変形菌
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変形菌の胞子嚢中には、胞子と共にふつう糸状の構造を含んでおり、この構造は細毛体 (capillitium, pl. capillitia) とよばれる[3][6][21](上図5n, 下図6)。細毛体はふつう分枝した糸状構造であり、網状になるものもある。一端または両端が子嚢壁や軸柱に付着しているものや、両端が遊離しているものがある[3][6][21]。細毛体の表面は、平滑なものから、とげ状、環状、らせん状、網状などの構造で装飾されたものがある[21](下図6b, c)。また細毛体は、中空のものと、中実のものがある[21]。コホコリ目は細毛体を欠く[27]。モジホコリ属(モジホコリ目)などでは、細毛体の所々で石灰が多量に蓄積し、石灰節を形成している[21][8]。細毛体は、胞子どうしが密着しないようにするとともに、胞子が少しずつ散布されることに寄与する[6]。子嚢壁が破れると細毛体の塊が膨らみ、胞子はその間から次第に風に飛ばされて飛散する(上図5n)。ケホコリ属(ケホコリ目)の細毛体は顕著な乾湿運動(湿度変化による形態変化)によって胞子散布を補助しており、特に弾糸 (elaster) とよばれることもある[6][7]

また着合子嚢体や偽着合子嚢体では、子嚢壁や柄などに由来する細毛体に似た構造(糸状構造、または柱状、膜状、板状の構造)が存在することがあり、偽細毛体(擬細毛体 pseudocapillitium, pl. pseudocapillitia)とよばれる[6][21]。ススホコリ属(モジホコリ目)では、細毛体と偽細毛体が混在する[6][21]6a. ムラサキホコリ(ムラサキホコリ目)の軸柱と細毛体6b. ホソエノヌカホコリ(ケホコリ目)の細毛体6c. ウツボホコリ(ケホコリ目)の細毛体と胞子6d. ダイダイアミホコリ(アミホコリ目)の壁網と胞子6e. シロエノカタホコリ(モジホコリ目)の胞子と石灰質結晶

胞子嚢(子嚢)中では、減数分裂または体細胞分裂によって胞子 (spore) が形成される[6][8]。子実体1個あたりの胞子数は多様であり、2個のものから1000億個に達するものまである[3]。個々の胞子はふつう分離しているが、複数の胞子が接着して着合胞子となっていることもある[21][31]。胞子は直径 4?20 μm ほど(多くは 8?12 μm)[3][6][7]、ふつう球形であるが、楕円形や卵形、多角形、腎臓形、ソーセージ形のものもある[6][21]。厚い胞子壁で囲まれ、表面は平滑のものもあるが、ふつうトゲやイボ、網目状の突起で装飾されている[6][11][21][31]。胞子壁の主成分としてガラクトサミンが報告されている[6][7]。胞子壁は黄色、紅色、褐色、青緑色、紫褐色、黒色など多様であるが、明色のもの(上図6b?d)とメラニンを含み暗色であるもの(上図6e)に大きく分けられる[5][8]分子系統学的研究から、この違いは変形菌を構成する2つの大きな系統群にほぼ対応することが示されている[27]下記参照)。また胞子の塊としての色は白色、黄色、紅色、紫色、褐色、灰色、黒色など多様であり、顕微鏡下での胞子壁の色とは必ずしも一致しない[6]。胞子は複数のを含むことがあるが、成熟した状態では単核である[6][11]。胞子は貯蔵物質として脂質顆粒とグリコーゲンを含む[6]7. 変形菌の胞子をつけたワラジムシ

胞子はふつう風、ときに水(雨)や動物によって散布される[6](図7)。雨によって散布される胞子の胞子壁は、疎水性の網目状突起をもつ[3][6]。胞子はふつう数年間休眠することが可能であるが、75年前の変形菌標本の胞子が発芽した記録もある[6][7]
生態
生育環境8a. 林内のススホコリ属(モジホコリ目)の変形体

変形菌は熱帯から寒帯域まで世界中に分布しており、おもに子実体の観察に基づいた分布情報が充実している[3]。このことは、そのような情報がほとんどない他の多くの原生生物とはかなり異なっている[3]。ただし変形菌の実際の栄養体であるアメーバ細胞や鞭毛細胞の分布は、子実体から推定される分布よりもかなり広いものと考えられている[3](下記のように子実体形成能を欠いているものもあると考えられている)。広い分布域をもつ温帯性の種や熱帯性の種が知られており、ヨーロッパの温室で熱帯性の種が子実体を形成することもある[3]。一方で、非常に限られた分布を示す種もいる[3]。ただし広域分布種とされる例の多くは、実際には地域ごとに遺伝的に分かれていることが示されている[16]

変形菌は基本的に陸上環境に生育しており、特に森林で多く見られるが(図8a)、草原耕作地、さらには砂漠に生育するものもいる[3][6]。変形菌の分布を決める主な要因は温度と湿度である[16]。またpHにも影響され、例えばエダホコリ属(ムラサキホコリ目)の一部の種は酸性の樹皮にのみ見つかる[3]。一般的に、陸上植物の多様性・生物量が大きい場所ほど、変形菌の多様性も大きい傾向がある[3][16]。都市緑地でも子実体が発生することがあり、環境指標への利用の可能性も指摘されている[32]

例外的に、変形体・子実体形成を行わない単細胞性鞭毛アメーバである "Hyperamoeba" は(上記参照)、淡水や海からも見つかり、またウニの体腔内からも報告されている[4][17][33]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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