大腸菌
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特に、実験室株MG1655のゲノムの18%は、サルモネラからの分岐以降に水平的に取得されたものである[38]。E. coli K-12株およびE. coli B株は、実験目的で最も頻繁に利用される品種である。他の大腸菌のいくつかの株は、宿主動物に有害な形質を持つ。これらの毒性の強い株は通常、下痢の発作を引き起こす。下痢は、健康な成人では抑制的であるが、発展途上国の子供ではしばしば致命傷となる[39]O157:H7などのより毒性の強い菌株は、高齢者、若年者、免疫不全の人などに深刻な病気や死を引き起こしうる[39][40]

エシェリヒア属サルモネラ属は約1億200万年前に分岐したと考えられている(信頼区間:57-176 mya)。これは、各細菌の宿主の分岐とよく一致している。すなわち、前者は哺乳類から発見され、後者は鳥や爬虫類から発見される細菌である[41]。この祖先細菌から、5種の大腸菌の祖先種(E. albertii、E. coli、E. fergusonii、E. hermannii、E. vulneris)が分岐したと考えられている。最後の大腸菌の祖先種は、2000万から3000万年前に分裂したと見積もられる[42]

1988年にRichard Lenskiによって開始された、E. coliを使用した長期進化実験により、研究室で65,000世代を超えるゲノム進化の直接観察が可能になった[43]。たとえば、大腸菌は通常、クエン酸を炭素源として好気性に増殖する能力を持たない。このことは、大腸菌をサルモネラ菌などの他の密接に関連する細菌から区別するための診断基準として使用される。しかしながらこの進化実験では、大腸菌の1つの集団が、好気的にクエン酸を代謝する能力を進化させることが確認された。これは、微生物の種分化を引き起こすような、主要な進化的シフトの特徴であると考えられる。

微生物の世界でも動物と同様に、捕食の関係が成立する。そして大腸菌は、Myxococcus xanthusのような複数のジェネラリスト捕食者の餌食であることが知られている。この捕食者と被食者の両種は並行進化していることが、ゲノムや表現型の変化の観察から考えられている。大腸菌の場合、ムコイド産生(アルギン酸エキソプラズマ酸の過剰産生)とOmpT遺伝子の抑制という、病原性に関与する2つの側面を伴う、赤の女王仮説で実証された共進化モデルに従って、他よりも適応的な進化個体が選択的に生き残ると考えられている[44]
ネオタイプ株

E. coliはEscherichia属のタイプ種であり、Escherichia属はEnterobacteriaceae科のタイプ属である。この科名はEnterobacter+"i"(sic.)+aceaeであり、enterobacterium+aceaeではない(Enterobacteriumは属名ではなく、腸内細菌の別名となっている)[45][46][47]

本来は最初にEscherichと記載された原株がタイプ株とされるべきであるが、既に失われていると考えられている。そのため、その代替となる新しいタイプ株(ネオタイプ)が幾つか選択されている。具体的には、U5/41T(DSM 30083)[48][49]、ATCC 11775 [50]、およびNCTC 9001[51]である。なお、NCTC 9001株は鶏に病原性を持っており、O1:K1:H7血清型を持っている[52]。一方でほとんどの研究では、代表的な大腸菌としてO157:H7、K-12 MG1655、またはK-12 W3110のいずれかが使用される。タイプ株のゲノムは配列決定されている[48]
大腸菌株の系統

今までの研究により、この種に属する多くの株が分離され、特徴付けられている。大腸菌は、血清型(上記参照)に加えて、系統学に6つのグループに分類される[53][54]。特に全ゲノム配列の情報を利用することで、高度に信頼性の高い系統関係を推定することが可能である。このようなゲノムデータに基づいて、大腸菌には5つの亜種が定義されている[55]

