大気汚染物質
[Wikipedia|▼Menu]
二酸化硫黄の対策として、硫黄分を回収する脱硫装置の開発・普及が進められた。日本では1970年頃から脱硫装置の設置が進んだため、東京の二酸化硫黄濃度は1960年代後半の約60ppbが1970年から1985年にかけて約5分の1に減少、1990年代初めには約10ppbになっている。またアメリカのニューヨークでも1960年代後半の約80ppbから1990年代初めに約11ppbまで減少するなど、先進国では20-30年間で最も多かった時期の6分の1程度に減少させている[2][7]。またアメリカでは大気浄化法の1990年改正において二酸化硫黄、窒素酸化物、水銀に排出取引制度が導入され、排出総量の削減に寄与している[16]

こうして先進国では煤煙や硫黄酸化物が削減されたが、次に光化学オキシダントを多く含んだ白いスモッグ、いわゆる「光化学スモッグ」が問題化した。日本では1970年に初めて発生している。光化学オキシダントを引き起こす窒素酸化物や炭化水素は、先進国でも大きな削減はできていない状況にある[2][7]

短期的な健康被害を及ぼす汚染が減少した先進国では、長期的な健康影響への関心が高まり、揮発性有機化合物などの有害化学物質が問題となった。これらに対しても規制が行われ、現在も健康影響の評価が進められている[2][7][17]

一方、温室効果ガスによる地球温暖化フロン類などによるオゾン層の破壊も、地球規模の大気汚染(地球環境問題)として浮上した。

また、被害の全貌が明らかになった訳ではないが、1950-1960年代には大気圏内核実験により地球規模で放射性降下物の濃度(降下物の放射能)が上昇した。その後低下して、1990年代にはほとんどなくなっている[18]
途上国の高い汚染リスクと越境汚染問題

経済レベルと汚染物質の比率(UNHSP, 1990-1995年[19]
経済レベル/汚染物質年平均濃度
発展途上国 二酸化窒素  63μg/m2
〃 二酸化硫黄  48μg/m2
〃 粒子状物質  187μg/m2
中進国 二酸化窒素  56μg/m2
〃 二酸化硫黄  32μg/m2
〃 粒子状物質  70μg/m2
先進国 二酸化窒素  52μg/m2
〃 二酸化硫黄  20μg/m2
〃 粒子状物質  53μg/m2
インドの野焼きの煙インドネシアの泥炭地の山火事

発展途上国では、先進国では削減に成功している煤煙や二酸化硫黄を主体とした大気汚染が依然として見られる[2][7]開発途上国と先進国の大気汚染物質濃度を比較した国際連合人間居住計画(UNHSP)の1990-1995年の資料によると、二酸化窒素の濃度は両者で大きな差はないが、二酸化硫黄は開発途上国が先進国の約2.5倍、粒子状物質は同じく約3.5倍である。排出源が家庭における調理や暖房などに由来するため規制が難しい構造があり、また貧困や教育の問題も関係している。更に、アジアアフリカラテンアメリカの人口が急増している都市や工業地帯では大気汚染が深刻な状況にある[19][20][21]

一方、ヨーロッパでは1960年代から酸性雨による生物への被害が深刻化し、越境汚染への関心が高まった。1969年にOECDが酸性雨問題に関して国際協力の必要性があることを勧告。1972年には西ヨーロッパ11カ国でモニタリングの枠組みが発足した。同年の国際連合人間環境会議では国境を跨いだ酸性雨が議題の1つとなり、世界にその被害状況が報じられた。各国は1979年に長距離越境大気汚染条約(英語版) (CLRTAP)を締結、1983年に発効し世界初の越境大気汚染に関する条約となった。加盟各国に対策、監視、情報交換を行うことを定め、以後段階的に拡充している[22][23][24][25]北アメリカカナダとアメリカの間でも1970年代に酸性雨が越境汚染として問題化し、当初は主張が対立していたが、1980年に両国が覚書を交わして以降監視や情報交換を進め、1991年にアメリカ・カナダ空気質協定(英語版)を締結している[22][25]

ヨーロッパや北アメリカではこうした汚染状況を明確化するため、各国の排出量や沈着量などのデータを作成し公表している。例えば、北欧のスウェーデンでは硫黄酸化物の93%、窒素酸化物の87%が国外から運ばれてきて沈着している(1994年時点)というデータが得られている[25]

東南アジアでは、森林熱帯雨林)火災や泥炭火災の煙が大規模な煙霧となり周辺国にまで広がる越境汚染が、1980年代から深刻化した。1997-1998年には約9万km2に及ぶ火災によりブルネイインドネシアマレーシアフィリピンシンガポールタイの6カ国に広がる過去最大の煙霧が発生、2006-2007年にもカンボジアラオスミャンマー、タイの4カ国で空気質指数(AQI)がUnhealthy[注 1]となる大規模な煙霧が発生している。これに対処するため、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国は2002年に越境煙霧汚染ASEAN協定(英語版)を締結(2003年発効)し、国家間の情報提供や連携した防止策を取り決めている[26]。ただし、域内の泥炭面積の7割を有するインドネシアが条約を批准していない事や、所得の少ない農民によるアブラヤシパーム油の原料)生産のための開墾が森林破壊の主な原因で、伐採により露出して乾いた泥炭が火災を引き起こしている事などの問題があり、その後も越境煙霧汚染は度々発生している[27]

硫黄酸化物、窒素酸化物、酸性雨、スモッグ・煙霧などの越境汚染は、同様に大きな排出源を有するインドバングラデシュなどの南アジアや、中国、韓国、日本などの東アジアでも発生している。東アジアでは1998年に酸性雨の原因物質の動向を監視する東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)が発足している。「ヘイズ (気象)」も参照
先進国における課題

技術革新と大規模な大気汚染源に対する規制の強化・摘発により、先進国では大気汚染は大幅に改善されたが、そうした努力にもかかわらず環境基準の完全な達成には至っていない。焦点となっているのは窒素酸化物や粒子状物質、オゾン、VOCである[20][28]

自動車が主な排出源である窒素酸化物は、規制強化に伴う事前予想に比べ濃度の低下が小さく、規制が不十分だとする意見もある[28]

ヨーロッパや北米では、娯楽用として、また他の燃料の価格上昇、更に再生可能エネルギーとしてバイオマス燃料が見直された影響などから薪ストーブの使用が拡大した。ヨーロッパでは2010年代に粒子状物質(PM2.5)の排出源の2割を占め、VOCのひとつベンゾピレンの濃度上昇などに寄与した。イギリスでも、2020年のPM2.5の約2割が薪ストーブ由来と推定され、世帯普及率は8%に過ぎないが、道路交通(自動車)より多く、それまでに石炭の使用減少など産業部門で減少した分が相殺されている。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:305 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef