女形
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歌舞伎の女形の衣裳は華やかなものであるほど重量があり、花魁(助六の揚巻)では20kg超[8][9]、かつらや下駄をつけると40kgに及ぶという[10][11]。演目や役により、身に着けてじっとしていなくてはならない場合、長時間に渡って踊り続ける場合、和楽器演奏をしなくてはならない場合もある[12]。観客から見て美しいかたちに見えるのは役者が苦しい体勢であるという[13]。重い衣装を着用して動く、発声すること自体も難しく[12]、このため女形は大変な技術と体力を要求される[14]

5代目坂東玉三郎は体力的な限界を理由に2019年を最後に地方公演を引退し[15][16]、近年は自らのつとめてきた大役を若手に継承している[17]
異性を演じる俳優

平安時代末期から鎌倉時代に起こった白拍子では異性装が行われており、男装をした女性が男舞を踊った。野郎歌舞伎が成立した江戸時代の祭礼では鳶に扮した芸者が踊り、全ての役を女性が演じる劇も行われた[18][19]。大正期には少女歌劇が成立し、昭和初期から昭和40年代ころまでは女剣劇の興行が人気であった。

また、女形の演じるものは「実際の女性ではない」と複数の歌舞伎役者(女形)が明言しており、また男役経験者・宝塚OGは女性が演じることの意義を述べている。

4代目中村雀右衛門は女形について「完全に独立した女の世界を表現する方法」と述べており、女形が演じるのは「男性の眼で女性を見て、それを自分の中に取り込んで吸収して消化して、そこから出てくるもの」であるとしている[20]

5代目坂東玉三郎は『男性作家が ”登場人物として書く男女の気持ちを考え抜いた上で” 物語を書いている』ことに譬え、「素晴らしい作品は、見事に女性が描き切られています。つまり、そういう意味で、女形も一種の作品だと見ればいいのだと思います」と説明している[21]。女形は(女性は)こうあってほしいという作者の憧れのようなもので、「限られた時間(舞台上に)しか存在しない」「夢」であるという[22]

2代目中村七之助は「女形は女性を演じるのではなく、女形という役柄を演じているんです。僕はそう思ってやっています」「歌舞伎に出て来る女性は極端な人が多いんです。好きだったらもう徹底的に好き。その人のためなら父親だって裏切るし、会うためならば湖の上も飛ぶ。もちろん、死ぬことだっていといません。そのまっすぐな情熱は、男としては怖く感じるくらいです。歌舞伎はほとんど男性が書いて男性が演じてきたものですから、男の女性観が凝縮したのが女形の役々と言えるのかも知れません」と話している[23]

元花組トップ男役の明日海りおは「宝塚の男役は、女性が演じるからこそ“こうあってほしい”という理想を具現化しやすい」面を説明している。自然と自分の中にも「理想の男性像」のようなものが出来上がっていったという[24]。元星組トップ男役の柚希礼音は現役中からアメリカでダンスレッスンを受けているが、「ブロードウェイの舞台を見ていても、宝塚の男役の方がかっこいいなと思うところがあり、やっぱり宝塚は世界に一つだなと思います。女性が男役をすることによって、夢のようだし、美しいし、清潔感がある」と話している[25]

宝塚歌劇団68期生All About宝塚のガイドを務める桜木星子は、宝塚の男役の魅力について「歌舞伎の女形の魅力に似ていて、異性を演じる魅力。ないものを創り出して現れる魅力、実世界に存在しないからこそ、さらに感じる魅力」と述べている[26]

女形が演じるのは「男性の理想の女性像」、男役が演じるのは「女性の理想の男性像」の反映であることについては、宝塚歌劇団を創立した小林一三も述べている。小林は歌劇団に男子部を作って男性団員を加入させようと試みたが、劇団員やファンの反対により断念している。その後、著書「宝塚生い立ちの記」で「今日ではもうそんなことは考えたことがない。それは歌舞伎と同じリクツだ。歌舞伎の女形は不自然だから、女を入れなければいかんというて、ときどき実行するけれども、結局、あれは女形あっての歌舞伎なのだ。同じように宝塚の歌劇も、男を入れてやる必要はさらにない」「歌舞伎の女形も、男の見る一番いい女である。性格なり、スタイルなり、行動なり、すべてにおいて一番いい女の典型なのである。だから歌舞伎の女形はほんとうの女以上に色気があり、それこそ女以上の女なんだ。そういう一つの、女ではできない女形の色気で歌舞伎が成り立っていると同じように、宝塚歌劇の男役も男以上の魅力を持った男性なのである。だからこれは永久に、このままの姿で行くものではないかと思う」と記している[27]

歌舞伎大向弥生会の幹事でありAll About歌舞伎のガイドを務める堀越一寿は、「歌舞伎の女」を女優が演じることについて「ほとんどの女優さんが『自らが女性である』ことを当たり前に演じており、『素の生々しさ』が出てしまっていた」と述べている。しかし、舞台の上だけに生きるまぼろしの女を演じられる女優の姿を一度だけ見たという。その女優は元宝塚の男役で「自分と異なる性を演じるために、役を自分から切り離し、男性の中の魅力的なエッセンスを取り出して、自分なりの技術で再構築」した経験を活かしていたのだろうと推測している[28]

