多発性骨髄腫
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多発性骨髄腫による骨の痛みは脊髄肋骨にみられることが多く、運動することにより悪化することがある。同じ部分が持続的に痛む場合は、病的骨折を生じている可能性がある。脊椎に病変がある場合は、脊髄圧迫を引き起こす場合がある。

多発性骨髄腫では、増殖した腫瘍細胞によってIL-6 が放出される。IL-6は破骨細胞を活性化する因子(OAF:osteoclast activating factor)としても知られ、IL-6によって活性化された破骨細胞が骨を吸収・破壊するため、多発性骨髄腫に侵された骨をレントゲン撮影すると、骨に穴が開いているように見える(打ち抜き像:"punched-out" resorptive lesions)。また、骨の破壊によって血中カルシウム濃度が高まり、高カルシウム血症や、それに起因する様々な症状が発生する。
感染症

多発性骨髄腫患者で発生しやすい感染症に、肺炎腎盂腎炎帯状疱疹などがある。肺炎の病原体としては、肺炎連鎖球菌黄色ブドウ球菌・肺炎桿菌(はいえんかんきん)などがある。腎盂腎炎の病原体としては、大腸菌やグラム陰性細菌などがある。

多発性骨髄腫が発症すると、抗体の製造能力が低下する。そのため、免疫不全が引き起こされ、上記のような感染症のリスクが高まる。
腎障害

急性腎不全も慢性腎不全も起こりうる。その一般的な原因としては、高カルシウム血症や、腫瘍細胞から異常産生されるグロブリン軽鎖による腎尿細管障害がある。

その他の原因として、繰り返す腎盂腎炎、腫瘍細胞浸潤などがある。M蛋白のうち軽鎖部分はアミロイドを形成しやすく,腎糸球体へのアミロイド蛋白沈着(アミロイドーシス)による腎障害も起こり得る.

骨髄腫患者の50%以上に腎障害が出現するといわれている.
貧血

骨髄腫で認められる貧血は一般的には正球性・正色素性貧血である。骨髄における腫瘍細胞の浸潤とサイトカイン産生により、骨髄での赤血球産生が抑制されておこると言われている。
神経症状

よくある問題として、高カルシウム血症による易疲労感・脱力感・意識障害がある。頭痛・視覚障害・網膜症は異常産生されたグロブリン蛋白によって血液の粘稠度が高まることにより生じうる(過粘稠症候群)。腫瘍細胞が脊柱管浸潤に浸潤すると、脊髄圧迫による根性疼痛・膀胱直腸障害がおこり、さらに進行すると麻痺を生ずる。また、アミロイド蛋白の蓄積によって末梢神経障害を生ずることもある(アミロイドーシス)。
検査
血液検査

蛋白分画

免疫電気泳動

免疫固定法

尿検査

蛋白尿

ベンス=ジョーンズ蛋白

クレアチニン・クリアランス

画像

X線単純撮影: 骨に「打ち抜き像 (punched out lesion)」と呼ばれる骨融解像がみられる。

シンチグラフィ

コンピュータ断層撮影(CT)

核磁気共鳴画像法(MRI)

診断
診断基準

一般的には、2003年6月に「国際骨髄腫作業班(International Myeloma Working Group:IMWG)」が発表した診断指針があり、世界的に広く用いられている。その後2009年4月に更新されている。

IMWG Criteria

疾患診断基準
いずれも3つの項目すべてを満たす
症候性多発性骨髄腫
Symptomatic multiple myeloma@骨髄中単クローン性
形質細胞が10%以上
または骨髄生検での形質細胞腫の確認
A血清または尿中に単クローン性蛋白の確認
B骨髄関連臓器障害が1つ以上(以下の項目)
[C]血中カルシウム(Ca)上昇(血清Ca値 ≧ 10.5mg/dlまたは基準値以上)
[R]腎不全(血清クレアチニン(Cr)値 > 2mg/dl)
[A]貧血ヘモグロビン(Hb)値 <10g/dlまたは基準値より2g/dl以下)
[B]溶骨性病変または骨粗鬆症
MGUS
Monoclonal gammopathy of undetermined significance@血清単クローン性蛋白低値
A骨髄中単クローン性形質細胞が10%未満
Bクローン性形質細胞疾患による末梢臓器障害がない(以下の項目)
・血清Ca、Hb、血清Crが正常値
・全身X線検査や他の画像検査で骨病変がない
アミロイドーシスやL鎖沈着病の臨床兆候や検査異常がない
くすぶり型または無症候性骨髄腫
Smoldering or indolent myeloma@血清中単クローン性蛋白が3g/dl以上
A骨髄中または骨髄生検での単クローン性形質細胞が10%以上
Bクローン性形質細胞疾患による末梢臓器障害がない(以下の項目)
・血清Ca、Hb、血清Crが正常値
・全身X線検査や他の画像検査で骨病変がない
アミロイドーシスやL鎖沈着病の臨床兆候や検査異常がない
骨の孤立性形質細胞腫
Solitary plasmacytoma of bone@骨生検において1ヶ所だけに単クローン性形質細胞腫が確認
X線MRI・FDG-PETにおいて原発部位以外では病変がない
原発病変が関連しても血清ないし尿中のM成分は低値
A骨髄中に単クローン性形質細胞がない
B他の骨髄腫関連の臓器機能障害がない

