外物
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外物を学べたのは一部の者であり[2]、武術を学んでいるからといって誰でも危急に対処できるわけではない。
鳥のささいな行動から伏兵や刺客を察する逸話

外物という語の形成以前から日本の兵法書では危急の変に備えての対処法・心構えといった外物に当たる概念が古くから説かれてきた。例として、『闘戦経』の序では2つの例を引用している。

「(前略)、ゆえに奥羽の逆乱(において源義家が敵を征伐しようとした時)、川の行乱すに(田に降りようとした雁が行を乱して飛び去ったのを見て)伏賊を察す。」


「鶴岡の災変(建保7年(1219年正月源実朝が右大臣拝賀の為、鶴岡八幡宮に参った時、別当公暁に討たれた事件)、社たちまち堕るに(一羽の鳩がしきりに鳴き続けていた=何らかの異常を察していたので)、刺客を考す(兵法師範の大江広元は危険を察知し、実朝の束帯の下に覆巻=軽武具を着用するように勧めた)。」

以上の例のように、古来から日本兵法では危急の変の対処を説いてきた。
備考

以上の事柄・内容からも、泰平の世になった武家における教訓話的な意味合いもあるが、機知がとっさ的な動作であるのに対し、外物は経験上から得た部分が大きい。例えば、1人道中にいる時に履物の紐が切れたので、結ぶ為にかがむ体勢を取るが、これは
介錯と同じ体勢になる為、奇襲された際、容易に首をはねられてしまう。その為、樹や壁を背に向け、死角を消すといった用心も外物の一つである。

武士が常時二刀でいるのも、儀礼や用途に応じて使いわけるだけでなく、気付かずに敵に長刀を奪われた際、何で闘うかといったら、当然、残った短刀での戦闘が想定される[11](「懐刀での外物」。三刀も持っていたら、奪われてやられかねない)。手裏剣代わりに小柄を投げるのも、危急の際の対処法であり、外物に入る。

敷居の上を踏まないとした武家の作法も、床下から来る暗殺を考慮した外物といえる。また、武家作法では、杯でを飲む際(または扇子で扇ぐ時)、左手を用いた。これも危急の際に武器を用いる利き手が怪我をしない為の構え=想定である[12]。逆に、主君が門まで送り返す時は、信頼の証として、後ろを一度も振り向かないという作法があり、主を疑わないという態度を表すことは、「外物=いかなる時も対処する態度」が成立しづらい場面もあったことを示す。

外物は「常在戦場」の体現であり、実戦性が低くなった泰平の世では好まれなかった面もあり、道場剣術では教えない事も多かったとされる[2]

江戸期の道中旅行をする際の注意を書いた本『旅行用心集』には、宿に泊まる際は、必ず出入り口の場所と数を覚えろというものがあり[13]、火事など大事が起こった際の逃げ道の確保を説いた。泰平の世になり、基本的な外物についていちいち記したのは、逆にいえば、それだけ治安がよくなり、不用心になった為でもある。

出典・脚注^ 山神 真一,和田 哲也『居合と剣術の技法に関する一考察--武術における外物との関係から』香川大学教育学部研究報告. 第1部 / 香川大学教育学部 編 1987年 69号
^ a b c d e f g h i j k月刊剣道日本 特集 不動智神妙録』 1980年 pp.112 - 113
^ 外物は武器に限定した術ではないし(伯耆流では、当身も外物として語っている)、まして暗器を指したものでもなく、特定の武器術を指した語でもない。
^ 宮本武蔵は『五輪書』において、剣術に対し、「槍や薙刀を外(と)の物という」と記している。
^ 伯耆流居合など。流派によって指すものは異なる。少なくとも、兵法書として「外物」の語を用いている以上、「それ以外」という意味ではない。
^ 子を戸口で襲うといった武家の教育は、近世以降も一部で続いており、斎藤一の長男が子に対して行っている(斎藤一#剣術の晩年の方も参照)。
^ 読売新聞 2011年1月19日水曜付、一部参考。暗殺を恐れて常に寝室を変えるという話だけなら始皇帝の行動がある(『史記』)。徳川家康の場合、いつでも出陣できるよう、座ったまま寝たという逸話があり、忍者なら横寝をする際、必ず左半身を下にし、いきなり襲われても心臓だけは守れるような体勢で寝た。
^ 甲野善紀 『武術の新・人間学』 2002年
^ 甲野善紀 『武術の新・人間学』 PHP文庫 2002年 ISBN 4-569-57843-8 pp.73 - 74
^ 『新陰流外物謀略之巻』「一、囲炉裏之大事」。本項では、逸話で囲炉裏外物の例をあげる。
^ 例として、鎖鎌術の流派の型(二刀神影流鎖鎌術など)では、鎖分銅で長刀を奪われた側は、とっさ的に短刀を手にして最後の抵抗を試みる動作がある(予測せず、一刀を奪われた場合の短刀の使用例)。
^ 『歴史読本 特集天皇家の閨閥 明治・大正・昭和の皇室 昭和六十三年三月号』 新人物往来社
^ 『卜伝百首』では、さらに廊下や屋根の状態、宿の内外を熟知しておけと説く。

参考文献

月刊剣道日本 特集 不動智神妙録』 1980年

甲野善紀 『武術の新・人間学』 PHP文庫 2002年 ISBN 4-569-57843-8

闘戦経』 2011年


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