異性を演じる俳優同士の間には親交があることも多く、4代目中村橋之助のように宝塚ファンであることを公言する歌舞伎役者も存在する[29]

宝塚の娘役であった扇千景を祖母に持つ中村壱太郎は元星組トップ男役の紅ゆずると親交があり、性別を越えて演じられる歌舞伎・宝塚の魅力について度々語っている[30][31]

1999年12月にシェイクスピアの「十二夜」を元にした「エピファニー ?『十二夜』より?」が宝塚バウホールで上演されている。歌舞伎役者の娘が双子の兄・高五郎になりすまして歌舞伎役者になったことから起こった騒動の物語で、星組男役スター彩輝直(2004年にトップ就任)が主人公のおたかを演じた[32][33]

日本俳優協会がファンサービスと運営資金集めのために行っているイベント「俳優祭」では、宝塚歌劇のパロディも上演されている。

1989年(第26回)には「歌舞伎ワラエティー『佛国宮殿薔薇譚(べるさいゆばらのよばなし)』(『ベルサイユのばら』のパロディ3代目市川猿之助の構成・演出)が上演され、物語の主人公で『男装の麗人』オスカル役を女形である5代目中村児太郎(9代目中村福助)が演じた[34][35]

2004年(第33回)上演の勧進帳のパロディ「滑稽俄安宅珍関(おどけにわかあたかのちんせき)」では、9代目福助による女形オスカルが再び登場したほか、「扇千景にそっくりの」次男である三代目中村扇雀が「風と共に去りぬ」の主人公スカーレットに扮して登場している[36]


関連項目

ドラァグクイーン

男の娘ロリショタ

バ美肉

コウメ太夫

作品


艶姿純情BOY

國崎出雲の事情

脚注^ “ ⇒Three Actors”. World Digital Library. 2013年5月4日閲覧。
^ “ますます冴え渡る“顔芸”…「半沢直樹」に見る、歌舞伎400年のエログロナンセンス”. [亀山早苗の恋愛コラム] All About(2020年8月7日). 2021年1月4日閲覧。
^ Inc, NetAdvance Inc NetAdvance. “野郎歌舞伎|歌舞伎事典・国史大辞典”. JapanKnowledge. 2021年1月4日閲覧。
^ 5代目坂東玉三郎は、女歌舞伎や若衆歌舞伎が続かなかったのは風紀だけが理由ではなく「そのスタイルに限界があったのではないか」という私見を公式サイトで述べている。理由となる可能性について、少年少女の劇団では脚本の理解度も十分とは言えず、年齢制限があれば演者として成熟の域に達したころには舞台に立てなくなっていたのではと推測している。
^ 戸部銀作「女方」『国史大辞典』第2巻、吉川弘文館、1980年、P984
^ JAE所属の蜂須賀祐一蜂須賀昭二など
^ 立女方(読み)たておやまコトバンク
^ “《歌舞伎》女形のキャリアパスを聞いたら、神様の話になった。(前編) - YouTube”. www.youtube.com. 2020年11月7日閲覧。
^ “かぶきにゃんたろう 第4回「歌舞伎の衣裳」”. 株式会社サンリオ. 2020年11月7日閲覧。
^ “蔦える!歌舞伎入門 其の六【歌舞伎の衣裳】 - YouTube”. www.youtube.com. 2020年11月7日閲覧。
^ “坂東玉三郎 初春公演で華やかに30分口上「舞踊の中だけは現実をお忘れ頂きまして」”. スポニチAnnex (2021年1月2日). 2021年1月4日閲覧。
^ a b “梅枝&児太郎が12月歌舞伎座で大活躍!【まんぼう部長の歌舞伎沼への誘い♯11】”. @BAILA (2019年12月13日). 2021年1月23日閲覧。
^ “File83 歌舞伎入門 役者編|美の壺”. www.nhk.or.jp. 2020年11月7日閲覧。
^ “鷺娘/日高川入相花王”. 作品一覧 。シネマ歌舞伎 。松竹. 2020年11月7日閲覧。
^ “坂東玉三郎、来年で地方の短期公演を“引退””. スポーツ報知 (2019年7月25日). 2021年6月17日閲覧。
^ “玉三郎 地方の短期公演から“引退”を宣言「体力的に難しい」/デイリースポーツ online”. デイリースポーツ online (2019年7月25日). 2021年6月17日閲覧。
^ “玉三郎が梅枝と児太郎に大役継承 きっかけは3年前 - 舞台雑話 - 芸能コラム : 日刊スポーツ”. nikkansports.com (2018年12月1日). 2021年6月17日閲覧。
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典拠管理データベース: 国立図書館

日本

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