日本に天然記念物の概念を紹介した三好学は、人の手が入っていないものを天然記念物としてとらえたが、上述の指定基準によれば、天然記念物の指定対象には二次植生や栽培・移植された植物、家畜(日本犬やオナガドリなど)、移入種(カササギ、ケラマジカなど)など人為的なものも含まれる[注釈 3]。
2024年(令和6年)2月21日現在、国の天然記念物は1,040件指定されており、このうち75件が特別天然記念物に指定されている(次項参照)。 国の天然記念物に指定されたものは、その後荒らされたり、傷つけられたりすることがないように、文化庁長官の許可がなければ、捕獲、採集、盗掘、樹木を伐採したりできないような規制がかけられる(文化財保護法・第百二十五条「現状変更等の制限及び原状回復の命令」)[7]。また、地方自治体によって指定されたものは、条例によって規制され、天然記念物を守ることが定められている。 しかしながら、天然記念物の指定は本来文化財保護目的である文化財保護法を根拠としているため、生物や環境由来の天然記念物の保護には難点もある。たとえば天然記念物に指定されると現状変更の規制に抵触するため学術研究そのものが困難となる。また逆に、種指定を受けた天然記念物については、その生物の生育・生息環境を改変しても、それ自体は文化財たる天然記念物の現状変更には抵触しないため、種の存続を脅かしかねない開発行為などの規制には無力であることが多い。 また一方で、近年ある種類の生物のみを保護することにより、生態系のバランスを崩し自然環境のバランスを損なう結果、経済的損失や自然破壊をもたらす事が問題となっている。たとえば下北半島のニホンザル(農作物の被害)や長野県のニホンカモシカ(農林業への被害)、奈良公園の鹿(農業への被害)などがあげられる。とりわけ奈良公園の鹿は古典落語の題材(鹿政談など)になっているほどで、保護という公益が個人の人権を圧迫する場合に、どこまでバランスの支点を人よりに置くかは、古くからの行政の問題である。 長野県辰野町松尾峡の場合は、ゲンジボタル生息地として長野県天然記念物[8]に指定された後に、町役場が観光用に他県からゲンジボタルを移入し、今も養殖を続けている(2009年現在)。その結果、移入ゲンジボタルが在来ゲンジボタルの個体数減少を引き起こしていることが問題となっている[9][10][11]。上記のように、文化財保護法では、移入種を天然記念物に指定することも可能である。しかしながら、辰野町松尾峡の場合は、自然(在来)のゲンジボタル生息地として県天然記念物の指定を受けた後に、町役場が他県からゲンジボタルを移入したという点で問題であろう。 なお、同じく貴重な動植物の保存を目的とした法制度として「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」があるが、こちらは環境省の所管で、対象となっている種類も異なっている。 自然現象によって変化した人工物が指定されることもあり、地震動の擦痕と旧相模川橋脚は地震の影響を示す遺産として登録されている。 文化財保護法第109条第2項の規定により、天然記念物のうち、世界的に又は国家的に価値が特に高いもの、として特別に指定されたものを特別天然記念物という。 動物では、21件が特別天然記念物に指定されている。都道府県名が記載されていないものは、「地域を定めず指定された動物」である。
特徴と課題
特別天然記念物
動物トキ
カモシカ
カワウソ
イリオモテヤマネコ
アマミノクロウサギ
トキ[注釈 4]
コウノトリ
タンチョウ
アホウドリ
カンムリワシ
ライチョウ
ノグチゲラ
メグロ
オオサンショウウオ
土佐のオナガドリ
小湊のハクチョウおよびその渡来地 : 青森県
鯛の浦タイ生息地 : 千葉県
ホタルイカ群遊海面 : 富山県
長岡のゲンジボタルおよびその発生地 : 滋賀県
八代のツルおよびその渡来地 : 山口県
高知市のミカドアゲハおよびその生息地 : 高知県
鹿児島県のツルおよびその渡来地 : 鹿児島県