大魔神
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大魔神シリーズは大規模なブルーバック合成が絶大な効果を上げているが[注釈 2]、当時の合成画面の現像は合成素材のフィルム同士の調子を合わせるために2日寝かせて行わなくてはならず、現像所で合成画面が完成するまで20日かかるものだった。『大魔神』全3作に『酔いどれ博士』(三隅研次監督、勝新太郎主演)を挟んでの撮影を進める中、合成画面1カットの費用が当時の価格で30万円かかるため、その成果に対する心労や撮影スケジュール進行のストレスに、森田は「心臓がおかしくなった」と語っている。このため、『大魔神逆襲』は今井ひろしと連名で撮影を行っている。

大映は本作に先立ち、日米合作の航空特撮映画『あしやからの飛行』(マイケル・アンダーソン監督、1964年)を制作しているが、この際には青く塗装したホリゾント壁を使ってブルーバック合成が行われた。しかし、この手法では色ムラが出てしまうため、合成画面に苦心した。アメリカのスタッフは大映自前の東京現像所を信用せず、ブルーバック合成の現像はアメリカにフィルムを送って行うという状況だった。これを見た森田が、翌年の1965年(昭和40年)に玩具の戦車が大映京都撮影所正面入り口から出て来るというブルーバックのテストフィルムを独自に撮影すると、出来栄えが良かったために所内で評判となり、『大魔神』の企画のもととなったという。

三部作すべてで大魔神役スーツアクターを務めたのは、プロ野球選手出身の橋本力である。橋本を起用したのは黒田義之で、「主役はあんただから」と念を押したという。撮影は芋の粉やコルク屑、炭粉を使った粉塵が飛び交うものだったが、橋本はカメラが回っている間は、決して瞬きをしなかったという。それによって血走った眼が印象的な当たり役となり、『妖怪大戦争』でも吸血妖怪ダイモン役で血走った両眼を見せ、強い印象を残している[6]。荒れてしまった目は、茶でしかきれいにすることができなかったという[7]。森田も「あの人には頭が上がりません」と述べている。

作曲を担当した伊福部昭は、「魔神といっても神様ですから、神々しいイメージでいたところ、映像を見たら、青黒い顔に血走った目玉がギョロギョロ動いて睨みつけるというものだったので、さあこれはえらいことになったと、驚きながら作曲しました」と語っている。伊福部はこの魔神に三音階から成る非常に印象的なテーマ曲を与え、作品世界に重厚な奥行きを構築している。「魔神封じの神楽」には、『キングコング対ゴジラ』(1962年)でのファロ島の祈りの音楽を一部流用している[8]。奥田久司によると、奥田をはじめ安田・三隅・森の3監督とも伊福部音楽の大ファンだという。

大映京都のスタッフは、長年築いた時代劇セットのノウハウをつぎ込み、見応えのある建物のミニチュアを制作した。これらは魔神の背丈に合わせ、フィルムの速度も2.5倍にされたうえ、瓦の各個の大きさまで1/2.5の縮尺で統一されているという徹底ぶりであった。崩れる城門は数十人で引っ張り、ブルドーザーも援用している。ラストシーンで崩壊する魔神のミニチュアは、高山良策の手によるものであるが想定通りには崩れず、かなりの試行錯誤が行われている。劇中最後の魔神のミニチュアの崩壊は、上方から圧縮空気を当てて行った。

砦のオープン・セットは、京都の沓掛にあった採石場に組まれた。2作目、3作目のオープンセットもこの沓掛の採石場が使われた。クランク・インは2月3日、クランク・アップは4月10日、テスト期間を入れれば3か月かけて撮影が行われた。
あらすじ

戦国時代、丹波の国の領主・花房家は、家老の大館左馬之助一派の下剋上によって幼い忠文・小笹兄妹の2人を残して滅ぼされ、領民たちは砦の建設のために苦役を強いられることになってしまった。花房の兄妹は忠臣・小源太の叔母で魔神の山の魔神阿羅羯磨(あらかつま)を鎮める巫女の信夫の下に身を寄せ、お家再興の機をうかがう。月日は流れ、忠文と小笹はそれぞれたくましい若者と美しい娘に成長していた。一方、彼らの潜む魔神の山には巨大な武神像があり、領民たちから篤く信仰されていた。これを快しとしない左馬之助は、忠告に上がった信夫の「このまま領民たちを苦しめ続けたら魔神による神罰がある」という言葉を嘲笑い、「神罰があるなら見せてみよ」と信夫を斬り殺し、こともあろうに山中にある武神像の破壊を配下に命じた。小笹が捕まり、その眼前で武神像の額に深々と鏨(たがね)が打ち込まれた。すると、鏨の傷から赤々とした鮮血が滴り始めたのである。同時に起こった地震、地割れ(武神像の祟り)の中、左馬之助の手の者たちは次々に地割れに飲み込まれていく。

怒り鎮まらぬ武神は、忠文の命乞いに身を捧げようとした小笹の眼前で動き出し、穏やかな相貌を憤怒の相に変えるや、光の球となって砦の建設現場へと向かう。折しも砦では、花房家最後の望みである忠文と小源太の処刑が執行されようとしていた。絶望し、ただ神に祈るのみの領民、そして勝ち誇る左馬之助の前へ、妖しく曇った天空から一点の光が地上に落ち、突如それは巨大な魔神の姿となった。

魔神は砦を突き破り、城下へ侵入する。必死にこれを止めようとする城兵たちも次々に踏みつぶされ、瓦礫の下敷きとなっていく。花房家の残党により忠文と小源太は救出され、左馬之助も逃亡むなしく魔神に捕まった。魔神は額に打たれた鏨を引き抜くや、これを左馬之助の胸に深々と突き通す。しかし魔神の怒りはなおも鎮まらず、無辜(むこ)の領民までもが巻き添えに、魔神による破壊はついに城下全体に及ぶかに見えた。

そのとき、魔神の足元に小笹が駆け寄ってひざまずいた。小笹は自らの命と引き換えに、魔神に怒りを鎮めてくれるよう懇願し、涙を落とした。それを見た魔神は自らの顔を穏やかな武神に変え、やがて土塊(つちくれ)となって崩れ去り、風の中に消えていくのだった。
スタッフ

製作:
永田雅一

企画:奥田久司

監督:安田公義

脚本:吉田哲郎

撮影:森田富士郎(本編・特撮とも)

録音:林土太郎

照明:美間博

美術:内藤昭

音楽:伊福部昭

編集:山田弘

擬斗:楠本栄一

音響効果:倉嶋暢

助監督:西沢鋭治

製作主任:田辺満

特撮監督:黒田義之

特撮合成:田中貞造

現像:東洋現像所

キャスト

花房小笹:
高田美和

花房忠文:青山良彦

花房忠文(少年時代):二宮秀樹

猿丸小源太:藤巻潤

大舘左馬之助:五味龍太郎

花房忠清:島田竜三

犬上軍十郎:遠藤辰雄

梶浦有助:杉山昌三九

中馬逸平:伊達三郎

巫女の信夫:月宮於登女

竹坊:出口静宏

吾作:尾上栄五郎

小郡主水:伴勇太郎


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