多摩川
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河口付近は、左岸(東京都大田区)には羽田空港が建造され護岸化されているが、右岸(神奈川県川崎市川崎区)や中州には泥や砂が堆積し、河口から数 km にわたり、東京湾内では比較的広い干潟ヨシ原が形成されている。

かつての多摩川河口付近は遠浅になっていたため、江戸時代より新田開発のための干拓が始まっていたが、大正期以降にはさらに工業団地造成のための埋立が進められ、海岸線の姿は大きく変貌した。

この河口付近では、かつては海苔養殖捲き漁が盛んに行われていた。高級海苔の代名詞として呼ばれた「浅草海苔」は、かつて養殖されていた浅草付近の市街地拡張に伴い養殖漁業が周辺地域に移っており、18世紀初頭には品川・大森での養殖が盛んであったが、河口付近では明治4年に大師河原(現在の川崎市川崎区)で養殖が始まり、産した海苔は「大師のり」と呼ばれ高級浅草海苔として取引されたという。また、河口付近の遠浅の海ではアサリハマグリバカガイ(アオヤギ)が大量に獲れ、羽田・大森ではウナギカレイコチギンポアイナメエビなどが水揚げされる、豊かな漁場であった。

ところが昭和時代になると、京浜工業地帯鶴見寄りから進められた埋め立てが多摩川河口付近まで及ぶとともに、工場廃液による海の汚染が進んだ。昭和30年代になると獲れた魚が油臭くて買い手がつかなかったという。また昭和44年になると多摩川河口付近でも埋立計画が立ち上がったことを受け、河口付近の沿岸漁業は昭和48年漁協漁業権を手放すことで終焉となった[55][56]

しかし、今なお多摩川河口には僅かながらも貴重な干潟環境が残っている。こうした環境は、今や東京湾内では当地のほかに三番瀬谷津干潟盤洲干潟小櫃川河口付近)、富津干潟など限られた地域に残るのみで、東京湾西岸では唯一の天然干潟でもある。このため2000年代に入ってから詳細な調査が進められており、「日本の重要湿地500」に選定される[57]など希少かつ貴重な環境として認識されている。

河口付近の岸辺は汽水域になっており、泥質および砂質の干潟が共存している。また潮の干満の影響を受けるため好気的な環境が維持され、こうした環境は好気性生物による水質浄化(BODCOD低下)作用が高いことに加え、現在でもたとえば下記のような底生生物が確認されている(詳しくは文献[54]を参照)など、僅かな空間にもかかわらず多様な生態系が維持されている。
泥質
アサリアナジャコ、カワザンショウガイ類、ゴカイ、コブシガニ、サビシラトリガイ、シオフキガイ、ソトオリガイ、ハサミシャコエビ、ホトトギスガイヤマトシジミトビハゼヒモハゼ、オサガニ
砂質
コメツキガニチゴガニヤマトオサガニ
ヨシ原
アシハラガニ、ウモレベンケイガニ、クロベンケイガニ
石表面や岸壁など
アカテガニケフサイソガニコウロエンカワヒバリガイフジツボ類(アメリカフジツボ、シロスジフジツボ、タテジマフジツボ、ドロフジツボ、ヨーロッパフジツボ)、フナムシマガキ
水中
チチブテッポウエビユビナガホンヤドカリ、ユビナガスジエビ、マハゼイソギンチャク

この他、近年になりアサクサノリの自生が確認された。また河底ではハマグリが生息しているものと推察される[58]など、東京湾では希少になった干潟的環境における生態系の豊かさが再確認されている。

鳥類は、冬にウミネコユリカモメスズガモヒドリガモハシビロガモオナガガモなどが群れで訪れて越冬しているとともに、夏にはコアジサシの繁殖地にもなっている。また周辺地域でも見られるカルガモハクセキレイ白鷺類などの姿は周年観察される。一方、かつては旅鳥が多く訪れていたとの記録があるが(後述)、現在[いつ?]は春・秋の短期間にシギチドリ類が旅鳥として稀に立ち寄る程度になってしまっている。
大正期までの河口付近

かつては東京湾の他の地域と同様、多摩川河口付近には遠浅の干潟様環境が広がっており、旅鳥または冬鳥としてシギ・チドリ類が多数訪れていた。

鳥類学者の黒田長禮は、1909 - 18年にかけて、付近の黒田家鴨場(現在の羽田空港ターミナルビル付近)、末廣島(現在の川崎区浮島町付近)、羽田町麹谷(現在の大田区東糀谷付近)にて観察を行い記録している[注 2]

文献によれば、下記で普通種として示した種は数百羽の群れで訪れることも少なくなかったことや、シロチドリハマシギなどは冬鳥として多数飛来していたこと、当時はタゲリが 7月など夏場を除く長期間にわたり見られたなど、冬鳥の越冬地としても賑わっていた様子がうかがえる。
普通種・渡来数多
ダイゼンシロチドリキョウジョシギホウロクシギチュウシャクシギオオソリハシシギキアシシギトウネンハマシギ
普通種・渡来数少
イソシギアオアシシギ
少なめ
メダイチドリダイシャクシギオグロシギツルシギオバシギ

タゲリムナグロアカアシシギクサシギ(冬鳥)、ソリハシシギヘラシギ
迷鳥
オオメダイチドリハシボソシロチドリ学名を Agialitis alexandrina alexandrina としている)、カラフトアオアシシギミユビシギキリアイ
漂鳥
コチドリ

この他、タシギヤマシギについては河口付近ではなく、近隣の水田(大正期までの河口付近は稲作地帯であった)に多数が飛来したと記載されているが、本書が記された当時には既に減少しており、稀に見るのみになっていたとある。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 1坪は6立方で、およそ10トンである。


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