分化・成熟が進むほど核は小さくいびつになり、構造は粗くなる[14]。核が歪んだジェリービーンズ形である桿状核球と呼ばれる段階になると、完成した好中球と認識されるが、さらに成熟が進み、核の形が複数に分かれた分葉核球となる。分葉核球が好中球の分化の最終成熟段階となる。
末梢血に見られる好中球の大多数は分葉核球であるが、炎症時など貯留プールからの好中球の大量の動員が必要な時などには桿状核球の割合が増える。
白血球の核形の左方推移