失業率
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ただし、利子率の下方硬直性では、ケインズ的不況が短期ではなく中期(10年程度)に渡って継続される[22]

ケインズは、セイの法則と相対する有効需要の原理を提示し、社会全体の生産物に対する需要によって雇用量が決定されるとして[注 1]不完全雇用を伴う均衡の可能性を認める。そのさい有効需要の不足によって発生した非自発的失業は、総需要を拡大することによって解消されなければならないとした。

名目賃金の下方硬直性を説明する要因としては、相対賃金仮説、効率賃金仮説、インサイダー・アウトサイダー仮説など様々な理由が考えられている(詳しくは労働経済学を参照)。
循環的失業米国の失業率(1990?2022)。グレー部が循環的失業。

循環的失業(Cyclical)はケインズ型失業(Keynesian unemployment)とも呼ばれ、働きたい者すべてに仕事を提供するのに十分な総需要が無いときに発生する。多くの財やサービスに対する需要が低下し、必要な生産量が減った結果として、必要な労働者も減るが、賃金には下方硬直性があるため均衡水準に達するまで下がらずに、失業が発生するのである[23]
完全雇用の下での失業短期フィリップス曲線はインフレ率と失業率の関係を示す詳細は「自然失業率」、「完全雇用」、「産出量ギャップ」、および「オークンの法則」を参照

構造的ないし摩擦的理由で失業している人の労働人口に対する割合を自然失業率インフレ非加速的失業率、略してNAIRU)という[24]。自然失業率(の解釈の1つ)は、経済が均衡状態にあるときの失業率である。

政府は公共政策により失業率を調整できるが、失業率を自然失業率以下にしようとすると、インフレが起こる。従って、インフレを起こさずに政策によって減らせる失業は循環的失業の部分だけである。

また、ジョージ・アカロフらによって、自然失業率の水準はインフレ率によって左右されることが指摘されている[25][26][27]。これら研究によれば、インフレ率がある閾値から低下すればするほど、自然失業率の水準が高まっていくこととなる。よって、インフレ率が非常に低いないしデフレの経済において、失業率を低下させる政策が採られた場合、一時的には失業率が自然失業率を下回ってインフレを加速させるが、それによってインフレ率の水準が高まると自然失業率の水準が低下するため、失業率が自然失業率よりも高い状態になればインフレの加速も止む。このことはまた、インフレ率などを勘案せず、失業率の水準だけを見て循環的失業の規模を推計することや、産出量ギャップの大きさを判断することの危険性を示している。

失業率は総産出量(実質GDP)と潜在産出量との差をパーセント表示したもの(産出量ギャップ、GDPギャップ)に関係している事が知られている。

産出量ギャップ = 100 × (総産出量? 潜在産出量)/潜在産出量 (%)

産出量ギャップが負の場合は、資源を完全には利用できていない状態なので、失業率は自然失業率よりも高くなる。逆に正であれば、失業率は自然失業率よりも低くなる。なお、産出量ギャップが正の場合をインフレギャップといい、負の場合をデフレギャップという。

産出量ギャップが短期的には0にならない理由として、雇用契約が挙げられる。景気が悪化しても、企業は契約の関係上、短期的には社員の給料も下げない。したがって給料は完全雇用を達成する水準より高い水準となってしまい失業者が増加し、それにより産出量ギャップが生じる。

過去のデータから、産出量ギャップと失業率には次の関係があると推定されている(オークンの法則):

失業率 = 自然失業率 - 0.5 産出量ギャップ (%)

これらのように、景気は実質GDPによって決まるが、それに対し失業率は産出量ギャップによって決まる。したがって景気(実質GDP)が上昇したとしても、その上昇速度が潜在産出量のそれよりも緩やかなら、「雇用なき景気回復」(ジョブレス・リカバリー)が起こる。

最後に、失業率を自然失業率以下に下げようとし続けると何が起こるのかを見る。例えば2%のインフレを起こすと、失業率を自然失業率以下に下がる。しかししばらくすると、国民は2%のインフレ率を予想に織り込んで行動するようになる。したがって再び失業率が上昇する。失業率をもう一度下げるには、さらに高い率のインフレを起こさねばならない。しかしこの高いインフレ率もそのうち予想に織り込まれるので失業率が再び上昇してしまう。このように、失業率を自然失業率以下に抑えつづけるには、インフレを加速させ続けねばならない。

名目賃金の下方硬直性がある場合、労働需要を増加させるには物価の上昇が必要であるが、労働需要の増加によって完全雇用が達成されると、それ以上は需要が増えても物価が上昇するだけになってしまう[28]
隠れた失業

公的統計においては、隠れた失業(潜在的失業)を考慮しないことにより、失業率が過小評価されることが多い[29][30]。隠れた失業とは、統計の手法によって公式の失業統計に反映されていない潜在的な失業のことである。多くの国では、仕事はないが積極的に仕事を探している人(完全失業者)や、社会保障給付を受ける資格のある人のみが、失業者として数えられる。就業意欲喪失者や、政府の職業訓練プログラムに参加している人は、無職であっても公式には失業者として数えられない。

また不完全雇用(underemployed)と呼ばれる、希望する時間より少ない時間しか働けないパートタイマーや、自分の能力を十分に生かせない仕事をしている人(資格過剰)も統計には含まれない。さらに生産可能年齢に達しているが、現在フルタイムで教育を受けている人は、一般的には政府統計において失業者とはみなされない。


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