多言語主義
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多言語対応(多言語化、m17n:multilingualization)ソフトウェアの「多言語化」を「国際化」と対比して述べる場合、「多言語化」ではソフトウェアが扱う内容に注目し、一つのソフトウェアが複数の文字言語文化的慣習を一度に混在させて扱えるようにすることを指す。一方「国際化」ではソフトウェアの利用者に注目し、利用者がもとめる言語や文化的慣習などの要求に応じて、たくさんの言語の中から切り替えて一度には一つだけを使えるようにすることを指す。この場合、多言語化と国際化は補完関係にあり、多言語化されていないが国際化されているソフトウェア(例:国際化された英文ワードプロセッサ)や多言語化されているが国際化されていないソフトウェア(例:操作体系が英語だけで多言語を表示できるウェブブラウザ)もあり得る。ただし、「国際化」と対比しない場合は、多言語を切り替えて利用できるだけの場合も「多言語化」と言う場合がある。

World Wide Web(WWW)上において複数の言語に対応するサイトを多言語サイトと呼ぶ(例:ウィキペディア)。

パーソナルコンピュータ(パソコン)やサーバの一般向けオペレーティングシステム(OS)は、1990年代は概ね多言語用に別ソフトウェア追加や特殊な操作をする必要があったが、2000年代以後はユーザーがOSを自分で設定して、キーボードフォント・言語に沿った日付表示方式などの多言語処理をできるようになってきた。

世界中で事業を行う組織の職員情報や顧客情報を扱うディレクトリ・サービスデータベースでは、人名などをそのまま登録できるように多言語を一度に混在して扱える。

外国語の辞典では、二つ以上の言語をそれぞれ正しい表現で扱える必要がある。


話者ウェールズの多言語主義に関するウェールズ政府の諮問ビデオ、日本語字幕付き

多言語話者(マルチリンガル(: multilingual)、ポリグロット(: polyglot))とは、二種類以上の言語(同じ言語の方言は含まない場合が多い)能力を持っている人のことである。そのうち、二言語話者をバイリンガル(: bilingual)、三言語話者をトリリンガル(: trilingual)、四言語以上の話者をマルチリンガル(: multilingual)と呼ぶ。

しかし、言語をどの程度まで扱える場合に「多言語話者」と定義されるのか(生活に支障がないレベルで十分なのか、母語話者と丁々発止の議論を遣り合える程度なのか、母語習得期に複数の言語を浴びていたのか)は非常に曖昧である。かつ、何をもって一つの言語と数えるのかの議論も輻輳している。詳細は「方言連続体」を参照

マルチリンガルは、状況・話題・聞き手などに応じて言語を使い分けているのが普通である。もっとも、この現象は、複数方言の話者でも行われているので、多「言語」話者にのみ特徴的なこととは言えない。ポリグロット同士の一連の会話で複数の言語を織り交ぜる現象(コードスイッチング)が観察され、それに関する研究も盛んである。

言語は満8歳(7歳説、5歳説も)まででないと母語としての習得は難しいとされる(臨界期仮説)ため、「外国語の習得には若い方がよい」という主張もあるが、単純に過ぎ、有力な反論も多い。また、幼いうちに外国語を身に付けさせると母語の確立が遅れかねないというジレンマがある上、長じても母語の表現力が貧弱なままでとどまったり(「セミリンガル」)、外国語を習得した人材が相次いで国外流出してしまうといった深刻な社会問題に発展する可能性も高い。

自ら外国語を学習して多言語話者となる以外で多言語話者になる要因としては、個人的なものと社会的なものの2つがある。前者の例としては、日本のような圧倒的なモノリンガル社会にやってきた移民や出稼ぎ労働者が当てはまる。後者の事例としては、スイスベルギーなど複数の言語共同体が共存している場合である。

しかし、こういった多言語状態を政府は嫌うのが常で、言語政策言語計画の名の下に「標準語」の策定・普及を推し進め、方言・少数(移民)民族の言語を抑圧し排除されるケースが多々見られる。また、ドイツ語圏アラビア語圏のように同言語の標準語(公共・教育など)と地方方言(日常生活など)に機能的優劣が付けられた社会も存在し、ダイグロシアと呼ばれる。

ちなみに、一言語のみ習得している者はモノリンガル(: monolingual)、二言語の環境で育ち、その両言語において年齢に応じたレベルに達していない者はセミリンガルと呼ばれる[1][2][3]。近年は、セミリンガルという言葉が否定的だという意見が増え、ダブル・リミテッド(ダブルリミテッド)という名称が広まりつつある[4][5]。一方、市川力は、外国語で教育された者だけでなく母語だけで教育された者も「セミリンガル」になる可能性はある、母語だけで教育されれば無条件で「モノリンガル」になるという感覚はおかしい、という考えから敢えて「セミリンガル」という単語を使用している(2004年時点)[6]。ダブル・リミテッドは、日本においては帰国子女や日本に住む外国人児童の間に散見されるため、特に教育関係者の懸案事項となっており、言語学や教育学の専門家による研究が広く行われている[7][8]

言語獲得は環境および年齢差・個人差が大きい上に、日常会話能力(BICS)はバイリンガルであっても、抽象思考や学習のための言語能力(CALP)がダブル・リミテッドの状態にあり教科学習に支障をきたす者もいる。何をもってバイリンガル、何をもってダブル・リミテッドと判断するのかは未だ曖昧である。
2つ以上の公用語、準公用語が存在する国

この中には、国民の一定数、あるいは相当数が非識字、つまり2つ以上の公用語を使いこなす以前に読み書き自体ができない層である国がいくつか存在することに留意すべきである。
北米

アメリカ合衆国:国家レベルでは法定の公用語はないものの国の起こりがイギリスの植民地であったことから英語が事実上の公用語である。またレベルでは公用語が規定されている場合がある。ニューメキシコ州スペイン語ハワイ州ハワイ語など、州によっては別の言語が英語と併せて公用語指定を受けている。アメリカ全域においては、ATMなど公共の場でスペイン語が併記されていることが多く、スペイン語学習者も多いことから、スペイン語が事実上アメリカ国内における第二言語(英語の母語話者にとっては第一外国語)と化している。これは、近年増加しているヒスパニックの影響と推定される。コモンウェルスであるプエルトリコは、1902年フォラカー法によりスペイン語と英語が公用語となっているが、住人の大多数は英語はほとんど使わず、スペイン語しか話さない。

カナダ:元々、イギリスの植民地であったことから英語が優勢であるものの、連邦政府としては英語とフランス語の二言語を公用語として平等に扱うことが明文化されている。なお、フランス系カナダ人住民が大半を占めるケベック州ではフランス語のみが公用語として指定されている。

中南米

ニカラグアスペイン語が公用語であるが、カリブ海側の先住民ミスキート族英語ミスキート語を話すため、ニカラグア内戦中の憲法改正により、この二語が大西洋岸の2自治州において公用語に定められた。

ペルー:征服時からの事情により、スペイン語が主な公用語であるが、人口の半数近いインディオ住人のため、ケチュア語アイマラ語も公用語になっている。

ボリビア:ペルーと同じくスペイン語の他にケチュア語、アイマラ語、グアラニー語が公用語である。

パラグアイ:人口の約80%がグアラニー族とのメスティーソであり、バイリンガルであるため、スペイン語と共にグアラニー語が公用語となっている。

アルゼンチン:パラグアイ国境付近のメソポタミア地方コリエンテス州においてはスペイン語と共にグアラニー語も公用語である。

アジア

インドヒンディー語の他、英語など多数あり、その数は21にも及ぶ(インドの公用語の一覧インドの言語参照)。


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