天ぷら
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調理法「天ぷら」と「油切り」及び天ぷらを揚げている様子。泡は食材の水分が蒸発する水蒸気[17]衣液に浸されたエビ

食材は下粉を打って(小麦粉をまぶして)から「衣液」に浸し、深い(天ぷら鍋)を使用し多量の熱い油(160-180程度)で揚げることによって調理を行う。「華を咲かせる」とは揚げ終わったときに衣が広がって食感をよくさせることであり、この技法が使用されることがある。揚がった天ぷらは、天ぷら鍋に取り付けた「天ぷら網」あるいは「天台(天ぷらバット)」などに移して油を切る。中華鍋を代用する場合もある。

一般的に、衣液は鶏卵、冷水、小麦粉(薄力粉)で作る。小麦粉は軽く数回サックリと混ぜる程度にして、グルテン生成を抑える。グルテンは天ぷらの揚げ上がりの食感を悪くするからである。グルテンにより衣に粘りが出てしまうことを「足が出る」という[18]。グルテン生成の少ない、製粉後しばらく期間を置いた小麦粉を使うこともある。

一般的には水2ないし3に対し卵1の割合で「卵水」をつくり、同量の粉を合わせるが、水10に対し卵1の割合の卵水に同量の粉を合わせた衣を使うと、サクサクとした食感となる[19]仏教寺院などで精進料理として出される場合や、地域によっては卵を使用しない例もみられる。

一方、でん粉米粉ベーキングパウダー(膨らし粉)などが加えられた「天ぷら粉」が業務用も家庭用も市販されている。天ぷらはかつては高い調理技術が求められ、家庭料理と料理人の作品には明らかに差が見て取れる難しい料理と考えられてきたが、ミックス粉の開発・普及により、素人でも気軽に作れる料理に変わりつつある。紫蘇の葉、山芋抹茶道明寺粉ウニあられ、細かく切った春雨蕎麦素麺などを用いた変わり衣も用いられることがある。

前述のように衣を散らせるように揚げることを「花を咲かせる」などと呼ぶ。揚げている通常の天ぷらに衣の元を箸などで散らすことで衣を増やす。一般的に技術を要するとされる。
揚げ油

揚げ油は天ぷらの香りを決定付ける重要な要素である。ごま油または綿実油を使用し独自に配合した揚げ油を使用する天ぷら店もある[3]

ごま油を使用すると衣がこんがりと色が付く「黒天ぷら」、サラダ油などを使用すると衣が白っぽい「白天ぷら」になる。他にも椿油オリーブオイル大豆油など様々な植物油を用いられる。屋台料理としての天ぷらは、高温のごま油で揚げた黒天ぷらが主流であったが、お座敷天ぷらは白くさっくりと揚がる太白油(非焙煎のごま油)を用いられ差別化が図られた[13]

江戸時代はごま油が高価であり、これが原因で天ぷらが庶民の口に入りづらく、天ぷらは高級な料理であった。この後、安価ななたね油の使用により天ぷらが庶民にまで普及が加速した経緯もある[20]

第2次世界大戦後の沖縄県では、物資不足の時代、食用油の代わりに機械油が用いられたこともあった(モービル天ぷら[21]。現在では食用油が安価に入手できるためにわざわざ機械油を食用にもちいることはない。また、日本本土でも揚げ油にひまし油が使用された例があり、風味は決して悪くないと主張する利用者も存在したものの[22]、消化不良で、体調を崩したり、あるいは下痢に陥ったりした者もあったとされる。植物や鯨油などの動物由来の機械油なら食用の可能性はなくはないが、中には人体で消化できない油や、ひまし油のように確実に有害な油もあり、さらに石油由来の鉱物油の場合人体への重大な悪影響が考えられ、利用に耐え得る食材とは言えない。

食用油は空気に触れると酸化して変質する。油は数回の料理の後に適度に交換する方が良い。使用後はなるべく空気に触れない状態で冷蔵庫で保存する。
使用後の揚げ油の処理

西洋風のフライ料理と同じく、天ぷらも廃油が残る。自治体は、水質汚染など生態系への悪影響や、下水道の詰まりを避けるため、廃油を排水口に流さないよう指導している[23]。このため廃油を固化させて捨てやすくする凝固剤が市販されている[24]。このほか、地球温暖化対策としての二酸化炭素(CO2)排出抑制のため、業務用(飲食店や惣菜工場)に使われた大量の廃油は回収されて、持続可能な航空燃料(SAF)[25] を含むバイオ燃料の材料として利用される廃油もある[26]
タネエビの天ぷら

