大友克洋
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なお手塚本人は、劇画ブーム終焉の要因を大友作品に帰するなど、大友を極めて高く評価していた[注 5]。大友の作品ではしばしばキャラクターのいない、風景だけが大写しにされたコマが続けて描かれるが、風景を物語の説明的な背景として使うのではなく「風景だけで何かを語らせる」というやり方は、それ以前の漫画にはない新しい手法であった[注 6]

ササキバラ・ゴウは、漫画の絵から説明的な意味・文脈を取り去り、人物も風景も同じ質感を持った単なる「もの」として写実的・立体的に描く大友の表現が、漫画の作品世界の中で均質な空間を表現することを可能にしたと指摘している[27]。このことは一面では、箱庭的な物語世界のなかにディテールを描き込むことへの欲求を作家に与え、70年代以降のSFブーム・アニメブームと連動して、作品に細かな世界設定を描きこむ傾向を育てた。このような傾向はのちに士郎正宗らによって徹底的に追究されていくことになる[27]。他面、人物の立体的な造形は80年代以降の士郎正宗や桂正和遊人などの描く美少女像を変化させ、「記号的な顔」と「写実的な肉体」を併せ持つ、日本の漫画表現独特の美少女キャラクターを生み出す一因ともなった[27]。上記に加え、老人を口元に皺を一本入れるというような記号的な方法でなく、骨格から皮膚のたるみまで老人として表現するような大友のデッサン力、建物を様々な角度から正確な遠近法で描き出す描写力、写真や映画などから影響を受けた光学的な表現方法[注 7]などは、以後の漫画界全体の画力を底上げすることになった[29]。この他にも、効果音を描き文字ではなくフキダシを使って描く方法や、超能力などの大きな力によって地面が割れたり、球状にへこんだりするといった表現方法など、大友が始めたことでスタンダードとなった手法は数多い[30]

大友は、それまでは平面的だったマンガやアニメの世界を、生身の骨格を持ったキャラクターたちや、構造を理解した上で描いた高層ビル群などの奥行きのある背景によって、リアルに立体化してみせた[31]。物事をテンプレに沿って描いたり漫画的表現をしたりすることを避け、物も人も現実に即した表現で描写[32]、キャラクターも全く美化せず、見たままのアジア人的な容姿(細い目、低い鼻、短い足、小さい乳房)で描いた[18][33][注 8]。そうすることにより、例え荒唐無稽なストーリーであっても本当にあるかもしれないと読者に思わせることが可能となっている[32]

このような大友のスタイルの斬新さは有名無名を問わず、多くの漫画家に多大な影響を与えた。『ショートピース』刊行前後よりその手法を模倣する漫画家が多数出現。その影響は浦沢直樹[34]守村大東本昌平などの当時の新人だけでなく、福山庸治谷口ジローといった既存の作家にも表れ、作風の変化をもたらした。とり・みきみやすのんきらは大友風のSFX描写を積極的に取り入れた[23]貞本義行は衝撃のあまり、大友の単行本を仕事場に置いて、横で見て手本にしながら、大友の「人間の顔を真っ正面から劇画としてアプローチし、且つ漫画的なデザインセンス」を研究していった[35]。そしてそれは少年誌・青年誌の漫画家だけでなく、吉田秋生などの少女漫画家にも及んだ[9][23]

大友は漫画界のみならず、アニメの世界にも革命をもたらし、その先進性によって世界中から注目されるようになった[31]。大友の長編監督デビュー作となった劇場アニメ『AKIRA』(1988年)は、日本だけでなく世界中のカルチャーに影響を与え続けている[31]。アメリカ映画『クロニクル』(2012年)は監督のジョシュ・トランクが『AKIRA』の影響を口にし、カニエ・ウェストの「Stronger」のMVは映画『AKIRA』の世界観と映像をオマージュしたものになっている[36][37]。また日本の映画の音響面も大友作品以降、大きく進化することになった[31]

アニメーション監督としては安彦良和のファンで、『機動戦士ガンダム』ではなく、それ以降の『巨神ゴーグ』『ヴイナス戦記』などのアニメ作品が好き[4]。また、安彦とは以前は彼のスタジオによく遊びに行っていた仲でもある[4]
SFへの傾倒

デビュー以降、ATG映画のような若者の日常のバカバカしさを漫画にしていたが、1978年頃にメビウスやフランスのSF・ホラー漫画雑誌「メタル・ユルラン」の作家たちの存在を知ったことでバンド・デシネやヨーロッパのコミックに傾倒、いったんSFや西洋モノの作品に引き寄せられた[10][注 9]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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