このように、変形菌における生活環は、ふつう有性生殖と連動している。しかし、このような生活環が有性生殖と連動せずに無性的に起こることもある。この場合、子実体が減数分裂ではなく体細胞分裂によって胞子を形成(単相または複相)、この胞子から発芽した細胞が配偶子合体を経ずにそのまま変形体に成長し、子実体を形成する[4][6][9]。単一の胞子に由来する株が変形体・子実体形成をする場合、ホモタリック(同一株内での配偶子合体が起こる)であると考えられていたが、実際にはこのような例の多くが上記のような無配生殖(配偶子を経ない生殖)であることが示されている[6](2016年現在、確実にホモタリックである例は知られていない[9])。
アメーバ細胞・鞭毛細胞3. カタクミホコリ属(ムラサキホコリ目)の胞子と発芽した細胞
胞子が発芽すると、1個の核をもつアメーバ細胞(粘菌アメーバ[10]、粘液アメーバ[11] myxamoeba)または鞭毛細胞 (myxoflagellate, flagellate cell[12], swarm cell[6]) が生じる[6][7][11](図3)。アメーバ細胞は糸状の副仮足をもつ[8][13]。一方、鞭毛細胞はふつう2本鞭毛性であり、細胞頂端から前方へ伸びる長鞭毛と、後方へ伸びる短鞭毛をもつ[6]。長短鞭毛とも小毛を付随しない(むち型)[11]。発芽後のアメーバ細胞と鞭毛細胞の間は、水分条件などによって変換することがある[注 3](水分が多いと鞭毛細胞になる)[3][5][6][7][8][11]。ただし鞭毛細胞を欠く例も知られている[14]。
アメーバ細胞や鞭毛細胞は、細菌などの有機物粒子を捕食、または可溶性有機物を吸収する[3][6][8][11]。アメーバ細胞は、二分裂によって増殖する[3][6][8][11]。この二分裂において、核分裂は開放型(核膜が消失する)であり、極には中心体が存在する[6]。染色体は小さく、確認が難しい[3]。核ゲノム塩基配列はモジホコリ(モジホコリ目)の無菌株においておおよそ解読されているが、繰り返し配列が多く、解析を困難にしている[3]。リボソームRNA遺伝子は染色体上には存在せず、プラスミド上に多コピーが存在する[3]。生活環を通じて、変形菌のミトコンドリアは管状クリステをもつ[15]。
不適な環境下では、アメーバ細胞はガラクトサミンを含む細胞壁を形成し、ミクロシスト (microcyst) とよばれる耐久細胞になる[6][16]。好適な環境になると、ミクロシストは発芽してアメーバ細胞または鞭毛細胞を生じる[6]。
変形菌の中には、単核のアメーバ鞭毛細胞である時期のみをもち、少なくとも培養下では変形体や子実体を形成しないものも知られている。このような生物は、Hyperamoeba に分類されていた[4][17]。分子系統学的研究からは、Hyperamoeba とされる生物が多系統群であり、モジホコリ属やカタホコリ属、ムラサキホコリ属などさまざまな系統の変形菌を含んでいることが示されている(2020年現在では Hyperamoeba は、モジホコリ属のシノニムとされている)[18]。このことは、変形体・子実体形成能の二次的欠失が、変形菌の中で独立に何度も起こったことを示唆している[4][19]。 アメーバ細胞または鞭毛細胞は配偶子としても機能し、対応する交配型の細胞が合体して複相の接合子となる[5][6][7][8][11]。
変形体