「たね七分に腕三分」[5][27] と言われ、タネの素材とタネへの「仕事」が天ぷらの決め手とされている。魚介類や各種野菜・根菜のほか、キノコ類、タケノコ海苔などの海藻など多くの食材が天ぷらのタネとされる。

ウドタラナス(茄子)などのアクのある野菜でも薄衣にしたり片面衣にしたりするなどして100℃以上の高温にさらすことで、えぐみや苦みが出にくくなる。但し、色の変化を防ぐために前処理する場合があることと、高温にさらすことがアクのある野菜全てに有効なわけではない。

江戸前天ぷらでは、新鮮な車えび穴子はぜきす白魚青柳ぎんぽなどを主にごま油で揚げる。

油で揚げている最中にタネの温度が上がり急上昇すると、共に水分や空気を遮断する油中にあるため、衣に閉じ込められた空気や水分・水蒸気が衣を破ったり油を跳ねさせりすることがある。そのため、尾のついた海老を天ぷらとする際に、尾の先端を切り中に含まれる水分を抜くといった下処理を行うこともある。また、仕上りを美しくするために、タネに隠し包丁を入れたり筋切りをすることがある。高温の調理で硬くなるもの(ハマグリイカなど)は、薄く切ったり、切れ目を入れたり、あらかじめ軽く湯がいたりするといった下ごしらえによって、衣も種も適度に揚がるように「仕事」をすることもある。キスの磯辺揚げ

タネの名に「天」を付し「海老天」「ナス天」などと呼ばれることもある。また、芝海老や小柱などの細かく切り刻んだ、あるいは元から細かい野菜類や魚介類を衣と混ぜ合わせて揚げたものは「かき揚げ」と呼ぶこともある。江戸時代の『守貞漫稿』に「蕎麦屋の天ぷら」は「芝海老」だったと書かれており、かき揚げも天ぷらと呼び、天ぷら屋のメニューである。青海苔を入れた衣を使ったものや、板海苔をタネに巻いたもの、あるいは板海苔に衣を付けて揚げたもの(衣を種の片面だけに付けることもある)は「磯辺揚げ」(いそべあげ)とも呼ぶ。タネとしてはアナゴキス、海老、イカなどの魚介類、茄子、蓮根カボチャなどが代表的であるが、これらに限定されず種々の魚介類や野菜に加えて、季節の山菜キノコなど様々な食材を用いる。ちくわなどの練り物を使う場合もある。一部地域では鶏肉を使ったとり天(鶏天・鳥天)、かしわ天といったバリエーションもある。

牛肉豚肉を揚げた料理は「肉天」「豚天」と呼ばれる。肉の場合「天」と付いていても、調味料下味を付けたり、衣に片栗粉を使ったりするから揚げに近い調理法もある[28]
盛り付けエビの天ぷらと敷紙

の上に、余分な油を吸う天を敷いて盛り付けられることが多い。その際に乱雑に盛るのではなく、盛り付け方にも拘られることがある。敷紙を半分に折る場合、紙を傾けて折られることがあるが、懐紙のマナーとして紙の左下を上に持っていく折り方(上にかぶさる紙の元々底だった辺が右肩下がりになる)だと祝儀、反対に紙の右下を上に持っていく折り方(同左肩下がり)だと不祝儀の折り方とされ、後者の折り方は避けられることがある[29]。敷紙を折るとわずかに空間があき油を吸い込みやすくなり、また敷紙を折ることは染みた油が直接皿などに付くと敷紙が透けて見た目が悪くなるのも防いでいる。
語源

日本語「てんぷら」の語源については諸説あるが、下記のようにポルトガル語に由来すると推察する説が多い。

オックスフォード英語辞典』は、英語 "tempura" (初出1935-40年)の語源である日本語 "tenpura (てんぷら)" の語源を、ポルトガル語 "tempero (意:seasoning、調味料


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