なお最新版は2014年版である。
病期分類

2005年に「IMWG」が発表した国際病期分類が広く用いられるようになった。

IMWG International Staging System:ISS

病期(Stage)基準(Criteria)
I血清β2ミクログロブリン < 3.5mg/L かつ 血清アルブミン(Alb)≧ 3.5g/dL
IIstageI III以外
III血清β2ミクログロブリン≧5.5mg/L

注: IIには以下の2つが含まれる。

血清β2ミクログロブリン < 3.5 mg/L で血清アルブミン < 3.5 g/dL のもの[21]

血清アルブミン値にかかわらず血清β2ミクログロブリン ≧ 3.5 mg/L かつ < 5.5 mg/L のもの[21]


R-ISS

病期(Stage)基準
IISS Stage I かつiFISHにてStandard risk CAかつStandard risk CAかつ血清LDH正常範囲
III とIII 以外
IIIISS Stage III かつiFISHにてHigh risk CAまたは血清LDH高値


ISS stageI, II, III に加えて
間期核FISH(iFISH)による染色体異常(CA)high risk:del(17p)かつ/またはt(4;14)かつ/またはt(14;16)ありstandard risk:high risk CAを認めないLDHNormal:血清LDH≦正常上限High:血清LDH>正常上限
治療

基本的に「症候性多発性骨髄腫」が治療適応である。年齢と状態によって治療方法が選択される。

65歳未満:自家
造血幹細胞移植(ASCT)+高用量化学療法(HDT)による寛解導入療法
65歳未満で臓器機能が保たれている初発例の場合、化学療法に加えて自家造血幹細胞移植を行うことが標準治療である。1 寛解導入療法:以下のいずれかが選択される。ボルテゾミブデキサメタゾン(BD療法)
レナリドミドデキサメタゾン(LD療法)
ボルテゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン(BLD療法):LD療法と比較して生存期間を延長
ボルテゾミブ
ドキソルビシンデキサメタゾン(BAD療法)ボルテゾミブ+シクロホスファミド+デキサメタゾン(BCD療法)
ボルテゾミブサリドマイドデキサメタゾン(BTD療法):サリドマイドが初回治療について保険適応外。ビンクリスチンドキソルビシンデキサメタゾン(VAD療法):従来用いられてきたが、新規薬剤の登場により選択されなくなっている。大量デキサメタゾン療法2 CPA大量投与+G-CSFにて末梢血幹細胞採取3 メルファラン(MEL)大量投与(HDT)4 自家造血幹細胞移植(ASCT)移植後の地固め療法や維持療法については有用とする報告があるものの、サリドマイドによる末梢神経障害やレナリドミドによる二次発癌などの問題があるとされる。

65歳以上:多剤併用化学療法

従来MP療法やCP療法が用いられていたが,近年ではボルテゾミブ、レナリドミド、ダラツムマブなどを組み合わせた治療法が標準的である.

以下の化学療法が行われ、D-MPB療法およびD-Ld療法の推奨度が高いが、患者の状態に応じてレジメンが選択される。

D-MPB療法:ダラツムマブ(DARA)+メルファラン(MEL)+プレドニゾロン(PSL)+ボルテゾミブ

D-Ld療法:ダラツムマブ(DARA)+レナリドミドデキサメタゾン

MPB療法:メルファラン(MEL)+プレドニゾロン(PSL)+ボルテゾミブ

MPT療法:メルファラン(MEL)+プレドニゾロン(PSL)+サリドマイド


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