天下
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ベトナムの「天下」は主に中越関係に影響されながら、その領域を変容させた。
北方アジアの遊牧民

モンゴルを代表とする北アジア中央アジア遊牧諸民族においては、中国王朝の「天」に対応あるいは類似する概念として「テングリ」概念が存在する。テングリは今日においてはカムチャツカ半島からマルマラ海にまで遊牧民族の信仰生活に密接にかかわっている。テングリは天の主宰神として運命神であるとともに、天そのものでもあり、創造神として現れることもある。また今日ではテングリに対する祭祀はシャーマニズムに基づいて行われるが、アジアの遊牧民のシャーマニズムには宇宙三界観と呼ばれる独特の世界観があるとされている。地上にはテングリの代理者として救世主的な英雄がしばしば遣わされ、この英雄は「テングリの子」というように呼ばれていた。匈奴単于チンギス・ハーンをはじめとするモンゴル帝国のハーンはこの「テングリの子」を称した。彼らはこのことにより地上の救済を観念上独占し、地上における唯一の君主として君臨する者と主観された。このようにアジアの遊牧民にも一定の秩序原理に基づいた「天下」概念類似の地上世界観が存在したとされるが、そこには「テングリの子」に服属する者と敵対する者という二元的構造が存在するのみで、華夷秩序のように段階的な秩序構造は存在しなかったか希薄であった。
歴史的展開
中国における「天下」
殷――天下以前

の時代には世界としての「天下」はいまだ成立していなかったと考えられている。殷の人々は首都である大邑の周囲に「奠」と呼ぶ直轄支配領域を持ち、これは周代以後の「甸」すなわち「畿内」に当たると考えられている[40][41](戦国時代以降の文献での用語で「内服」という[40][42])。この奠の外側に「東土」「西土」「南土」「北土」などの「四土」が広がっていた[41]卜辞においてこれら「四土」を対象とした豊凶の占いが頻繁に見られることから、「四土」(戦国時代以降の文献での用語で「外服」という[40][42])は大邑商にとって強い利害関係が存在した土地であったと考えられている[41]。「四土」の外側には「四戈」と呼ばれる境界領域があり、その外側に「周方」「鬼方」「土方」などといった独立政治勢力が支配する「四方」あるいは「四至」[42]という領域が存在した[41][注釈 6]。このうち「周方」から勢力を伸ばした周がのちに殷に取って代わって「中国」を支配することとなった[41]。周代と異なって、殷代には諸侯を封建した事例が甲骨文字から確認できないため、殷代前期に封建が行われた可能性は否定できないものの、殷王朝の君主は周代ほど地方領主に強い影響力を及ぼしていなかったと考えられている[44]。おそらく殷代の直轄地以外は間接統治されて殷の支配力は弱く、地方領主は後世に比べて自立性が高かったと考えられている[44]。殷代の君主は祭祀を通じて宗教的権威を構築し、同時に祭祀儀礼に参加する臣下に供物を分け与えることで経済的恩恵を示すとともに、君臣関係を確認していたと考えられている[44]。また殷代では後代に夷狄とされる「」をはじめとする敵対勢力民を捕らえることに関する占卜も広く見られることから、戦争を通じて彼らを奴隷としていたとも考えられているが、殷代における奴隷制は決して大規模ではなく、戦争捕虜の多くは生け贄として祭祀に供されていた[44]。殷代にはという神に対する信仰が行われていたことが知られているが、この帝が周代になると天と結びついて昊天上帝の信仰に結実した[44][注釈 8]。帝信仰は武丁の時代以降殷では衰えたと考えられている[44]
西周――受命する天子、四方を治める王

の時代に人格的な天(上天・天帝・昊天上帝)の概念が成立すると、それにあわせて「天下」概念の萌芽が見られる[41][注釈 10][注釈 13]。「四方」「万邦」という用語がそれで、「四方」というのは王朝成立の対象領域[注釈 14]で、その経営の中心は周王のいる「中国」あるいは「周邦」であり、その周囲にある異民族のいる土地のことである。「万邦」というのは「民」と「疆土」のことで、「民」は異民族も含めた民、疆土にも異民族の土地が含まれていた。周王は天命によりこの「万邦」を「受け」たとされた。すなわち、文王が天命を受け、武王が殷を打倒したとされ、周王は「天子」と称した[40][注釈 15][注釈 23][注釈 25]。後世と異なり、西周時代の「中国」と「夷狄」の間には優劣や対立の概念はなかったと考えられている [93][注釈 27]。この時代の「夷狄」は国邑と隣接して居住し、周の統治に組み込まれた存在であった [93]


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