全般に、ジャズという分野であることを踏まえるならば、原曲の旋律は比較的忠実に保持しつつ、拍子の変更によってブルース由来のスウィング感を醸し出すことを狙った編曲といえる[1]。ポピュラー音楽であることを踏まえれば、構成・旋律ともに、原曲に忠実な部類のカバーであるとみることができる[1]。 本件は、音楽業界のそれまでの慣習ではなく[2]、あくまでも著作権法に基づき提起された争訟である[1]。そのため佐藤は、著作権法第20条第1項(同一性保持権)[7]および第27条(翻案権)[8]を根拠として東芝EMI側の不法行為を訴追した[1]。もしこの訴訟が取り下げられていなければ、多少の微妙な点はあるにせよ、最終的には佐藤側の主張に正当性が認められることとなったであろう[1]。 ただし、その「微妙な点」が何かといえば、それは著作権法第20条第2項第4号[9]で置かれている制限規定に関連する問題である[1]。本件は取り下げという結果となったが、仮に裁判で争われた場合、PE'Zの「大地讃頌」が、この著作権法第20条第2項第4号で規定される「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に妥当するか否かが、争点の一つとなりえたであろう[1]。 楽譜をそのままに演奏することが通例であるクラシック音楽の作品が、楽譜と演奏との間に差異を持ち込む演奏慣習を特徴とするジャズによって「改変」されることが、この「やむを得ないと認められる改変」に該当するかどうか、日本の裁判では争われたことがない[1]。もし本件が裁判にまで発展していたならば、著作者である佐藤の「一切の編曲を禁じている」という意思が重視されることとなるのは必至である[1]。東芝EMIが音楽業界の商慣習によらず、法的な争いを避けたのは、予想される裁定からすれば妥当な判断であったともいえる[1]。 本件について、佐藤支持者とPE'Z支持者のいずれからも、裁判ではっきり結論を出してほしかったという声が挙がった[10][1]。東芝EMIは争う構えであったが、PE'Zが「作曲家への敬意を表したつもりが、逆に不愉快な気持ちを与えてしまったのなら……」と佐藤側の言い分を認めたため、東芝EMIもPE'Zの意見を尊重し、出荷停止に至った[1]。しかし、この結論が出た後にも「訴訟になって『音楽とは何か』をきちんと明文化できた方がよかったかもしれない」という声が、佐藤およびPE'Zの支持者それぞれに残った[1]。
法的問題
外部の意見
脚注[脚注の使い方]^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae 「 ⇒第7章 音楽を「所有」すること――「大地讃頌」事件と著作権制度」『聴衆をつくる――音楽批評の解体文法』青土社、2006年8月15日。ASIN 4791762835
^ a b c d e f g h 「 ⇒Case 11:「大地讃頌」」『よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編』(4th Edition)リットーミュージック、2011年3月25日(原著1998年12月10日)、285頁。ASIN 484561927X
^ 佐藤眞『混声合唱のためのカンタータ「土の歌」[二〇〇〇年改訂版]』、大木惇夫作詩、カワイ出版、2001
^ 『朝日新聞』2004年4月3日付夕刊記事「作曲者の権利か演奏者の自由か:「大地讃頌」カバー曲問題」(藤崎昭子)
^ ⇒PE'Z「大地讃頌」CD出荷停止の報道について(日本音楽著作権協会)
^ INFORMATION - PE'Z『大地讃頌』に関するお知らせ
^ 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
^ 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。