系統学的距離は一方で、病理学な特徴とはあまり関連していない[56]。たとえばO157:H7血清型株は、グループEと形容されるクレードを形成し、すべて腸管出血性株(EHEC)に含まれるが、すべてのEHEC株が系統学的に密接に関連しているわけではない。実際、Shigella属の4つの異なる種が、E. coli株の間に入れ子状になっている(上記を参照)。一方で、EHEC株であるE. albertiiおよびE. fergusoniiは、このグループの外に位置している。そして、タイプ株を含むすべての赤痢菌種は、大腸菌の単一亜種内に位置している[56]。このため、適切な再分類は困難な状況になっている。研究分野で一般的に利用されるすべての大腸菌研究株はグループAに属し、主にクリフトンのK-12株(λ?F?; O16)やデレーユのBacillus coli株(B株)(O7)に由来している。.mw-parser-output table.clade{border-spacing:0;margin:0;font-size:100%;line-height:100%;border-collapse:separate;width:auto}.mw-parser-output table.clade table.clade{width:100%}.mw-parser-output table.clade td.clade-label{width:0.7em;padding:0 0.15em;vertical-align:bottom;text-align:center;border-left:1px solid;border-bottom:1px solid;white-space:nowrap}.mw-parser-output table.clade td.clade-fixed-width{overflow:hidden;text-overflow:ellipsis}.mw-parser-output table.clade td.clade-fixed-width:hover{overflow:visible}.mw-parser-output table.clade td.clade-label.first{border-left:none;border-right:none}.mw-parser-output table.clade td.clade-label.reverse{border-left:none;border-right:1px solid}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel{padding:0 0.15em;vertical-align:top;text-align:center;border-left:1px solid;white-space:nowrap}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel:hover{overflow:visible}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel.last{border-left:none;border-right:none}.mw-parser-output table.clade td.clade-slabel.reverse{border-left:none;border-right:1px solid}.mw-parser-output table.clade td.clade-bar{vertical-align:middle;text-align:left;padding:0 0.5em;position:relative}.mw-parser-output table.clade td.clade-bar.reverse{text-align:right;position:relative}.mw-parser-output table.clade td.clade-leaf{border:0;padding:0;text-align:left}.mw-parser-output table.clade td.clade-leafR{border:0;padding:0;text-align:right}.mw-parser-output table.clade td.clade-leaf.reverse{text-align:right}.mw-parser-output table.clade:hover span.linkA{background-color:yellow}.mw-parser-output table.clade:hover span.linkB{background-color:green}

Salmonella enterica

E. albertii

E. fergusonii

Group B2

E. coli SE15 (O150:H5. Commensal)

E. coli E2348/69 (O127:H6. Enteropathogenic)



E. coli ED1a O81 (Commensal)

E. coli CFT083 (O6:K2:H1. UPEC)

E. coli APEC O1 (O1:K12:H7. APEC

E. coli UTI89 O18:K1:H7. UPEC)

E. coli S88 (O45:K1. Extracellular pathogenic)





E. coli F11

E. coli 536







Group D

E. coli UMN026 (O17:K52:H18. Extracellular pathogenic)

E. coli (O19:H34. Extracellular pathogenic)

E. coli (O7:K1. Extracellular pathogenic)





group E

E. coli EDL933 (O157:H7 EHEC)

E. coli Sakai (O157:H7 EHEC)



E. coli EC4115 (O157:H7 EHEC)

E. coli TW14359 (O157:H7 EHEC)





Shigella

Shigella dysenteriae

Shigella sonnei

Shigella boydii

Shigella flexneri









Group B1

E. coli E24377A (O139:H28. Enterotoxigenic)

E. coli E110019

E. coli 11368 (O26:H11. EHEC)

E. coli 11128 (O111:H-. EHEC)





E. coli IAI1 O8 (Commensal)

E. coli 53638 (EIEC)



E. coli SE11 (O152:H28. Commensal)

E. coli B7A







E. coli 12009 (O103:H2. EHEC)

E. coli GOS1 (O104:H4 EAHEC) German 2011 outbreak



E. coli E22



E. coli Oslo O103

E. coli 55989 (O128:H2. Enteroaggressive)











Group A

E. coli HS (O9:H4. Commensal)

E. coli ATCC8739 (O146. Crook's E.coli used in phage work in the 1950s)


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