ただし野外で変形菌の存在を肉眼で確認できるのは子実体またはその直前の変形体の状態であり、本来の生育場所(アメーバ細胞や変形体が生育している場所)とは離れていることもある[6][7]。変形体は基本的に負の走光性を示し、倒木中や腐植層などに生育しているが、光や飢餓などが刺激となって子実体形成期になると、明るい場所や乾燥した場所、高い場所(胞子散布に適した場所)へ移動し、そこで子実体形成・胞子散布を行う[7]。そのため、人工物の表面で子実体を形成することもある(上図8k)。
温帯域では、変形菌の子実体はおおよそ決まった季節に出現する[25]。日本では、春に発生するものもあるが、多くは梅雨の中休みや梅雨明けから見られるようになり、夏期に最も種数が多い[25][35][36][37]。ただし特に山地帯では、メイランアミホコリ(アミホコリ目)、オオクダホコリ(ドロホコリ目)、エツキケホコリ、ヌカホコリ(ケホコリ目)、ルリホコリ、メダマホコリ(モジホコリ目)など秋に発生する種も多い[25][38]。また1年の中で、早春と秋、初夏と秋のように2回子実体が発生する種もいる[25]。冬期には、変形菌は変形体や菌核として倒木の中や落葉層下で過ごしている[39]。特殊なものとして、1年のうち数ヶ月雪に覆われる地域において、春から夏の融雪時にその下の植物遺体や生植物上から変形菌の子実体が生じることがある[7][25]。このような変形菌は好雪性変形菌(好雪性粘菌, nivicolous myxomycetes, cryophilous myxomycetes)とよばれ、ヤマケホコリ(ケホコリ目)、クロミルリホコリ、アイルリホコリ(クロミルリホコリ目)、カレスチアルリホコリ、ザウタールリホコリ、ハイカタホコリ、ハイキララホコリ、ツブキララホコリ(モジホコリ目)などがある[7][25][40][41]。 変形菌の栄養体(通常時の体)は単核のアメーバ細胞・鞭毛細胞、または多核体である変形体である。アメーバ細胞・鞭毛細胞は細菌を捕食または可溶性有機物を吸収するが、さらに変形体は酵母や菌糸、胞子、他の原生生物、生きていない有機物片なども食作用によって取り込み、細胞内消化する[3][6][7][11][16]。また少なくとも一部の変形菌は、消化酵素を分泌してキノコなどを細胞外消化し、可溶性有機物を吸収することができる[3][6]。 培養に基づく調査からは、土壌中の原生動物群集において変形菌が大きな割合を占めていることが示唆されており、いくつかの畑の土壌では全アメーバの50%以上を変形菌が占めていると報告されている[16]。またメタトランスクリプトーム
生態的機能
このようにおそらく土壌中での変形菌の生物量は大きく、微生物捕食を通じて、微生物群集のサイズや種組成に大きく影響していると考えられている[16]。さらに変形菌は微生物を捕食・分解することにより、おそらく物質循環にも重要な役割を演じる。例えばアメーバ類は細菌を捕食して土壌中にアンモニアを放出し、植物の成長に寄与することが示唆されている[16]。
他生物との関係9a. 変形菌食性のマルヒメキノコムシ属(ヒメキノコムシ科)9b. ケホコリ(ケホコリ目)の子実体上に寄生した Byssostilbe(子嚢菌門フンタマカビ綱)
上記のように、変形菌は微生物(細菌、菌類、他の原生生物)の捕食者であるが、変形菌を食物とする生物も存在する。変形菌の子実体には、カタツムリやダニ、トビムシ、双翅目(幼虫)、甲虫などの動物が集まっていることがある[43][44]。特に甲虫が多く知られており、変形菌食性の種が含まれる科としてタマキノコムシ科、デオキノコムシ科、タマキノコムシモドキ科、マルハナノミダマシ科、テントウダマシ科、ヒメマキムシ科、ツツキノコムシ科、ヒメキノコムシ科がある[43][45]。変形菌の属によって、集まる甲虫の種構成が異なることが報告されている[45]。このような甲虫の中で、ヒメキノコムシ科(図9a)が最も普遍的であり、変形菌子実体でのみ見つかり、幼虫も成虫も変形菌子実体を食物としている。ヒメキノコムシ科の成虫はしばしば変形菌の胞子を多数付着させており、また大顎に胞子の運搬に関わると考えられている窪みが存在する[43][44][46]。この甲虫は、おそらく変形菌の胞子散布に寄与していると考えられている。一方でセスジムシ科やベニボタル科の甲虫は、変形菌の変形体捕食者であると考えられている[47]。
変形菌の子実体上には菌類が寄生していることがあり[44]、Nectriopsis やByssostilbe、Melanospora(子嚢菌門フンタマカビ綱)、Acrodontium(子嚢菌門クロイボタケ綱)などが報告されている[25](図9b)。