女性のアーティスト(芸術家)は、有史以来芸術の創造に携わってきたが、男性にくらべてその作品はしばしば正当な評価を受けてこなかった。女性のアーティストはよくテキスタイルなど特定のメディアにのみ結びつけられてきたが、文化や共同体の特質に応じて、芸術における女性の役割は多様なものであることを理解する必要がある。
主に女性によって担われてきた多くの芸術は工芸であってファインアートではないとされ、芸術史における正典、名作とは見なされてこなかった[1]。
女性アーティストは主流の芸術界においてジェンダーバイアスによる偏見に直面してきた[1]。訓練、旅行、作品の取引、評価などの場面においてしばしば困難な状況に陥ってきたのである。
1960年代末から1970年代にかけて、フェミニストであるアーティストや美術史家がフェミニズムアート運動をはじめたが、この運動は芸術界における女性の役割を考えることに取り組み、美術史における女性を探求することをめざしている[1]。 先史時代において芸術家がどのような人々であったかわかるような記録は残っていないが、民族誌学者や文化人類学者は新石器時代文化における主要な職人たちはしばしば女性であったと記述している。女性は陶器、テキスタイル、かご、宝石などの制作・加工を行っていた。大きなプロジェクトにおいては協働がふつうであった。 旧石器時代における芸術作品と制作技術についての考古学的探求により、この時代の文化についても同じようなことがわかってきている。この時期の洞窟壁画には大人の女性と男性、子どもの手形が見受けられる。 ミティラーに伝わるミティラー画はヒンドゥー教の文化に根ざした芸術文化であり、3000年ほど前から女性によって担われてきたと考えられている[2]。 あらゆる芸術において女性が描かれ、女性が芸術家として働く様子も見受けられるが、西洋文化においては特定の個人についての古い記録はめったに残っていない。ホメロス、キケロー、ウェルギリウスは、古代世界におけるテキスタイル、詩、音楽その他の文化活動分野における傑出した女性の役割について言及しているが、芸術家個人について議論することはなかった。 芸術家個人に関するヨーロッパ最古の現存する記録はガイウス・プリニウス・セクンドゥスによるものであり、ティモンの娘であるエジプトのヘレナなど多数の古代ギリシアの女性画家について書き残している[3][4]。ポンペイにあるアレクサンドロス大王のモザイク画はキティラ島のフィロクセヌスによるものではなく、エジプトのヘレナによるものではないかと考える者もいる。古代ギリシアで活躍していた可能性がある少数の名前がわかっている女性画家のうちのひとりとして、ウェスパシアヌスのフォルムにかかっていたイッソスの戦いの絵を描いたと言われている[5]。 他の女性画家としてはティマレテ、エイレネ、カリプソ、アリスタレテ、キュジコスのイアイア、オリンピアスなどの名が残っている。ほんのわずかしか作例が残っていない赤絵式の古代ギリシアの陶芸作品のうち、ミラノのトルノコレクションに水つぼ(caputi hydria)が入っている[6]。このつぼは紀元前460-450年頃の「レニングラードの絵師」によるものだとされており、工房で男女が一緒に働き、ともに花瓶に絵付けをしているところが描かれている[7]。 中世初期のヨーロッパでは女性はしばしば男性とともに働いていた。この時期の装飾写本の絵、刺繍、柱頭の彫刻などは、女性がこの種の芸術にかかわる例があったことをはっきり示している。女性が醸造家、肉屋、羊毛商、金物屋などとして働いていたことを示す文書もある。女性も含めたこの時期の芸術家は、重労働をしなければならないような仕事に比べるとより社会的に自由があり、少数の人々からなる集団に属していた。女性アーティストは教育のある2つの階級、つまり富裕な貴族階級の女性か修道女であることが多かった。富裕な女性は刺繍やテキスタイルに、修道女は装飾写本作成に携わることが多かった。 当時のイングランド、とくにカンタベリーとウィンチェスターには多数の刺繍工房があった。
先史時代
古代
インド
古典古代のヨーロッパと中東地域
ヨーロッパ
中世
中世ヨーロッパの代表的な女性芸術家であるランツベルクのヘラデによる『よろこびの庭』(Hortus deliciarum)にある自画像、1180年頃
中世ヨーロッパの著名な芸術家、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンによる『神の業の書』(Liber Divinorum Operum)より「普遍人」の絵、1165年
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン、『神の業の書』(Liber Divinorum Operum)より「水と精霊の母性」、1165年、Benediktinerinnenabtei Sankt Hildegard, Eibingen (bei Rudesheim)
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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